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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON210 チベット問題・北京五輪聖火リレー騒動から垣間見みる中国「愛国心」の正体~大前研一ニュースの視点~

2008年5月2日

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チベット問題
中国反仏デモ拡大
カルフールCEO「深刻に受け止める」
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●中国に対して、腰砕け外交を展開する諸外国


 パリで起きた北京五輪聖火リレー妨害に抗議するため、
 中国で展開するフランス系スーパーのカルフールを標的にした
 デモは、20日、中国各地に広がりました。


 その中、中国政府が近くダライ・ラマ14世の関係者と
 直接対話に応じることが25日明らかになりました。


 直近の展開では、中国特使の訪問を受けたダライ・ラマ側も、
 中国との直接対話に応じる構えを見せていますが、
 このまますんなりと解決とはならないでしょう。


 私がこの一連の騒動の中で気になっているのは、
 次のような点です。


 まず1つは、諸外国が中国外交に対して「腰砕け」になって
 しまっているということです。


 特にフランスなどは、サルコジ大統領が「オリンピック自体は
 ボイコットしないが、自分は開会式に出席しない」ということ
 を匂わせていた程、中国に対して強い姿勢を示していました。


 しかし、中国全土で反仏デモが起こると、慌てて特使を派遣し、
 あまつさえ、聖火を守った中国人に対して、大統領自ら
 歯の浮くような礼賛を述べる始末です。


 フランスほど極端ではなくても、中国に進出している
 自国企業へのバッシングを恐れて、日本や韓国を始めとする
 他の諸外国も、まるで腫れ物に触るように中国に接しています。


 これに対して、中国側は非常に組織的な動きを見せています。


 それぞれの諸外国にターゲットを絞った「嫌がらせ」をする
 ことで、確実に諸外国を困らせることに成功していると
 言えるでしょう。


 結果、中国に対する腰砕け外交を上手に引き出している
 と言えます。


 このような状況になってくると、中国はやはり自分たちは
 正しかったのだという認識を持ち始めるから恐ろしい
 と感じます。


 中国は「平和の祭典を政治問題化してはいけない」などと
 主張していますが、今回、オリンピックを政治問題化させて
 いるのは他ならない中国です。


 世界中でオリンピックを政治化しておきながら、
 愛国心の表れだと言っていますが、
 そもそもオリンピックに愛国心を持ち込まれても困ります。


 さらに言えば、中国は台湾問題を中心に過去に7回も
 オリンピックをボイコットした経験があります。


 まさに、オリンピックを政治問題化した実例です。


 確かにこの20年は静かにしていますが、だからと言って
 過去を棚上げにして、愛国心を前面におかしな議論を
 展開されるのも困ったものだと思います。


●中国の統治機構を見直さなければ意味がない


 結局、チベット問題は今のままの方法では解決しません。


 私はこれまでにも何度か意見を述べたことがありますが、
 この問題を解決するためには、共産党要綱の内容を含めた
 中国の統治機構問題を含めて解決にあたるべきだと思います。


 具体的には、1949年に毛沢東率いる中国共産党が作り上げた
 版図への認識を見直さなければ駄目だということです。


 この根本的な問題をないがしろにしたままでは、
 ダライ・ラマ14世と話し合いをしても、オリンピックを平和に
 終わらせるための方便に終始するのが関の山になると思います。


 なぜなら、チベットを元来固有の領土と考えている
 中国との間には、本当の意味で理解しあえる関係が築けるとは
 思えないからです。


 そしてこれを解消するためには、中国の「教育」に焦点を
 当てる必要があります。戦後の中国の教育では、チベットは
 中国固有の領土と教えられています。


 1949年~51年にかけて中国共産党がチベットを征服して版図を
 作り上げたという事実を教えてはいません。


 もちろん世界の共通認識は中国による「征服」ですが、
 かつての中国共産党政権は、宗教を禁止するほどの一方的な
 教育を強いることで、独自の認識を国民に植え付けたのです。


 まさに、全身全霊をかけた共産主義の教育の為せる業
 だと言えるでしょう。


 この1950年前後の歴史を正しく教えられていないと、
 世界の国々と中国とではチベットに対する認識が違いますから、
 意見が対立することが出てくるのは当たり前です。


 中国は「中国人は愛国心が強い」からだと主張している
 ようですが、そうではないのです。世界と異なる認識の教育を
 受けているということを認めるべきだと思います。


 また、今回の騒動でも話題になっている中国人の「愛国心」
 にしても、教育による影響が強いと私は思います。


 戦前の日本が、教育により鬼畜米英のスローガンを信じて
 戦争に行ったのと同じです。中国全体主義の中で、愛国心を
 持つように教育されているから、愛国心が育っているのです。


 こうした教育を受けた中国人が、教育の呪縛から逃れる
 ためには、外国で5年~10年ほど生活して、外国の生活に
 溶け込むことが必要だと私は感じています。


 例外的に、天安門事件などをきっかけに中国を飛び出した
 人たちの中には、反政府的な思想が強く、元々中国が少し
 世界からずれているのではないかと感じていた人もいます。


 しかし、一般的な中国人には外国で過ごす
 5年~10年の歳月が必要です。


 そのくらいの期間が経つと、例えば子供が成長して
 自分の親の考え方が少し時代遅れだと気づくときのように、
 中国政府のエキセントリックさに気づくことが
 多いように思います。


 また、今回の騒動を報道しているニュースを見ていて特徴的
 だと感じたことがあります。それは、中国の報道官の諸外国に
 対する態度が、極めて高圧的だったということです。


 北朝鮮の報道官ほどではありませんでしたが、国際社会で
 共存していくという意識があれば、もう少しマイルドに接する
 べきではないかと私は感じました。


 こうしたところにも、世界と共存できない国民性を
 作り出している中国教育の一端を垣間見たのです。


 中国政府は、事あるごとに「歴史を鏡にして」という
 フレーズを使いますが、まず自らがそれを実践するべき
 でしょう。


 中国がチベットを征服したという歴史から目をそらしては
 いけないのです。そして、それを教育によって取り繕うべき
 でないのは言うまでもありません。


 これから一人でも多くの中国人が「愛国心」の正体に気づき、
 国際社会の中で共存できる人になることを強く願っています。


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