大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕#120 投資会社トランシダのカーコリアン氏、GMにルノー・日産連合入りを提案

2006年7月7日

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 投資会社トランシダのカーコリアン氏
 GMにルノー・日産連合入りを提案


 GM取締役会で検討へ
 販売額でトヨタの2倍の巨大グループ誕生へ
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●またも垣間見えた、戦略なきゴーン氏の経営姿勢


この数ヶ月、私はカルロス・ゴーン氏の日産の経営に対する
やる気の無さについて、ことあるごとに批判してきました。


今回の件についても、ゴーン氏の対応は戦略家としての
日産経営者の判断とは言えない、
と指摘したいと思います。


カーコリアン氏から接触を受けたゴーン氏は、
日産とルノーで各々10%ずつ、
合計20%のGM株の取得に興味を示していると報じられていますが、
私に言わせれば、こんな20%くらいの比率で
提携しても全く意味がありません。


日産としても、いつまで経っても
トヨタに勝てる見込みは立たないし、
GMにしても根本的な経営課題であるレガシーコストに
悩まされることに変わりはないのです。


しかし、今回のGMとの提携について、
しっかりとビジョンを持って戦略的に事を運べば、
GMが抱える経営課題である約1兆5千億円にのぼる
レガシーコストの問題を解決することができると
私は考えています。


そして、それは日産にとっても、
大いに戦略的な意味があることです。
もしGMのレガシーコストを処理することができれば、
GM単体からの収益構造を劇的に改善することができます。


そのような状態で、ルノー・日産・GMの3社が完全合併すれば、
トヨタを抜き去る巨大グループとして
機能することができるからです。


逆に言えば、GMのレガシーコストを見据えていなければ、
そして、将来的にルノー・日産・GMの3社の
完全合併を想定していないのであれば、
ゴーン氏は全く戦略的な判断ができていないと
言っていいでしょう。


そして、今の段階でマスコミに公表してしまっている
ということは、ゴーン氏には、
このような将来的なビジョンもなかったし、
戦略的な判断もできていなかったのでしょう。


なぜなら、今発表してしまえば、GMの株価が上がってしまい、
最終的に日産がGMを完全合併するコストが
高くなってしまうと気づくはずだからです。



●日産が打つべき戦略的な手とは何だったのか?


では、日産はどのような手を打てばよかったのか?


まず、第1ステップとして、日産とルノーの資本のねじれ現象を
解消することからスタートするべきです。


現在の状況では、フジテレビとニッポン放送と同様、
健全な状況ではありません。
この状況では、例えば、村上ファンドにルノーを通じて
買収をかけられるような事態になってもおかしくないですから、
とても危険な状況です。


日産がルノーを逆買収し、親会社として
健全な持ち株比率にします。
その上で、日産がGMを完全買収します。


日産はGMに対して約2倍の時価総額になりますから、
GMを完全買収することは、十分実現可能なことだと思います。
あるいは、スワップを利用しても構わないでしょう。


そうすると、一体どのようなことが起こるか?
日産をV字回復に導いたゴーン氏への期待も手伝って、
GMの株価は上がります。
私の見込みでは、おそらく、GMの時価総額が6兆円ほどまで
上がるのではないかと思います。


すると、第3者割当でも公募でも、
2兆円ほど増資を受けることができるでしょう。
そして、その2兆円を、そっくりそのまま、
GMのレガシーコストの解消に充当してしまえばよいのです。


レガシーコストが解消されると、1台あたりで換算すると
1500ドル分コストを安くすることができます。
こうすれば、GM単体として収益が出る体制を
確立することができます。


そうして、日産・ルノー・GMでの
完全合併のお膳立てが完成します。


おそらく、このやり方が、日産がトヨタ自動車に勝つ
唯一の方法でしょう。
この機を逃してしまっては、
永久にトヨタを抜くことはできないのではないでしょうか。


今回のGMとの提携というのは、
そういう意味で千載一遇のチャンスだったのです。


最近も米国日産の売り上げ低迷の対策として、
米国本社のカリフォルニアからナッシュビルへの
移転発表をして批判を受けているゴーン氏。


相変わらずコストカッターとしての手腕ばかりを
振るっています。
しっかりとした将来のビジョンを持った戦略家として、
経営に取り組んでもらいたいと思います。


                          -以上-


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