大前研一「ニュースの視点」Blog

KON686「トヨタ自動車/日産自動車/中国自動車大手/韓国・現代自動車 ~トヨタは全方位ではなく迷走している」

2017年8月14日 トヨタ自動車 中国自動車大手 日産自動車 韓国・現代自動車

本文の内容
  • トヨタ自動車 マツダとの資本提携を発表
  • 日産自動車 営業利益1533億円
  • 中国自動車大手 中国、自動車3社に統合構想
  • 韓国・現代自動車 韓国・ヒュンダイが「自壊」危機

トヨタは全方位ではなく迷走している


トヨタ自動車とマツダは資本提携を正式に発表しました。電気自動車(EV)の共同開発や米国内で新工場の建設を今後検討するとのことで、自動車技術や排ガス規制など競争環境が大きな転換点を迎える中、トヨタは全方位の提携で生き残りを図る考えです。

私は今、トヨタは迷走していると感じています。ハイブリッド車が成功したので、現状は悪くありませんが、将来に懸念を感じます。電気自動車の開発で遅れを取り、自動運転、水素自動車の分野では、さらに遅れています。テスラが新モデルを発売するなど、電気自動車市場で躍進し、すでにこの分野では勝負あったという状況です。では、将来の水素自動車はどうするのか?未来を考えなくてはいけません。

今さら電気自動車で、マツダと提携して共同開発では遅すぎます。トヨタはハイブリッド車が上手く行き過ぎて、電気自動車の開発が遅れたことが今になって影響が出ています。全方位戦略と言えば耳あたりは良いですが、私に言わせれば「方向感覚」を失っていると思います。

今後のトヨタにとって大きな課題、考えるべきことは大きく3つあります。1つは「電気自動車」について、どう考えるか。もう1つは「シェアリング・アイドル」で、自分で持たない市場が大きくなると、自動車販売台数は3分の1程度になると予想されます。この需要の減退について、どう考えるか。そして最後は「自動運転」で、レベル4の自動運転が実現すると、同じく自動車の数は激減すると思います。スマホで予約して自動運転の車が来てくれる、という世界になるからです。これをどう考えるか。

さらに言えば、電気自動車になると使用する部品の数も大きく減ります。極端に言うと、10分の1程度になるかも知れません。この部品需要の激減に対して、トヨタを頂点とした3万社はどう対処すべきか。トヨタはどう責任を取るつもりなのか。

世界の自動車販売台数を見れば、マツダを加えることで、フォルクスワーゲンを10%程度抜いてトップになりますが、これは短期的な話に過ぎません。マツダと提携して、電気自動車の開発というレベルの話でもありません。トヨタはもっと未来に対して危機感を抱くべきだと私は思います。


日産北米は崩壊している


日産自動車が発表した2017年4~6月期の連結決算は、営業利益が前年同期比12.8%減の1533億円でした。国内販売が好調だった一方、カルソニックカンセイが連結対象から外れたほか、北米市場で実施した販売奨励金によるコスト増加が響いたと見られているとのことですが、これは非常に甘い見方です。

北米日産は、50%弱をレンタカー会社に供給しています。要するに、売れてもいないのにそのような提供をすることで販売台数を水増ししているというのが実態です。もはや禁じ手だと思います。浮かれている場合ではなく、増収減益になった理由はこの北米にあります。日産の北米がどのくらい崩壊しているのか、私は注意深く見守る必要があると思います。


電気自動車を見据え外資を排除する中国


日経新聞は2日、「中国、自動車3社に統合構想」と題する記事を掲載しました。これは、中国国有自動車大手の中国第一汽車集団と中国長安汽車集団の経営トップが入れ替わる人事が明らかになったと紹介。東風汽車公司を含めた3社間でトップが持ち回りのように交代しており、中国では3社が経営統合を視野に入れたとの見方が浮上しています。

かつて鉄鋼会社同士でも似たようなことがありましたが、国策会社として大同合併をするという流れでしょう。中国のメーカー別自動車販売台数を見ると、VW、GM、日産、本田など外資系との合弁企業がトップから名前を連ねています。逆に言うと、外資系の資本が入っていない企業は非常に規模が小さい状況です。

今の中国の動きを見ていると、外資系企業と袂を分かち、自分たち自身で電気自動車を世界に輸出して大きくなるという布石のように思います。合弁会社を作ってきた外資系企業からすれば、今まで信じて一緒にやってきたのに、技術だけ盗まれて終わり、という可能性が出てきています。電気自動車が普及し、内燃機関の自動車は2025年以降販売できないなどとやられてしまったら、目も当てられません。その意味で、「また中国にやられるのか」という戦慄が走っています。今後、中国がどの程度乱暴に外資を排除しにくるのか、注目する必要があると思います。


現代自動車の危機を招いている原因


産経新聞は先月24日、「韓国・現代(ヒュンダイ)自動車が「自壊」危機」と題する記事を掲載しました。今年上半期の最重要市場の中国での販売台数が前年同期比でほぼ半減していると紹介。同社は中国販売の急減は、米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配備に対する中国側の報復措置の影響と説明しているものの、現代自動車自体の競争力も低下している現状で、労働組合は6年連続のスト実施を決定していることなどを含め、韓国の製造業を代表するガリバー企業は「自壊」の危機にひんしているとしています。

米国市場をみるとよくわかりますが、現代自動車の特徴は、それほど質と価格が高くないということです。明らかに、日本車や欧州車の下の値段で勝負しています。その意味では米国のような市場で競争するには、魅力的なものではなく、実際2回ほど米国市場からは撤退をしています。

一方、低い価格帯のブランドとしては買収した起亜自動車などを活用し、総じて言えば世界戦略は成功してきました。途上国、インド、トルコ、そして中国市場での成功が大きな要因になっていました。その中国市場で傷ついてしまったので、今の状況は非常に厳しいものがあります。



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※この記事は8月6日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています




今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?



今週は、自動車業界の話題を中心にお届けいたしました。

記事中で、電気自動車の開発というレベルの話ではなく
トヨタはもっと未来に対して危機感を抱くべきだと
大前は指摘しています。

トヨタが考えるべき大きな課題として言及しているように、
現在の延長として解決策を考えるのではなく、
未来がどうなるかを推測し、その中でどうあるべきかを
考えることです。

問題を長期や全体の関係でとらえず、
現状を小さく打開するような打ち手や小さく改善するような
場当たり的な判断では根本的な解決の機会を失ってしまいます。

複数の未来を前提にし、長期的な視点で広く世の中を見渡し、
客観的にシナリオを考えることが重要です。


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