大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕#121 羽田空港国際線ターミナル新設へ

2006年7月14日

■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■
 羽田空港国際線ターミナル新設へ


 国際線導入へ本格的に始動
 09年秋完成予定
 建設資金900億円に税金投入せず、PFI方式採用
■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■


●国内外をつなぐハブ空港となりえるのは、羽田空港だけ


羽田空港に国際線が本格的に導入されることになりました。
これによって、ようやく日本国内と国外を結びつける、
海外のそれにも劣らないハブ&スポークスが
確立されることになるので、
非常に素晴らしいことだと思います。


そして、ハブ&スポークスの確立という意味では、
羽田空港は最後の砦・希望ではないかと思います。


現在日本にある国際空港では、滑走路の数が少なすぎて、
国際ハブ空港としてまともに機能できるところはありません。
成田空港が1本半、中部セントレア空港が1本というのが
現状の滑走路の数です。


ハワイやラスベガス行きなど、
特定の路線ばかり航空便が多くなっても、
産業路線としては意味がありません。


産業路線として考えるならば、中国・東欧・中東などの
世界の都市と日本の国内の都市をつなぐ
数多くの路線を組む必要があるのです。


東欧や中東に行ってみるとよくわかりますが、
日本企業の進出はほとんど目にすることはできない一方で、
ヨーロッパの企業や特に韓国の企業の進出が非常に目立ちます。


これは、韓国が仁川空港を国際ハブ空港として見事に活用し、
国内と国外の都市を結ぶハブとして
機能させている結果と言えると思います。


サハリン・ウラジオストックなどのロシア極東便が16本/週、
カイロ・ドバイなどの中近東便が46本/週、
インド便が20本/週、
上海・青島・天津などの中国便が482本/週
もの数の航空便が仁川空港から飛び立っています。


日本国内の国際空港でも
同じくらいの路線を確保しようと考えると、
成田空港やセントレア空港の滑走路の数では話にならず、
7本の滑走路を持つ羽田空港が最後の望みなのです。


7本のうち古い3本を廃線予定ということですが、
それでも4本の滑走路があるわけです。
4本の滑走路があれば十分に世界の都市との路線を
確保していくことは可能だと思います。



●PFI方式のメリットを最大限に活かし、国家戦略的に産業路線を確保すべき


今回採用されたPFI方式というのは、
空港のような公共施設の建設や維持、
管理などを民間の資金や経営ノウハウで行うという手法です。


例えば、今回のケースで言えば、空港内のテナント権や
エンジンの修理サービスを保証する代わりに、
資金を出資してもらうということです。


私がマッキンゼーのアジア担当の責任者だったころ、
マッキンゼーが手がけた香港空港の建設も
この方式を利用して成功した事例です。


当時、97年の香港返還を目前に、
中国政府は空港建設の借入金が残ることを嫌い、
空港建設にNGを出しました。


そこで、PFI方式を採用し、民間からの資金を集め、
香港空港建設に着手したのです。


先の仁川空港の例の通り、国際ハブ空港を築く上で大切なことは、
多様な都市との結びつきであり、多様な路線を確保することです。
韓国の場合には、国家・財閥戦略の一環として
多くの路線確保が実現していると思われます。


日本の場合には、せっかく空港ができても放っておくと、
レジャー向けのハワイ便などに偏ってしまい、
中近東などの路線が確保されないだろうと思います。


これでは、産業路線としての意味がありません。


PFI方式のメリットを活かせば、
当初は若干の赤字路線であっても、
将来的な権利を担保に資金を集めることができるでしょう。


大切なことは、一部の儲かる路線に偏ってしまうことなく、
国家の戦略として、将来的にどこの都市と
どのくらいの頻度で結びつくべきかという
「シティ・ペア」を考慮し、
1つのパッケージとして多様な産業路線を確保することです。


私は関西国際空港の建設時にも同じことを提唱しましたが、
結局実現されずじまいのまま、
香港空港や仁川空港に取って代わられてしまいました。


今回の羽田空港の国際線導入は、
日本の空港がアジアの中で国際的な競争力を確保する
最後のチャンスではないかと思います。


羽田空港が国際ターミナルを持ってしまうと
成田空港の存在意義がなくなる、という理由で
千葉県が反対しているということですが、
こんなものに耳を傾けている場合ではありません。


国家戦略として取り組むべき重要なプロジェクトです。


羽田空港の滑走路の数は、外国の空港のそれと比較しても、
類を見ない多さです。
国際ハブ空港として十分に活躍できる潜在能力があります。


最後にして最大のチャンスということもできるでしょう。
ぜひ、このプロジェクトを成功させてもらいたいと思います。


                             -以上-


問題解決力トレーニングプログラム

問題解決力トレーニングプログラム

大前研一 ニュースの視点 Blogトップへ

  • メルマガ

    ニュースの視点メルマガ登録

最近の投稿記事

ニュースの視点メルマガ登録

ブログの更新情報

バックナンバー

  • facebook
  • twitter

各種ソーシャルメディアで様々な情報をお届けしております。

大前研一 ニュースの視点