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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON222 トヨタ変調の兆し:自動車産業の明暗を分けるのはブレーキのタイミング~大前研一ニュースの視点~

2008年8月1日

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トヨタ、世界販売下方修正 08年950万台前半に
ホンダ、北米で大型車減産 年間1万台
好調の小型車シビックは増産
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●北米不振に見える、トヨタ「変調」の兆し


 7月28日、トヨタ自動車はグループ全体の2008年の
 世界販売台数計画を、当初計画の985万台から950万台前半に
 下方修正する方針を固めました。


 この販売計画の見直しに伴い、2008年の世界生産計画も
 当初の995万台から950万台に引き下げました。


 さらに、原材料価格の高騰を受けて販売が好調な中型乗用車
 以上の一部車種について、国内販売価格を1~3%程度
 値上げする方向で調整に入っています。


 一方、ホンダはガソリン高による大型車の販売低迷を受け、
 米国のアラバマ工場で当初計画に比べ合計1万台削減する
 方針を明らかにしました。


 しかし、小型車人気で在庫不足が続くシビックは増産し、
 北米全体の生産台数は維持するとのことです。


 世界的に自動車業界全体が厳しい状況に追い込まれて
 いるのですが、その中でも私が最も注目したいのは
 「トヨタの不振」です。


 トヨタは昨年の年間販売台数ではわずか3000台差で
 GMに及びませんでしたが、昨年10~12月期以来3四半期連続で
 GMを凌いで首位を維持しています。


 今年はGMを抜いて年間首位の座を奪取する見込みが
 高いのではないかと思っている人も多いでしょう。


 しかし、今回のニュースを見ていると、「トヨタ変調の兆し」
 のようなものを私は感じてしまいます。


 2008年上半期ベースでトヨタはGMを退けて世界販売台数で
 首位に立っていますが、実は北米事業を見てみると
 2008年1~3月期では営業赤字だったという事実もあります。


 この点について、私はトヨタに何かが起こっている
 のではないかと思います。


 北米で上手くいかなかったという観点で分析してみると、
 私が注目したいのは、トヨタが大型ピックアップトラック
 「TUNDRA(タンドラ)」の販売に力を注いだということです。


 2007年に登場した2代目タンドラは、米自動車ビッグスリー
 (GM、フォード、クライスラー)の大型ピックアップトラック
 にも劣らない、かなり大型化したボディを実現しました。


 この大型ピックアップトラックの開発背景には、最終的に
 米国で勝負するためには、GMやフォードと同程度の車種を
 作らなくてはならないという、ある種の「思い込み」が
 トヨタの中にあったのではないかと私は思います。


 トヨタ・タンドラの販売台数は、一時的には米ビッグスリーを
 凌ぐ勢いでしたが、今では原油高の影響もあって売上は
 伸び悩んでいます。


 こうした事態も、おかしな「思い込み」がなければ、
 トヨタほどの企業であれば避けられたのではないかと
 私は思います。


 実は、似たような現象が第1次石油危機のときにも起こって
 います。当時、マツダはロータリーエンジンを起爆剤にして
 米国市場で売上を伸ばしていたのですが、


 原油価格の高騰のために、ガソリン消費が激しいロータリー
 エンジンの買い控えが起こってしまい、大きな損失を
 計上しました。


 この読み違いによって受けた損失を引きずって
 しまったことが、マツダがフォードの傘下へ入る契機になった
 と言えます。


 もしかすると、世界のトヨタにも同じようなことが起きている
 のかも知れないと私は懸念を抱いています。


 GMやフォードと同じように大型車で勝負に出てみたら、
 米国市場は全く違う方向を向いてしまったという
 状況ではないでしょうか。


●自動車産業の明暗を分けている要因は・・・?


 7月28日号の米ビジネスウィーク誌に、今の世界自動車業界の
 状態を象徴的に現しているような記事が掲載されていました。


 それは、今年6月の各自動車メーカーの販売台数(対前月比)の
 グラフを比較したものです。


 それによると、GM、フォード、トヨタ、日産はいずれも
 マイナスになっていて、
 (特に、GM、フォード、トヨタについては「激減」)


 それに対して、ホンダ、ヒュンダイ、マツダが
 プラスになっています。


 今、世界の自動車業界は全体的に厳しい状況にあり、全体が
 「ブレーキを踏んでいる」という状態だと思います。


 このような状況を見据えて上手くブレーキを踏んで柔軟に
 対応できた企業とそうでない企業の間で、
 見事に明暗が分かれてしまったように思います。


 特に、GMとフォードの損失は大きく目立ちます。


 例えば、フォードの業績推移を見てみると、売上高は2006年
 から横ばいが続き、2007年以降はまともに純利益が出ておらず
 下方一直線です。


 その上、ここに来て9000億円という大きな損失を計上しています。


※「フォードの業績推移」チャートを見る
→ 


 また、GMやフォードほど目立ちませんが、ダイムラーの
 業績推移などを見ても苦戦しているのがよく分かります。


 かつて高収益企業だった頃が嘘のように、
 2006年以降は売上も純利益も伸び悩み、ほぼ横ばい状態です。


※「ダイムラーの業績推移」チャートを見る
→ 


 ダイムラーが2007年8月にクライスラーを切り離したのは
 戦略的に成功だったと思います。


 ですが、それも一時的に株価を押し上げることに寄与した
 ものの、根本的な意味で収益構造を改善させることには
 繋がっていません。


※「独ダイムラーとフランクフルト証取の株価推移」チャートを見る
→ 


 また、ルノーも、先日ゴーン氏が5000人の人員削減を
 盛り込んだ欧州内での大規模なリストラ計画を発表したばかり
 という状況ですから、やはり苦戦していると言えるでしょう。


 一方でホンダやマツダが比較的好調を維持できているのは、
 この状況において素早くブレーキを踏むことができたからだと
 思います。


 原油高の影響から米国市場が大型車を敬遠し始めたタイミング
 を見逃さず、すかさず戦略を切り替えられたのは
 素晴らしいことだと思います。


 今回上手くブレーキを踏めず、苦戦の様相を見せている
 トヨタに何が起きているのか、いささか気に懸かる点は
 ありますが、


 世界トップを狙う企業として、そして日本を代表する
 企業として、今後の軌道修正と巻き返しに大いに
 期待したいと思います。


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