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〔大前研一「ニュースの視点」〕#122 ゼロ金利解除 無担保コール翌日物金利を0.25%にほぼ6年ぶりの金利引き上げ

2006年7月21日

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 ゼロ金利解除 無担保コール翌日物金利を0.25%に
 ほぼ6年ぶりの金利引き上げ


 福井日銀総裁「連続利上げ意図せず」
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●ゼロ金利解除と経済への影響


7月14日の金融政策決定会合で、
無担保コールレートを0.25%で推移するよう促すと決定され、
長らく続けられていたゼロ金利が解除されました。


01年3月以来、金利を強制的に下げる方法として
日銀が行ってきたのが、日銀当座預金に潤沢に資金を供給するという、
いわゆる量的緩和政策です(注:ゼロ金利導入は99年2月が最初)。


金利は本来市場で決まるものなのですが、
金融機関に対し日銀が過剰に資金を供給することによって
金利をゼロに張り付かせていたわけです。


しかし、資金ニーズがないため実体経済には吸収されず、
景気回復への効果はほとんどなかったと言えます。


一方で企業はその間、負債の削減に努め
数10兆円の自己資金を蓄積してきました。
今回のゼロ金利解除によって企業の設備投資に影響がでると
解説するマクロエコノミストがいるようですが、
これはまったく的外れな見解です。


と言うのも、ここ何年かは企業の設備投資は
自己資金内で行われています。
つまり銀行借入れに依存していないわけですから、
金利が上がったからと言って
設備投資が冷え込むわけではありません。


もちろん借入れで資金を調達している企業には影響があります。
例えばボーダフォンの買収資金をLBOで調達した
ソフトバンクなどは非常に影響を受けるでしょう。


また、当然住宅ローンなどの返済負担は増加します。
むしろこれら住宅関連業界が
最もストレートに影響を受けるでしょう。


●ゼロ金利下で見えた日本人の国民性


今後、追加利上げにより米国並に金利が上昇する可能性が
あるかと言うと、私はその可能性は少ないと思います。
日本には1500兆円の個人金融資産がありますが、
もしこれが大量に海外に流出するような事態になれば、
それを引き止めるため、日本も金利を上げざるを得ないでしょう。


しかし、長年続いたゼロ金利にも係わらず、
個人金融資産が海外に流出することはありませんでした。


例えば微々たる金利のもとでも、
240兆円もの資金を郵貯に置きっ放しにしてしまう。
世界中を探せば利率の良い金融商品はたくさんあるわけで、
論理的に考えれば、運用先を変えるべきなのにそのように行動しない。


ペイオフ解禁後の対応でも、同じことが言えます。
元金の保証額が1000万円とその利息までと決まったとき、
たいした利息もつかない国内の銀行に
1000万円ずつ分散して安心してしまう。


実際、銀行が倒産するときには連鎖倒産しますので、
たいしたリスク分散にはならないのですが、
とりあえず元金は保証されるから安心、といった具合です。


更には、りそな銀行を税金投入により救済しましたが、
このとき国民もマスコミも
強く反対することはありませんでした。


このような日本人の資産運用に対する消極的な態度、
低金利の状況でもじっと耐える国民性には絶句してしまいます。


あっちが得だと言っても動かない、
どんな仕打ちを受けても怒らない、
ひたすら低金利下の日本でじっとしている。
私はこの国民の反応の鈍さが
今の日本を特徴付けていると思います。


しかし、りそな銀行救済をきっかけに
この日本人の特性が世界的に知られることになりました。
すなわち、どんな悪条件下でも個人金融資産は流出しないと
判断されたのです。


すべてのロジックに日本人は反対の行動を取ってきました。
これが皮肉にも海外の投資家に
日本に対する安心感を与えることになり、
外国人の日本買いを誘引することになったのです。


この非論理的な国民性は、現状の教育制度が、
資産運用に関して考える力を
日本人から奪っていることに原因があると思います。


ゼロ金利政策で最も損を強いられたのは国民です。
国民が低金利の日本でじっとしている間、
企業は借金体質を解消し、
銀行は預金者に本来支払うべき金利を払うことなく、
不良債権処理を進め、そして今、ゼロ金利を解除するに至りました。


これはあたかも、金融当局者と文部科学省が一体となった
教育の大勝利と言ったところでしょうか?


                               -以上-


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