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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON220 洞爺湖サミット:「演出」と「主張」のない議長国ニッポンの課題~大前研一ニュースの視点~

2008年7月18日

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北海道洞爺湖サミット 温室ガス削減 長期目標も新興国も共有
「豪華ディナーを食べ、食糧危機語るとは」批判
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●海外の報道では、ほとんど福田首相が映っていないという事実


 7月9日、北海道洞爺湖サミットは、3日間の全ての日程を終えて
 閉幕しました。最大の焦点だった地球温暖化対策では、
 主要8カ国が2050年までの温室効果ガス排出量の半減という
 世界全体の長期目標の共有を全ての国に求めることで一致。


 中国やインドなど新興国の首脳からも、数値に触れない形で
 支持をとりつけました。


 ちょうど私はサミットが開催されていたときに香港に
 居たのですが、私が香港の報道を通じて見ていた印象を言えば、
 全体的に霧がかかったようなモヤモヤした印象を受けました。


 サミットの会議内容そのものの問題もありますが、
 何しろ香港で見ていると、日本で開催されているサミットなのに、
 日本の福田首相が登場するシーンが見当たらないという
 不思議な事実を目の当たりにしました。


 当然、日本の報道では福田首相を中心に伝えられていましたが、
 海外に出てみると、ブッシュ米大統領とロシアのメドベージェフ
 大統領が会っているシーンなど、


 日本の福田首相以外の人の動きが中心に報道されていた
 と言っても言い過ぎではなかったと思います。


 また、一部海外の報道では「食糧問題を論じるサミットに
 出席した首脳や夫人たちが歓迎夕食会で、キャビアやウニ
 といったぜいたくな料理を楽しむのは偽善的だ」


 などと批判されていましたが、この辺りはホスト国として
 日本の外務省の演出が上手くない点が露見してしまった
 と言えるでしょう。


 日本としては一生懸命におもてなしをしたつもりなのでしょうが、
 特にヨーロッパの報道機関というのは、この手の演出が嫌いです。
 テーマとの関連性を重視した演出を考えるべきだったと思います。


 例えば、食糧危機問題を論じる間、24時間は水以外何も
 口にしないようにする、原油高に考慮して電気自動車を使って
 会場に来てもらう、などといった演出もある程度必要なのだ
 と思います。


 実際には、電気自動車などを走らせる演出は少しあった
 ようですが、日本の報道機関しか伝えていないので、
 ホスト国として世界へのアピールという意味では失敗している
 と言わざるを得ないでしょう。


 サミットに関して、もう1つ、
 「日本は世界の国とのつき合い方が下手だな」
 と感じた点がありました。


 それは、日本がしきりにサミットのメンバーを
 13カ国に増やすのを拒否し続けていることです。


 世界の趨勢からすれば、フランスやイギリスなどは明言して
 いますが、少なくとも急成長を遂げている中国とインドが
 加盟していないのはおかしいという意見が強くなっています。


 ところが、日本は頑なにG8にこだわって、中国やインドなどの
 新しい国の加盟を拒否し続けています。


 日本の国連安保理の常任理事国入りを中国が認めない
 ということに対して、逆に中国に対して子供じみた嫌がらせを
 しているようにしか私には感じられません。


 こういうところで変に突っ張ってしまうことが、
 諸外国が日本の外交センスを疑う下地を築いてしまうのだ
 と私は思います。


 サミットは単なる儀式ですが、それでも実際に各国の首脳が
 集まって話し合いをする意義は大きいと思います。


 世界情勢の実情から考えて、中国・インドをはじめ、
 5カ国を新たに追加するのを日本としては認めるべき
 ではないでしょうか。


●日本は議長国として、もっと強く主張するチャンスがあった


 今回のサミットに関して、外務省がもう少しうまい演出を
 するべきだったという反省点に加えて、
 私は他にも気になる点がありました。


 それは、日本は他の参加国に対して、もっと強く
 「あなたたちの国でも、日本並みの環境対策をするべきだ」
 と主張できたのに、そのチャンスを逃してしまった
 ということです。


 7月14日号のTIME誌の記事に、最近では非常に珍しい論調の
 記事を2つ発見しました。


 1つは、先日の胡錦濤主席の訪日以来、日本と中国の関係が
 非常に穏やかに上手くいっているという記事です。


 東シナ海のガス田も共同開発が決まったこと、
 日本の海上自衛隊が中国を訪問したこと、


 また、1基3,000億円~5,000億円とも言われる
 原発の開発を中国が日本に2つも発注したことなど、
 5つの理由を挙げて両者の関係が、
 非常に和やかで良好であることを伝えています。


 もう1つは、環境対策を考えるにあたり、一人当たりの
 エネルギー消費量、国内総生産(GDP)当たりのエネルギー
 消費量で見ると、日本は非常に優秀で、他の先進国や中国、
 インドは日本に学ぶべきだということを述べている記事です。


 この記事によると、一人当たりのエネルギー消費量では、
 カナダ、米国、ロシアの数値が高く、GDP当たりで見ると、
 ロシア、中国、インドといった途上国の数値が
 非常に高くなっている点が指摘されています。


 また、日本の数値はいずれの指標でも米国の約2分の1に過ぎず、
 まだまだ改善の余地があるとはいえ、
 他の国々が日本に学ぶべき点が多いと主張しています。


 近年のTIME誌にしては珍しく日本を褒めていたわけですが、
 この指摘は正しいと私は思います。


 2050年までに温室効果ガス排出量の半減などと言わなくても、
 中国には石炭を燃やすのを控えるように、米国にはエネルギー
 消費を控えるように、「少なくとも日本の数値並になってくれ」
 と言ってしまえば良いのです。


 実際、先進国及び中国やインドが日本並みの水準になるように
 努力して、それを実現できれば、今取り上げられている
 ほとんどの環境問題は解決することになります。


 日本は今回のサミットの議長として、そして環境問題の
 優等生として、他の国々にこうした指摘をする大きなチャンスが
 あったのですが、残念なことにそれを逃してしまいました。


 当たり前の話ですが、どんな時でも下手に出ているだけでは
 外交になりません。


 時と場合によっては、強く主張することが必要です。


 「食糧問題を論じるのに豪勢な食事で歓迎してしまった」
 というのも、時と場合を踏まえた対応をする柔軟さが欠けている
 という、日本の悪いところが露呈してしまった
 と言えるかもしれません。


 こうした点を課題としながら、今回のサミットの反省をして、
 今後の諸外国との外交に活かしてもらいたいと思っています。


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