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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON224 景気悪化:政策的な閉塞感が国民の消費心理に与える悪影響~大前研一ニュースの視点~

2008年8月22日

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景気動向 景気判断を「悪化」へ下方修正
4‐6月期国内GDP 前月比0.6%減
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●国内GDP活性化の鍵は、
       外需ではなく、内需に刺激を与えること


 8月6日、内閣府は、主に企業の生産活動から見た
 景気の現状判断を後退局面に入ったことが高いことを示す
 「悪化」へと下方修正しました。


 また、内閣府が8月13日に発表した4-6月期の国内GDPは、
 0.6%減少となり4四半期ぶりのマイナス成長となったことが
 分かりました。


 景気のけん引役だった輸出が13四半期ぶりに減少に転じたこと
 などが響いた形になっています。


※「日本の実質GDP成長率の推移」チャートを見る
→ 


 日本の実質GDP成長率の推移を見ても分かるとおり、
 特にここ1年間、日本のGDPをけん引してきたのは
 まさに外需でした。


 内需に足を引っ張られたとしても、必死に外需がそれをカバー
 してきたという構図です。内需が弱いため、外需が少々
 マイナスに転じるだけで、いとも簡単にGDPがマイナス成長に
 なってしまったわけです。


※「日本の実質GDP成長率への寄与度の推移」チャートを見る
→ 


 現在の状況では、この局面を打開するために外需の再建に
 力を注ぐというのは得策ではないと思います。


 サブプライムに端を発する経済危機に直面しつつある米国の
 経済状況などを考えると、外需が落ちこみ、輸出が伸び悩む
 事態も致し方ないと見るべきです。


 それよりも、政策的な閉塞感が、国民の消費心理に
 影響を与えていることに気を遣うべきだと思います。


 私は昨年上梓した「心理経済学」の中でも何度も主張して
 いますが、「景気が悪い」とは言っても、日本の場合には
 お金がないわけではなく、いまだに個人金融資産は
 1500兆円もあります。


 日本の個人金融資産の特徴は「景気の見通しが明るい」
 となれば大いに消費されますが、逆に「景気が後退している、
 見通しが暗い」となれば、殆ど消費されずにストックされて
 しまうということです。


 私に言わせれば、景気後退や財政問題等の先行きが暗いことを
 想起させるニュースが増えると、


 「もう残された手段は増税しかない・・・」という発想ばかり
 に目が向けられる傾向があるように思われます。こうした
 政治的な閉塞感のために個人消費が冷え切っているのです。


 今回のニュースも然り、政府は補正予算の必要性などを発表し、
 「不景気だ、見通しが暗い」というような話ばかりをしています。
 だから必然的に国民感情もマイナスになっているのです。


 逆に言えば、この点に配慮できれば、極端なことを言えば、
 昇給がなくとも個人消費を倍増させるのは不可能ではない
 というのが日本という国だと私は思います。


 どうすれば個人消費を活性化できのか?という視点を持って
 対策を打てば、必ず個人消費を活発にできると私は思います。


●経済そのものを大きく膨らませる発想を持つべき


 個人消費を刺激するためには、「パイを大きくする」という
 発想が必要です。つまり、「増税」を中心とする今の政府の
 やり方ではなく、「経済そのものを大きく膨らませる」
 という発想が必要だと私は思います。


 今の日本を見ていると、こうした発想を持っている人は
 ほとんどいません。


 例えば、増税よりも経済成長を重視する「上げ潮派」の
 代表格である、中川秀直元自由民主党幹事長。


 特別会計の積立金や運用利益を「埋蔵金」と批判し、
 これらを引っ張り出すという発想はあるようですが、
 これでも経済そのものを膨らませるわけではありません。


 また、1千億円のコストダウンを掲げている大阪府の橋下知事
 にしても、大阪経済そのものをどうやって拡大させるか
 という施策は打ち出していません。


 基本的には、橋下知事が実行しようとしていることに
 私は賛成していますが、もう一歩欲を言えば、コスト削減に
 加え大阪経済の活性化というプラスアルファの発想が
 欲しいところです。


 世界を見渡してみると、この数十年間、経済そのものを
 大きくすることに成功した事例はいくつもあります。


 フラットタックスを導入したロシアのプーチン元大統領、
 徹底的に規制を撤廃した英国のサッチャー元首相などが
 その代表例でしょう。


 日本でも同じようなことができるはずだと私は思います。


 それほど多くの方法はないかも知れませんが、
 それでも確実にいくつかの方法はあると考えます。


 例えば、今、私が思いつく範囲で例を挙げれば、
 住宅の建て替えを促進させるというものがあります。


 容積率を増やして大きなビルを建てられるようにする、
 あるいは、少子高齢化によるバリアフリーなどの建て替え
 需要を見据え、築30年以上の住宅の建て替えをする場合には
 税率を優遇する、といった方法が考えられます。


 単純な減税ではなく、このように具体的な目的を持った税制
 改革を行うことが政府の役割として非常に重要だと思います。


 経済そのものを大きくすることを考えたとき、日本の場合には
 他国と比較して高い水準にある所得税の最高税率が大きな障壁
 となることが予想されますが、政府が税制改革を上手に行えば、
 これも解決できる問題です。


 例えば、個人にもバランスシートを導入し、建物の建て替えを
 行った場合には減価償却を認めて、減価償却費が所得税から
 還付されるようにすれば、住宅建て替えの需要を高めることが
 できるでしょう。


 このようなことは数十年間、私は幾度となく主張してきましたが、
 今の世界経済の状況から考えても、今、改めて強く訴えかけて
 いくべき時期がきていると感じています。


 日本経済が閉塞感で満たされぬように経済そのものを大きくする
 という発想を、ぜひ多くの議員や官僚の人たちにも
 持ってもらいたいと願っています。


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