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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON206 中国はまだ大丈夫?中国・上海市場における4つのマイナス要因

2008年4月4日

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中国市場 対ドル相場上昇が加速
27日:1ドル=7.013元
上海総合指数が大幅続落
27日:3411.493ポイント
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●今は中国経済に対する消極的な側面が強くなっている局面


 人民元の対ドル相場上昇が加速し、1ドル=6元台への突入が
 目前に迫りました。


 27日には中国人民銀行が決めている基準値で
 1ドル=7.013元まで上昇、
 2005年7月の為替制度改革後の最高値を更新しました。


 一方、27日の上海総合指数は節目となる
 3500ポイントを割り込み、
 前日比で5.416%安の3411.493ポイントの安値となりました。


 


 しかし、28日には大幅反発。
 前日比4.944%高の3580.146ポイントと
 3500ポイント台を回復しているという状況です。


 2005年末に、会社法、証券法などが改正され、
 いわゆる投資家保護の方向性を持つに至った上海市場ですが、
 一貫して世界経済からの信頼は得られていませんでした。


 それは法改正以降、株価が上がるたびに、
 中国政府は自らが保有する株を売ってしまうというような
 中国という国の体質によるところが大きいと思います。


 上海市場は、2006年にはわずか1000ポイントに過ぎなかった
 株価が、一時は6000ポイントまで上昇するという
 異常な事態に見舞われていましたが、
 ここに来て、3500ポイントの水準まで是正されてきました。


※「上海株式市場の推移」チャートを見る
→ 


 では、これから中国・上海市場はどのような動きに
 なっていくのかという点ですが、私は次の4点において
 大きなマイナス要因が響いてくると考えています。


【1】.米国の景気が落ち込んでいること


 中国経済は米国への輸出で支えられている側面が大きく、
 厳しい局面になると思います。


【2】.人民元が高くなってきていること


 長期的に見ると購買力が強くなりますから
 マイナスばかりではありませんが、
 短期的には輸出競争力を失うのは間違いないでしょう。


【3】.チベット問題により世界からのイメージが
  ダウンしていること


 一連のチベット問題への対応を見て、ヨーロッパ諸国を中心に
 中国へのバッシングが強くなっており、
 同時に中国経済に対する警戒心も強まっています。


 ただ、チベットにしたところで、1950年代には
 すでに武力を行使していたのですから、
 私に言わせれば中国は昔から「そういう国」であり、
 今さら中国観を改めるのはおかしな話です。


【4】.オリンピック後、消費が翳る可能性が高いこと


 北京オリンピックそのものはプラス要因ですが、
 すでに設備投資なども終わっていて、
 特にこれからの大きなプラスはないと思います。


 一方、オリンピックが終わってしまうと
 消費が翳るという可能性が懸念されます。



 こういったマイナス要因がこの1ヶ月の間に急速に加速した結果、
 今のような状況になっているのだと思います。これまで
 上海市場は、香港市場から乖離して値が高くついていましたが、
 今後はそれも是正されていくことになるでしょう。


 今の時点では中国に対する消極的な見方に傾いているのは
 事実ですが、一方で「中国はまだまだ大丈夫なのだ」という
 見方をする人も多いと思います。


 中国に対する見方というのは、常に積極的な側面と消極的な
 側面が相対してきましたが、今回は中国政府によるIR不足
 のため消極的な側面が強く前面に出ているのだと思います。


 中国政府自体が具体手的な経済政策を示したうえで、
 「中国は大丈夫なのだ」ということをきちんと発言していれば、
 もう少し事態は変わっていたかも知れません。


●加工貿易立国の先には、中国の未経験の時代がやってくる


 一時的に落ち込みつつある中国経済ですが、長い目で見れば
 戦後の日本のように、大きな成長過程にあることは
 変わりないでしょう。


 ただ、戦後の日本が経験した「円高」のような苦しい状況を、
 今後「元高」が進んだときに、中国政府、中国の経営者が
 乗り越えていくだろうか?という点について、
 私はかなり疑問を感じます。


 まず、今回の上海市場の動きを受けて、中国政府自体が
 「今のうちに(値が高いうちに)売ってしまおう」
 という選択をする可能性があると私は見ています。


 つまり、オーバーハングしている株を資金に換えるのです。
 中国政府は、これまでもこのような動きは見せていますから、
 十分にあり得ると思います。


 また、中国の経営者は、元高が進み、輸出によるメリットが
 薄れて経営が難しくなってくると、全く別の事業を始める
 のではないかと私は見ています。


 端的に言えば、不動産ブームに乗って、より簡単に儲かる
 不動産業などに転身する人が急増するのではないかと思います。


 私は多くの中国人経営者の知り合いがいますが、
 彼らを見ていても、特に強い想いを持って製造業を
 担っていこうという気概は感じられません。


 もちろん、中には違う人もいますが、全体的な特徴として
 見れば、日本人に比べて商業資本的な考え方が強いと思います。


 かつて円高が進み、360円から80円を超えるまでの4倍以上
 になったとき、日本の経営者は、創意工夫に励み
 何とか状況を突破することを目指しました。


 その結果、東京都大田区、東大阪市のような根強く
 モノ作りを支える中小企業が日本の製造業の
 インフラストラクチャーを形成することができました。


 しかし、中国にそれを期待するのは難しいでしょう。


 非常に不思議なことですが、中国人を見ていると、
 芸術の分野では「この道一筋」という芯の強い人も多い
 のですが、こと経営になると、そういう「一筋」通った人たち
 は少数派になってしまいます。


 実際、私の知り合いの中国人経営者でも、
 かつては電気製品を製造していたのに、いつの間にか
 不動産屋になっていたという人がいます。
 これが、良くも悪くも中国の特徴なのだと思います。


 元高により加工貿易で利益をあげることが困難になるのに
 したがい、これから多くの経営者が他の事業に転身していく
 という時代になる可能性があります。


 それは中国にとって先例のない、未体験の経済社会が
 出現することになります。
 そうなると、中国経済もまた大きく変わるでしょう。


 おそらく中国政府の政策立案者は、中国人経営者が
 自分の財産を守るためにどのような事業に関心を持っているか
 を知らないでしょう。


 なぜなら、まだ問題は表面化していませんし、今までに経験も
 ないことですから。また、当の経営者が自身の本意を政府に
 正直に答えることもないでしょうから。


 だからこそ、ポスト加工貿易立国に備えて、まずは、
 私のように多くの中国人経営者に直接会って、
 彼らの価値観や考え方を肌で感じることが
 大切になってくると私は思います。


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