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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON208 「天下り禁止」は日銀総裁人事の根本的解決にあらず~大前研一ニュースの視点~

2008年4月18日

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日銀総裁人事
白川方明氏を第30代総裁に任命
副総裁案は民主党などの反対で否決
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●政局屋の小沢代表は何を考えていたのか?


 衆参両院本会議は、9日、日銀の新総裁に白川方明副総裁を
 昇格させる政府提案を可決・同意し、
 白川氏は同日第30代日銀総裁に任命されました。


 3月20日から戦後初めて総裁ポストに空席が生じていましたが、
 3回目の提示で21日ぶりに解消しました。


 白川氏の就任に至るまで、国会では福田首相と民主党小沢代表
 による論争が、かなりヒートアップしていたのを見た人も
 多いと思います。


 物静かな福田首相ですが、今回ばかりはいささか感情的に
 小沢代表をなじっていたのは、芸がなかったと私は感じました。


ただ、より根本的な点から意見を述べれば、
 国会運営が従来のように正常に機能していない、
 ということが一番大きな問題だと思います。


 実際、山岡国対委員長なども機能していないのは明らかです。


 最初の段階から民主党が日銀総裁に相応しい人物の基準を
 明確にして、こういう人なら受け入れられるというのを
 明らかにしていれば、日銀総裁不在などという前代未聞の
 みっともない事態に陥ることはなかっただろうと思います。


 そういう意味で、民主党の小沢代表の責任は否定できない
 でしょう。今回の一連の騒動を見て、民主党は自民党の粗探し
 をして弱い者いじめをしているだけで、民主党としての政策を
 感じられないという人もいるかと思います。


ただ、私に言わせれば、小沢代表というのは、今さら言うまで
 もなく、筋金入りの「政局屋」ですから、今回の場合も
 本質的な意味での政策などは全く考えていないのは、
 ある意味、「いつも通り」といったところでしょう。


 今の小沢代表は、外では自民党の福田首相と争いながら、
 必ずしも一枚岩ではない民主党の党内体制の中で自らの意見が
 通らずに苦労しているという状況です。


 そのような状況下において、
 「とりあえず選挙に勝てば後は何とかなる」というのが
 小沢代表の基本的な姿勢だったのだと私は見ています。



●日銀総裁に求められる役割とは?
          天下りを否定するだけでは不十分


 また、今回の事態に陥った大きな原因として、与党が財務省に
 あまりにも遠慮し過ぎているという側面も見逃してはいけない
 と思います。


 これは一見すると、「財務省出身者はダメだ」と主張した
 民主党の意見が正しかったように見えますが、
 今回のケースでは、たまたまそういう結果になった
 という程度に考えておくべきだと思います。


 財務省出身だからダメだという烙印を押すのではなく、
 本来ならば人物を見て決めるというのが本筋のはずです。


 また、別の観点では、財務省出身者であることを理由に
 日銀のポストに就くことを全面的に認めないのは、
 組織の活性化に支障をきたす可能性があります。


 常に日銀の生え抜きの人が下から上がっていく人事のみに
 執着すれば、日銀という組織に新しい風が入り込む余地を奪い、
 組織内に新鮮な血が回らなくなります。


 ですから、私に言わせれば、民主党の議論にも
 大いに弱みがあります。人物をしっかり見定めるためには、
 それぞれの基準を定めることが必要です。


 「財務省出身者でもこういう人物ならOK」
 「外部出身者ならこういう条件を備えている必要がある」


 などという点を具体的にガイドラインとして民主党が
 提出できていれば、合格点だったと思います。


 今回の日銀総裁の騒動について、世間では民主党の小沢代表に
 対して天下りを容認しなかったと好評価をする人も
 いるでしょう。


 もちろん、私も天下りという制度に賛成しているわけでは
 ありません。


 しかし、今回の議論について、小沢代表が示すような
 「天下りは良くないから、それを禁止すればいい」
 という見解だけでは何ら解決策にはなっていません。


 民主党は不同意するばかりでケチをつけているだけでないか
 と批判を受けるのも仕方ないと思います。


 私は、元大蔵省の武藤氏や田波氏が総裁候補としてあげられた
 ときから、適任なのは白川氏だと一貫して主張してきました。


 それは、武藤氏や田波氏は国際的な業務経験よりも
 ドメスティックな業務経験が長く、国際金融の担い手としての
 日銀総裁に最も適しているとは言い難いと判断したからです。


 その点、白川氏は、福井前総裁と同様、国際金融に
 非常に長けた人物として適任だと感じていました。


 今回の問題については、表層的に元財務官僚の天下り
 と考えるのではく、日銀総裁に求められる役割から、
 その職務遂行に必要なスキル・経験などを考えて
 人物評価するという結論に至るべきだったと思います。


 今さら小沢代表に求めるのは難しいかも知れませんが、
 せめて基本的なスキルとして本質的な問題を把握すること
 ぐらいは身につけてもらいたいところです。


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