大前研一「ニュースの視点」Blog

KON713「米株式市場/国内株式市場~今回の大幅下落はブラック・マンデーと同じ現象」

2018年2月20日 国内株式市場 米株式市場

本文の内容
  • 米株式市場 下げ幅過去最大の1175ドル安
  • 国内株式市場 米市場下落で前日1071円安

今回の大幅下落はブラック・マンデーと同じ現象


5日のニューヨーク株式相場は、前週末の米雇用統計を受けて広がったインフレ懸念をきっかけにパニック売りが加速し、ダウ工業株30種平均の終値は前週末比1175.21ドル安と、1日の下げ幅としては過去最大を記録しました。

今回の米株式市場の大幅下落は、ブラック・マンデーの時と同じ現象だと私は見ています。昨年の年末総括でも指摘しましたが、米国経済は通貨供給量が増え金融経済と実体経済との間に乖離が出てきている状況になっています。

1987年のブラック・マンデーの一週間前に私はニューヨーク・タイムズにある記事を寄稿しました。そこで指摘したのは、東京の地価が異常に高い状態であり、それを背景として日本が米国のものを買い漁っているから、米国の株価も上がっている、ということでした。

ニューヨーク・タイムズの記事には、強気の経済を象徴した牛(ブル)が、日本円の紙幣の上に乗っている絵が掲載され、いかに米国の株高が危うい状況にあるかを示していました。当時、この絵がブラック・マンデーのトリガーを引いたと言われ、私は米国の放送局などからかなり批判を浴びました。

今回もブラック・マンデーの時と同様、金融経済と実体経済の伸びが異なる期間が数年続き、両者の乖離が大きくなってしまい、その溝を埋めるために株価が一気に下落したという状況です。すなわち、金融経済が実体経済に近づくように調整されたということです。

「1日の下げ幅として過去最大を記録」と言っても、必要以上に恐れる必要はなく、期待値で高くなっていた株価(=金融経済)が、実体経済の水準にまで落ちてくれば、必然的にそこで落ち着きます。

ブラック・マンデーの際にも、ダウ平均は大きく下落しましたが、そこで調整され奈落の底には落ちていません。連鎖的に銀行が倒産するなどといった事態にもなりませんでした。ここがリーマン・ショックと、ブラック・マンデー及び今回の下落の大きな違いです。

リーマン・ショックのときには、銀行はサブプライムローンなどの「毒」をたくさん腹に抱えていて、構造的に大きな問題が存在しました。ゆえに、それを解消するために多くの銀行が倒産する羽目になりました。

今起きている株価の下落はブラック・マンデーと同じ現象であり、リーマン・ショックとは全く別物です。金融経済が実体経済の水準に調整されればいいだけなので、必要以上にパニックになる必要はありません。


日米経済は連結経済であり、運命共同体


トランプ大統領も安倍首相も、それぞれ日米の株価が高いのは自分の政策のおかげだと主張していますが、全くそんなことはありません。実体経済以上に、株価が上がることはありえないので、今の株高を自らの業績に結びつけるのは勘違いも甚だしいところです。2人ともこうした経済の基本的なことすら、理解できていません。

米国の株価の下落に引きずられるように、日本の国内株式市場も大きく下落しました。一部ではコンピューターによるアルゴリズム取引の機械的な売りが要因とも言われていますが、この動きも87年のブラック・マンデーと同じです。

本来ならば、5パーセント以上下落するときにストップをかけるはずが、それがなされていないのです。ロボットアドバイザーやAIが取引をやっていると、こうした局面では「売り」一方になる傾向があります。一旦落ち着くと、「そこまでひどい状況じゃない」と冷静になり、翌日に値を戻す、ということを繰り返し調整します。

ブラック・マンデー、リーマン・ショック、東日本大震災など、過去の日経平均の急落局面における下落幅と比較しても、今回の下落もその範囲内に収まるものだと言えるでしょう。

80年代の日米経済は貿易摩擦などもあり、喧嘩をしているように言われていました。しかし、実際には飛行機の両翼のエンジンと同様、日米経済は運命共同体であり、連結経済なのだと、当時から私は主張していました。この関係性は今も変わりません。

今、米国経済においては、自動車ローン、学生ローン、住宅ローンなども溜まってきていて懸念されています。しかし、サブプライムローンの時のように、それぞれがみじん切りにされて区別がつかない状態で、トリプルAの格付けで売られるといった
イカサマ商品にはなっていないので、その点では安心していいと思います。

今回の日米の大幅な株価の下落については、金融経済と実体経済の乖離から来る調整であり、リーマン・ショックとは全く性格が異なるものだということを認識しておくことが重要です。この一週間の世界経済の動きは、ブラック・マンデーが起きた
87年と同様の動きであり、私は当時の一週間を思い出しました。


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※この記事は2月11日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は、株式市場の話題を中心にお届けいたしました。

5日のニューヨーク株式相場で大幅下落した米株式市場。

これに対して大前は、金融経済と実体経済のずれが発生しており、
その溝を埋めるために株価が一気に下落したという状況で、
ブラック・マンデーの時と同じ現象だと指摘しています。

このように、起きている現象に左右されるのではなく、
ファクトをしっかり把握し、なぜそのような現象が起きたかを
冷静な視点で俯瞰して考察することが大切です。

同じように見える現象でも、構造の本質は異なってきます。
問題の構造分析を行い、それがどのような影響を与えるのかを
過去の歴史などから予測することが重要です。


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