- 本文の内容
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- ダボス会議 米大統領として18年ぶり演説
- 米通商政策 セーフガード(緊急輸入制限)発動
- 米税制改革 トランプ減税が変える租税回避の地図
ダボス会議で「孤立」したトランプ大統領。主張には根拠も一貫性もない
トランプ米大統領は先月26日、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で演説し、「アメリカ第一主義は孤立したアメリカではない」と語り、国際的なルールや秩序の強化に積極的に関与する考えを示しました。また中国を念頭に「いくつかの国は他国を犠牲にして国際社会のシステムを食い物にしている」と述べ、知的財産侵害などの「略奪的な行動」を非難しました。
トランプ大統領の演説を聞いても、「結局、何を言いたいのか?」私には全く理解できませんでした。「TPPに加盟するのか?」「パリ条約を離脱するのか?」いずれも明確ではありません。大統領就任当初、TPPもNAFTAもパリ条約も離脱すると息巻いて、トランプ大統領は早々にサインをしていましたが、今になって「条件さえ良ければ」復帰を考えてもいいと発言し始めました。
しかし、トランプ大統領が言う「条件」は曖昧です。TPP、NAFTA、パリ条約、それぞれについても、具体的にどこに問題があるのか指摘していません。しきりに「米国にとって良いディール」であればと繰り返すばかりです。
そもそも米国の産業界にとっては、自由貿易が重要ですから、TPP、NAFTA、パリ条約のいずれも大きな問題ではありません。仮にNAFTA脱退ともなれば、逆に、これまで農産物を大量に購入してくれていたメキシコを締め出すことになります。産業界からの批判を受けて、トランプ大統領もようやく間違いに気づいたといったところでしょう。
また、トランプ大統領は石炭を復活させて雇用を創出すると主張していましたが、石炭産業で増加する雇用などたかが知れています。雇用を増やすのであれば、農業のほうがよほど効率的です。
今になって、トランプ大統領も自分の間違いには気づいていると思います。しかし、それを素直に認めずに「ディールの条件が良ければ」といった曖昧な発言でお茶を濁しています。トランプ大統領はダボス会議のような理屈が求められる会議体には向いていないでしょう。ダボス会議の最後に演説したトランプ大統領は、「アメリカ第一主義は、孤立したアメリカではない」と述べていましたが、多くの人がすでに帰っていて、トランプ大統領が孤立した状態になっていたのは、何とも情けない情景でした。
中国の貿易黒字は、台湾、韓国の一部を含んでいる
米トランプ政権は先月22日、太陽光パネルと洗濯機の輸入急増に対応するため、緊急輸入制限(セーフガード)を発動すると発表しています。米国の貿易相手国別貿易収支(財)を見ると、対中国の赤字が約3674億ドルで断トツになっています。
台湾(約149億ドル)韓国(約280億ドル)に対しても、赤字であり貿易不均衡の状態です。
ただし、この統計は実態に比べてやや中国に不利な数字になっています。というのは、台湾と韓国から中国を経由して米国へ輸出される額も大きく、それが中国に対する赤字を膨らませているからです。台湾の鴻海はiPhoneを中国で作って米国へ輸出していまし、韓国企業も遼東半島で作ったものを米国へ輸出しています。
また中国側が主体的に米国へ売っているというよりも、米国側(例えば、ウォルマートなど)が勝手に中国製品を買いまくっているという面もあります。中国からすると、米国に対して「売りまくれる」ほど、中国企業の経営手腕は成熟してはいないと自覚しているところでしょう。トランプ大統領には、こうした実態も全く見えていないと私は思います。
一方、米国の貿易相手国別貿易収支(サービス)では、米国はサービスが強いので、中国に対しても約333億ドルの黒字です。TPPはサービス部門を含んでいるので、この点から考えても、米国にとっては有利だったはずです。
それにも関わらず、一度白紙に戻した上で、トランプ大統領は「条件さえ良ければ」TPPへ加盟の可能性も示唆していますが、今さら、米国が加盟してくるとなると、甚だ迷惑です。もし米国が加盟するのであれば、トランプ大統領が言う「良い条件」など考慮する必要はなく、以前(米国も含め)12カ国で合意したものがあるはずですから、それで再度合意するだけです。日本は米国のTPP加盟を歓迎するような姿勢を見せていますが、私に言わせれば、ころころと意見を変えるトランプ大統領など、しばらく放っておけばいいのです。
230兆円が米国に還流すると、米国経済の方向性は見えにくくなる
日経新聞は先月22日、「トランプ減税が変える租税回避の地図」と題する記事を掲載しました。米国の税制改革がM&A(合併・買収)を活発にし、節税を巡るマネーの動きにも変化を与えています。法人税率が引き下げられるほか、米国本土とその他地域の資金のやり取りに課税される仕組みが導入されることをうけたもので、今後は「新たな租税回避地」となった米国を狙う買収が増える可能性もあるとしています。
これにより、これまで租税回避地の集積地となっていたバミューダを利用するメリットもかなり少なくなると思います。米国企業が海外に保有する資金を換算(1ドル100円)すると、アップル:約24兆円、ファイザー:約20兆円、マイクロソフト:約14兆円など、全体で約230兆円規模になると推定されます。
しかし、これはトランプ大統領が推し進める雇用創出につながるものではありません。ビジネスウィーク誌は、「アップルのキャッシュが戻ってくるとき」という記事の中で、資金が戻ってきても工場が戻ってくるわけではないので、雇用創出につながらないという点を指摘しています。この点をトランプ大統領は誤解しないようにしてほしいところです。
もし米国に約230兆円の殆どが戻ってくるとしたら、米国経済に与える影響は小さなものではないでしょう。今、米国経済は緊縮に傾きつつ、金利も上げていこうとしている矢先に、230兆円もの資金が市場に放出されるとなると、どうなるのか。正直、かなり予測が難しい状況だと思います。
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※この記事は1月28日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています
今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?
今週は、ダボス会議や米国の話題を中心にお届けいたしました。
ダボス会議で、国際的なルールや秩序の強化に
積極的に関与する考えを示したトランプ米大統領。
それに対して大前は、TPPの加盟やパリ条約の離脱など
いずれも明確ではなく、「結局、何を言いたいのか?」
全く理解できないと指摘しています。
「条件さえ良ければ」TPPへ加盟の可能性も
示唆しているトランプ大統領ですが、
意思決定を行うにあたっては、正しく問題を認識し、
問題を解決するための具体的な行動案を設計し、
その効果や影響、費やされるコストを評価し選択する必要があります。
このように、影響の連鎖の探求やリスク許容限界の設定などを
行ったうえで、意思決定を行っていきます。
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