大前研一「ニュースの視点」Blog

KON731「米朝首脳会談 ~雪解けしたあと、北朝鮮と日本の問題はどのような展開が予想できるか?」

2018年6月22日 米朝首脳会談

本文の内容
  • 米朝首脳会談 非核化合意の共同声明に署名

米朝首脳会談は、トランプ大統領演出のテレビショー


トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩委員長は12日、史上初となる米朝首脳会談を行いました。対談後、両首脳は新たな米朝関係を確立するとともに、朝鮮半島の平和体制構築及び完全非核化へ向けた努力を約束することを盛り込んだ共同宣言に署名しました。

今回の会談・声明についての海外の主要メディアの反応を見ると、以下のようになっています。

ニューヨークタイムズ:声明の内容があいまい
ウォール・ストリート・ジャーナル:中身がない
ワシントン・ポスト:具体性のない声明
USAトゥデイ:韓国に不意打ちを食らわせた
ファイナンシャル・タイムズ:勝者は金正恩委員長
エコノミスト:トランプはショーマンシップを発揮

私の率直な印象を言えば、エコノミストの感覚に非常に近く、トランプ大統領は「テレビショー」と同じように、今回の会談を演出したということです。

メディアからは共同声明の内容に具体性がないなどと批判されても、トランプ大統領としては気にしていないでしょう。「金正恩委員長が出てきて、サインをした」という今までになかったことを「演出」できたのですから成功だ、という認識だと思います。一般の人の感覚からも、もちろん外交筋の感覚からも大きくズレています。

ただ一方で、これまでの外交筋のやり方も成功していたわけではなく、全て失敗してきました。その点から言えば、金正恩委員長を引っ張り出して、どんな形にせよ共同声明にサインをさせるところまで実現したと言えます。また、この状況になると、金正恩委員長もこれから下手な行動に出れば、さすがに米国が黙っていないだろう、という脅威を感じていると思います。その意味において、金正恩委員長が今後は従来と異なる反応を示す可能性もあるでしょう。

共同声明の内容を見ると、「新しい関係性」「安定した平和体制の構築」「韓国と北朝鮮の板門店宣言の再確認」「朝鮮半島の完全な非核化」などが示されています。朝鮮半島の完全な非核化は、韓国も含めることになるので北朝鮮の意向を取り入れた形になります。

安倍首相によると、金正恩委員長が拉致被害者についても言及していたとのことですが、この共同宣言を見る限りは、それは読み取れません。あくまでも、自分たちの戦争捕虜や遺体回収に取り組むというだけの話です。安倍首相は、トランプ大統領に日本の拉致被害者について一言言ってほしいと依頼していたようですが、私に言わせれば、他人に頼むことではなく、自分でやるべきことです。

これまで北朝鮮は、何度も非核化合意を反故にしてきました。91年韓国、94年米国、さらには6カ国協議での合意も反故にしてきました。しかし今回の共同声明を反故にすると、さすがに米国から大きなしっぺ返しが来ると金正恩委員長も理解しているでしょう。これまでと同じように、非核化を反故にして核開発を進めることはないと思います。「成功」と呼べるかは疑問ですが、ある意味では抑止力にはなると言えます。

核開発への抑止力は期待できたとしても、核兵器以外の化学兵器、生物兵器、弾道ミサイルなどについてはわかりません。今回の共同声明がどこまでを対象にしているのか、まだ不明だからです。核兵器を使わなくても、他の兵器を組み合わせることで核兵器と同じような被害を及ぼすことは十分に可能ですし、日本としては警戒すべきです。トランプ大統領の発言にもありましたが、今回の会談は「第1歩」「入口」に過ぎません。第2弾、第3弾の日程も決まっているそうですが、現時点では「誰がどうやって具体的に詰めていくのか」何も見えていません。




雪解けしたあと、北朝鮮と日本の問題はどのような展開が予想できるか?


今後の北朝鮮と日本との関係性の中で予想できるのは、北朝鮮の経済復興のために日本が資金と技術を提供する形になる可能性が高いということです。おそらく、安倍首相からの拉致被害者についての依頼への見返りとして、トランプ大統領から要求されるのではないかと私は見ています。北朝鮮からすれば、日本に対しては「戦前、戦中の賠償がおわっていない」と思っていますから、渡りに船といったところでしょう。

かつて韓国が日本からの賠償金などを活用して、「漢江の奇跡」という経済復興を成し遂げたのを見ていますから、北朝鮮は自分たちも同じように復興に使うお金を欲しています。本来、戦争に関する賠償は日本と韓国間で完了していますから、北朝鮮もそこに含まれるはずですが、全くその認識はないようです。北朝鮮が日本に賠償金として要求している金額は、6兆円という莫大な額になります。

拉致問題について、北朝鮮側は「解決済み」という姿勢をとって、一向に具体的なことを発表しないままになっています。おそらく、すでに存命ではない人や、墓もなく生死が定かではない人もいて、満足できる説明ができない、というのが本音でしょう。また、存命であれば日本に帰した後に
何を言われるのかわからないので公表したくない、という意図もあると思います。いずれにせよ、1年以内に解決すると言っておきながら、急に「日本の態度が悪いから」と難癖をつけてくる国ですから、この問題を日本が望むような形で解決することは、かなり難しいと思います。


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※この記事は6月17日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は、米朝首脳会談の話題を中心にお届けいたしました。

トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩委員長が、
史上初となる米朝首脳会談を行い、
朝鮮半島の平和体制構築及び完全非核化へ向けた努力を
約束することを盛り込んだ共同宣言に署名しました。

しかし、今回の会談は「第1歩」「入口」に過ぎず、
第2弾、第3弾の日程も決まっているものの、
現時点では、何も見えていない状況となっています。

この米朝首脳会談をうけ、大前は記事中で、
今後の北朝鮮と日本との関係性の中で予想できるのは、
北朝鮮の経済復興のために日本が資金と技術を
提供する形になる可能性が高いと指摘をしています。

北朝鮮の今後のシナリオについては、
様々なシナリオが考えられますが、
あらゆるシナリオをあらかじめ想定しておくことで、
「想定外」の出来事を減らすことが可能となります。

「もしも」の事態に真剣に取り組み対策を講じることで、
想定外の出来事に慌てることは少なくなります。


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