大前研一「ニュースの視点」Blog

KON729「働き方改革/外国人労働者 ~高度プロフェッショナル制度より、労働生産性の改善の方がよほど重要な問題」

2018年6月8日 働き方改革 外国人労働者

本文の内容
  • 働き方改革 働き方改革関連法案が可決
  • 外国人労働者 新たな受け入れ策の原案まとめ

高度プロフェッショナル制度より、労働生産性の改善の方がよほど重要な問題


安倍政権が今国会の目玉法案と位置づける働き方改革関連法案が先月31日、衆院本会議で採決されました。これは、残業規制、同一労働同一賃金、脱時間給制度が3本柱となっているもので、4日にも参院で審議入りし、今国会で成立する見通しです。

今国会の目玉という割には、働き方改革関連法案の中身を見ると、全く大したことがありません。高度プロフェッショナル制度も私に言わせれば、余計なお世話です。野党側はこの制度が隠れ蓑になって、また企業がブラック化するのではないかと指摘していますが、これも余計なお世話だと感じます。

もし従業員が不当に働かされていると感じたなら、労働基準監督署に申し出ればいいのです。それを受けて労働基準監督署が、従業員の名前などを伏せて会社に対して匿名で警告することができれば良いでしょう。現状では、従業員がそのような動きを取れば、会社における身分を脅かされる可能性があります。この制度を変えるほうがよほど現実的で重要なことだと思います。

また、裁量労働制が適用されている働き方について、企画型業務の対象拡大が見送りになったとのことですが、そもそも「企画型業務」を行政や政治が理解できるとはとても思えません。重要なポイントは、今後はロボットやAIに置き換えられるような労働集約型業務が減り、企画型業務が増えていかなくてはならないということです。どこか論点が間違っているように感じます。

働き方について、最も大きな問題の1つだと私が感じているのは、フルタイムとパートタイムの賃金水準の違いです。日本では賃金水準は「フルタイム:パートタイム=2:1」となっていて、非常に差が大きくなっています。フランスの場合には「100:90」でほとんど差がありません。

このように賃金水準の格差が大きいために、日本ではパートタイムをたくさん採用し、その待遇を低く抑えることに注力されています。逆に言うと、フルタイムに対する保護が厚すぎると言えるでしょう。ゆえに、この問題を解決するためには、パートタイムの待遇の改善と同時に、フルタイムの雇用の保証を撤廃するような手を打つべきでしょう。

また、日本にとってさらに深刻な労働問題になっているのが、一人当たりの労働生産性が非常に低いということです。OECDの中でも最下層で、アイルランド、ルクセンブルグ、米国、ノルウェー、スイスといった上位には遠く及ばず、20位にも入れず、あのギリシャを下回る水準になっています。

かつて日本はブルーカラー業務の機械化や自動化には見事に成功しました。しかし一方で、間接業務の自動化やコンピューター化には大きく出遅れています。いまだに、属人的で標準化されていない業務が多く、大きなネックになっています。この20年間で、世界的には間接業務のコンピューター化や自動化が大きく進みましたが、日本ではそれがなされていません。給料も生産性も上がらず、いつの間にか日本は労働後進国になってしまったのです。

今国会で議論されている高度プロフェッショナル制度などよりも、こうした問題の改善の方が極めて重要だと私は思います。



50万人の外国人労働者受け入れでは、付け焼き刃に過ぎず、何も解決しない


政府が検討している新たな外国人労働者受け入れ策の原案が先月29日、明らかになりました。建設・農業などの5分野を対象に日本語と技能試験に合格すれば、単純労働分野でも最長5年の就労を認めるもので、人手不足に直面する5分野で2025年ごろまでに50万人超の就業を想定するとのことです。

2025年までに外国人労働者を50万人受け入れると言っても、全く足りません。日本の労働人口は「毎年」30~40万人ずつ減っているからです。これまでは認められていなかった単純労働分野の外国人労働者を2025年までに50万人にしようという話ですが、私の計算では日本という国は外国人労働者が1000万規模で入ってこなければ成り立たなくなります。

仮に2030年までに1000万人としても、毎年100万人規模で外国人労働者の受け入れが必要となります。私はもう何年も前から、「そのための制度を作れ」と主張しています。そんな特別な制度を作らなくても、単純作業であれば日本語と少し技能があればなんとかなるというのは、そもそも問題を認識していないのでしょう。

最近では、中国、ベトナム、ネパール、さらに南米からはブラジルやペルーからの外国人労働者が増えているとのことです。こうした国際的な多様化は今後も進むでしょう。それに対応できるような制度が必要なのです。

例えば、計画的に2年間の無償教育を施します。そこでは、単に日本語を教えるだけではなく、日本人とはなにか、日本人として、日本の社会に生きる社会人としてどうあるべきか、ということを教えます。これは日本人に対する成人教育を明確にするということにもつながります。

そして、きちんと教育を受けて合格をしたら、グリーンカードを発行します。永住してもらってもいいし、もちろん正式に就職してもらってもいいでしょう。現行の技能実習制度のように、せっかく教育をしたのに、5年間で制限する意味は全くありません。

少子高齢化社会の日本としては、こうした取り組みは非常に重要になると思います。日本のターゲットとして、ドイツを参考にすると良いでしょう。ドイツでは人口の15%程度の外国人労働者を受け入れています。そう考えても、日本では1000万人規模の外国人労働者を受け入れる必要があると思います。こうした準備もせずに、「とりあえず50万人」などと言っているのは、付け焼き刃に過ぎず、問題の本質を全く理解していないと言えます。


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※この記事は6月3日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は、働き方改革の話題を中心にお届けいたしました。

安倍政権が今国会の目玉法案と位置づける
働き方改革関連法案が、衆院本会議で採決されました。

これに対して大前は、働き方改革関連法案の中身を見ると、
今国会で議論されている高度プロフェッショナル制度などよりも、
労働生産性の改善の方がよほど重要な問題と指摘しています。

問題解決を行うにあたっては、課題を定義し、
課題の構造化をした上で、実現可能性と効果のインパクトから
検討の優先順位づけを行う必要があります。

取り組みの効果が最もあがるように、
取り組み資源をどこに配分するか決め、そのために何を優先するか、
また、何に時間を使ってはいけないかを決めた上で、
解決策を立案していくことが重要です。


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