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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON232 1人当たりGDPが世界4位:アイスランドが繁栄していたカラクリとは?~大前研一ニュースの視点~

2008年10月17日

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アイスランド経済 ロシアから5500億円融資
カウプシング銀行ら上位3行 政府管理下に
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●アイスランドが繁栄していたカラクリとは?


 10月9日、アイスランド政府は同国銀行最大手のカウプシング
 を国有化し、これにより同国の上位3行が国有化されました。


 8日には導入を発表したばかりだった同国通貨の対ユーロ
 相場固定(ペッグ)制を撤回したばかりでしたが、続いて
 同国の証券取引所が全株式の取引の一時停止を決定しています。


 このような厳しい状況に置かれているアイスランドですが、
 同時に中央銀行がロシアから40億ユーロ(約5500億円)の
 融資を受けることで合意したことを発表しています。


 このニュースを聞いて、アイスランドとロシアの関係を含む
 経済的な背景をすぐに理解できる人はほとんどいないと
 思います。


 「なぜ、ロシアがアイスランドに手を差し伸べるのか?」
 という問いに答えるためには、まずアイスランドが欧州の中で
 どのような立場にあったのかを確認する必要があります。


 アイスランドは人口約30万人、国土面積は北海道と四国を
 合わせた程度の面積の小さな国ですが、極めて経済的に
 成功していたと言えます。


 今年の10月に発表されたIMFの調査によりますと、
 同国の07年の1人当たりGDPでは世界4位で
 約6万4,500ドルという数字を達成しました。


 日本の1人当たりGDPが約3万4300ドルでしたから、
 どれだけ高い水準なのか想像できると思います。


 しかし、一方では主な産業としては漁業くらいしか思いつかず、
 なぜここまで経済的に繁栄できたのか、私も少々不思議に
 感じていました。


 その秘密が今回の金融危機の結果、明らかになりました。
 それは、アイスランドの銀行は欧州の銀行に比べて金利を
 約1%~1.5%高く設定していたということです。


 欧州の国民というのは金利志向が強いですから、少しでも
 金利が高いところがあれば積極的に資金を移動させます。


 その結果、アイスランドという小さい国に欧州全土から
 お金が流れたのです。


 そのようにして国内に流れ込んできた莫大な資金を企業や
 個人に貸付けることで、アイスランドはその経済的な繁栄の
 基盤を創り上げることができたのだと思います。


 ところが、この世界的な金融危機の波を受けて
 「アイスランドは大丈夫なのか?」という噂が流れ始めた
 ことで、一気にアイスランドに対する警戒感が強まりました。


 そして、こぞってアイスランドから資金を引いてしまった
 のです。結果、その行為がアイスランド経済にとっての致命傷
 となってしまい、上位3行の国有化や市場の閉鎖という事態
 にまで追い込まれるに至ったのです。


●EUとの関係性悪化。そして、ロシアと親密に


 こうしてアイスランド経済が破綻へと突き進む中、英国の
 企業や自治体がアイスランドに預けていた資金を巡って
 アイスランドと英国との関係性が一気に悪化する事態に
 発展しました。


 英国の自治体などは、家庭保護などに利用するべき運用資金
 として約2000億円をアイスランドに預けていましたが、
 その預金が保護されない可能性があるからです。


 アイスランドの銀行が危機に陥ったことで甚大な被害を
 受けたことを英国ゴードン・ブラウン首相が非難すると、


 逆にアイスランドは英国などが資金を引き上げたせいで
 アイスランド経済が破綻に追い込まれつつあるのだと
 反発したのです。


 今では国交断絶に近い状態まで両者の関係は悪化しています。


 さらに、英国だけでなくドイツでも個人や企業が相当量の
 資金をアイスランドに預けていたことなどもあって、
 EU全体としてアイスランドへの批判が強まりました。


 結局、アイスランドはEU全体と険悪な関係に陥って
 しまったのです。


 欧州に助けを求められない状態で、国家破綻の危険性も
 現実味を帯び、最後にアイスランドが頼った相手が
 「ロシア」だったというわけです。


 ロシア自体も一時市場の取引を停止するなど世界的な金融危機
 の影響を受けていますが、アイスランドへの融資額になった
 5000億円程度なら石油を売ることで調達できる規模だった
 ということでしょう。


 これが今回アイスランドとロシアが結びついた経緯です。


 英国、ドイツ、EU、ロシア、アイスランドというそれぞれの
 国の関係性を理解することに加え、欧州国民の金利志向が
 根底にあることを見逃してはいけないでしょう。


 日本がバブル崩壊以後、15年間も0%~0.2%という
 超低金利でもじっと我慢しているのとは対照的に、
 欧州の国民はかなり積極的に高金利を求める傾向があります。


 また、安全性のため躊躇なく国境を越えて資金を移動させます。


 現に、アイスランドが経済破綻に追い込まれつつある今では、
 英国民の多くが今度は、英国に先駆けて預金の全額保護制度を
 導入した「アイルランド」に注目しているという状態なのです。
 この素早さには驚きます。


 「なぜ、ロシアがアイスランドに手を差し伸べるのか?」


 ほとんどの人はこの背景を理解していないと思います。
 大切なことは、そこで思考を止めないことでしょう。


 ニュースの表面だけを理解すると、得てして全体像を掴めない
 ということになります。


 逆に、こうした背景を理解できるようになると、
 世界経済全体が見渡せるようになります。
 ぜひ、普段のニュースを見るときから心がけて欲しいと思います。


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