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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON231 各国は協力し、流動性の世界的供給機関を組織すべき~大前研一ニュースの視点~

2008年10月10日

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欧州金融機関救済 欧州各国 金融機関を積極救済
ソウル外為市場・ロシア金融・東京市場
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●世界で協力して流動性を供給する体制を整えるべき


 9月29日、英国政府は住宅金融大手の一部国有化を発表し、
 その前日の28日にはベルギー、オランダ、ルクセンブルクの
 ベネルクス3カ国が、株価急落で経営危機に陥ったオランダ・
 ベルギー系金融大手フォルティスの部分国有化を発表しています。


 また、フランス、ベルギー、ルクセンブルクのヨーロッパ
 3カ国は、仏・ベルギー系の大手銀行デクシアに対し、
 総額およそ64億ユーロ(約9800億円)の公的資金の投入を
 発表しました。


 私はかねてから「各国は協力して流動性の供給機関を
 組織するべきだ」と主張してきました。


 それはこの世界金融危機に対して、金融機関を救済するための
 ガソリンスタンドのような役割を果たすものです。


 具体的には、欧州諸国:200兆円、日本:100兆円、
 中国:150兆円、湾岸諸国:200兆円、ロシア:50兆円、
 台湾:50兆円、というように世界の国々が協力して
 資金を提供し合い、全体として1000兆円規模の資金を
 作ります。


 流動性危機に陥った金融機関には、一時的にこの資金を
 活用することで「給油」が可能となるようにするものです。


 このように各国が連携して手を打たないと、欧州金融機関は
 次々と破綻に見舞われる可能性があると危惧しています。


 実際、この1年間の欧州金融機関への支援状況を見ると、
 昨年の独中堅銀行IKBの金融危機、英銀ノーザン・ロックの
 国有化から始まり、この9月にはベネルクス3カ国による
 フォルティスの部分国有化、中堅英銀B&Bの部分国有化、


 仏・ベルギー系大手デクシアへの公的資金注入、
 そしてイタリアの大手銀ウニクレディトも株価急落により
 取引停止に陥るなど、経営破綻もしくは破綻間近という
 危機的な状況に追い込まれる金融機関は後を絶ちません。


※「欧州金融機関への支援状況」チャートを見る
→ 


 このような欧州全体の経済状況を反映し、ユーロもここに来て
 過渡期を迎えていると私は見ています。


 対円でのユーロの推移(99年~)を見ると、01年の
 米ITバブル崩壊の影響を受けた不況以来、右肩上がりを
 続けていたユーロが遂に反転し始めた兆しが見て取れます。


 07年以降、約165円まで上昇していましたが、
 10月3日時点で146.95円へ急速に下落しています。


※「対円でのユーロの推移」チャートを見る
→ 


●欧州にも劣らず危機的な状況にある、韓国とロシア


 欧州にも増して厳しい局面を迎えているのが、韓国とロシア
 だと思います。


 韓国について私は何度も指摘していますが、韓国経済
 そのものが痛んでいます。見かけ上は順調に見えても、
 実体経済が伴っていないのです。


 皮肉なことですが、こうした私の指摘がようやく認知される
 形になり、10月2日、韓国ウォンは前日比36.5ウォン安の
 1ドル1223.5ウォンまで下落しました。


 年初には1ドル900ウォンから950ウォンの水準だった
 わけですから、この9ヶ月で25%近く急落したことになります。


 目下のところ、ウォン下落の歯止めがかからない状態です。
 この状態は、考え方によっては97~98年の韓国危機の時
 よりもさらに深刻な事態だと言えると思います。


※「米ドルに対するウォンの推移」チャートを見る
→ 


 一方、グルジア問題で揺れるロシアですが、これまで
 舞い上がっていた金融に翳りが見え始め、政府が慌てている
 様子が見て取れます。


 9月29日、プーチン首相は資金繰りが悪化している民間銀行や
 企業を救済するため、国営ブネシュエコノム銀行を通じた
 貸し付けを実施すると発表しています。


 これは、米国同様に流動性不足がかなり深刻な状況に
 なっていることを物語っています。


 ロシアについて悩ましいと感じるのは、石油などの輸出に
 よって順調に積み上がってきた約5000億ドル(約50兆円)
 にものぼるロシア外貨準備高のほとんどが、銀行・その他民間
 部門の債務によって相殺されてしまう状況です。


 さすがに、対外債務のデフォルト(債務不履行)に陥った
 エリツィン大統領時代の末期ほどひどい状態ではありませんが、
 それでも今後の石油価格の下落を考えると、相当苦しい局面を
 迎えることになると思います。


※「ロシアの民間部門の対外債務と外貨準備」チャートを見る
→ 


 さらにロシア経済の問題点としては、経済が危機的な状況に
 陥ると外国人投資家よりもロシアの投資家がいち早くロシアの
 国外に資金を移動させてしまうということがあります。


 外国人投資家ではなく、自国の投資家が真っ先に逃げ出す
 というのはいかがなものかと思います。


 このようなロシア経済の状況を揶揄して、10月6日の
 TIME誌の記事には「Red Tide at the Casino
 (赤潮に見舞われたカジノ)」という表現が使われていました。


 結局、ロシア経済というのは「カジノ=ギャンブルの場」
 であったのではないかという指摘です。


 こうした世界経済の状況下、東京市場では米リーマン・
 ブラザーズの破綻の市場混乱により、利益確定売りが急増し、
 外国人投資家による売越額が1週間で1兆3545億円に達しました。


 これは、今年3月のベアー・スターンズを巡る一連の救済騒動
 以来の大きな売越額になっています。


 ここには、売却によりいち早く流動性を取り込みたいという
 外国人投資家の意図があります。そして、その結果として
 日経平均も下がるという状況が続いているのだと思います。


※「外国人投資家による買・売越の状況」チャートを見る
→ 


 今世界の経済危機は、流動性の供給が課題となるフェーズ1
 にあります。一部で問題視されている不良債権処理などは
 フェーズ2の問題です。


 今大切なことは、世界各国の経済状況を正しく見極めた上で、
 まずは流動性危機に対応するべく、世界の国が協力して 
 動くことだと私は思います。


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