大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕#124 王子製紙、北越製紙に敵対的TOB

2006年8月4日

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 王子製紙
 北越製紙に敵対的TOB


 買収総額700億円の見通し
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※この原稿は7月30日の大前ライブを元に編集しております。


●TOBの鍵を握るのは、王子製紙から三菱商事へのスイートナー提示


王子製紙が北越製紙に対して、
860円の価格で敵対的TOBへと動き出しました。
これに対して、北越製紙は三菱商事に助けを求め、
607円の価格で第三者割当増資の引き受けを依頼しています。


2つの価格差を見ると、
TOB価格が異常に高いと思われるかもしれませんが、
市場平均価格の30%増くらいのプレミアム価格ですので、
860円は妥当だといえます。


860円がTOB価格として妥当とは言っても、
今回の王子製紙のTOBについて、
三者の構図と価格差だけを見ると、
三菱商事への利益供与の図に見えてしまうかも知れません。


なぜなら、三菱商事は、607円で第三者割当増資を受けて、
すぐに860円で王子製紙のTOBへ応じれば、
約300円の利ざやを抜くことができるからです。


ただ、さすがに天下の三菱商事ですから、
露骨なことをやるつもりはないでしょう。


それに王子製紙側も、三菱商事が
第三者割当増資を受けないことを前提に、
TOBへ応じた場合の売却を考えていると発表していますから、
三菱商事に対する利益供与の構図で決着するという形は
ないと見ていいでしょう。


今回のTOBについて、今後の展開の鍵となるのは、
王子製紙から三菱商事に対して、
どんな甘味料を提示するのかという点です。


ここで言う甘味料とは、
M&Aの世界ではスイートナーと呼ばれるものです。


例えば、王子製紙は三菱商事に対して、
次のようなオファーを出すことが考えられます。


第三者割当増資を拒否してくれるならば、
原材料の買い付けを一任するとか、
又は、将来的な海外企業とのM&Aを
全て任せるといったようなオファーです。


こうなると、本業が商社である三菱商事としては、
今回の第三者割当増資の引き受けから手を引いて、
王子製紙のスイートナーに応じる可能性も十分にあると思います。


王子製紙と三菱商事の争奪戦という様相ではなく、
王子製紙からどのようなスイートナーが
提示されるかということが争点となって、
今後、二転三転するのではないかと思います。


●売上規模の拡大ではなく、国際競争力の強化に向けた買収をするべき


TOBの行方も去ることながら、私としては、
そもそも北越製紙を買収するという戦略そのものに
疑問を投げかけたいと思っています。


今、日本の製紙業界全体の国際的な競争力は、
極めて低くなっています。
ここで問題となる競争力とは、主にコスト競争力です。


最近では、国際的にパルプなど原材料価格の高騰が目立ちますが、
それを背景に、原料パルプの多くを輸入でまかなう日本では
必然的に生産コストが高くなってしまいます。


結果的に、日本の製紙業界のコスト競争力は低下し、
最終的な製品価格が国際的な価格よりも
高くなってしまっているのです。


その証拠に、日本国内で大量に紙を利用するときには、
日本産の紙ではなく、輸入モノを使うことが多くなっています。
あるいは、何十万枚もパンフレットを印刷する必要があるときには、
海外の企業に依頼することが増えてきています。


王子製紙は、現在、売上高世界7位の製紙メーカーです。
もし、北越製紙と合併すれば、売上高ベースで見ると、
世界第5位の製紙メーカーが誕生することになります。


しかし、この合併をしても、
先に挙げたコスト競争力の問題は解決されません。


ここで目を向けるべきなのは、
売上高の規模を拡大することではありません。


より重要なのは、日本の製紙業界として、
国際競争力の低さ・コスト高の問題に対して、
どのような解決策を講じることができるかということです。


北越製紙は日本国内では競争力がある部類に属すると思いますが、
国際的に見れば、まだまだ競争力が高い企業がたくさんあります。


もし私が王子製紙の社長だったら、北越製紙ではなく、
コスト競争力に長けた海外のトップ企業のいずれかを
買収ターゲットとして考えるでしょう。


さすがに、売上高トップの
インターナショナル・ペーパー(米)は別格ですから、
買収は難しいかも知れません。


しかし、それに続く、ストラエンソ(2位)、
スペンスカ・セルローサ(3位)などであれば、
今回の北越製紙のTOBに使う700億円のお金で買収できる可能性は
十分にあると思います。


ジョージア・パシフィック(4位)、
プロクター・アンド・ギャンブル(5位)などであれば、
製紙業が本業ではないので、
買収に応じる可能性はさらに高くなると思います。


日本の製紙業界の現状を考えると、
単に売上高や規模のみに焦点を当てるのではなく、
買収をきっかけに国際的な競争力をもつ企業を取り組み、
企業の体質として競争力を強化できるように
考えていくことが大切ではないでしょうか。


注:このメルマガは7月30日時点での情報を元に構成されており、
その後の動向により、必ずしもメルマガの内容と
現状に整合性がない場合があることをご了承ください。



                                 -以上-


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