大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕#119 22日、経済成長戦略大綱の原案、経済財政諮問会議へ提出

2006年6月30日

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 22日、経済成長戦略大綱の原案、経済財政諮問会議へ提出


 短・中・長期の数値目標設定
 サービス産業の重点6分野
 2015年までに70兆円の市場拡大、成長率2.2%を目指す
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●経済成長戦略大綱…時代遅れ甚だしく、戦略とは呼べない代物


経済産業省が経済財政諮問会議へ提出した
経済成長戦略大綱を見てみると、
戦略大綱とは名ばかりで、
とても戦略と呼べる代物ではないと感じます。


短期・中期・長期の数値目標を示した工程表があります。
「科学技術」「農業」「医薬品」「IT」「エネルギー」
などの産業別に、数値目標が設定されていますが、
嘘っぽい数字が羅列してあるだけで、
とても戦略と呼べた代物ではありません。


例えば、医薬品の長期目標にあるのが
「世界トップ10に入る製薬会社の育成」というもの。


国が会社を育成するとは、
一体どういうつもりなのか?
私にはさっぱり理解できません。
武田製薬がM&Aをするときに、
国が資金提供でもしようというのでしょうか?


農業ではこれまで農水省の育成策は効果がありませんでしたが、
今回の戦略を見ても果たして効果があるのか甚だ疑問です。


同様に、IT産業の長期目標では
「15年度にコンテンツ市場を5兆円拡大」とあります。
コンテンツこそ、まさにハイコンセプトなもので、
役人の固い頭から出てくるものではありません。


何十億円もかけてグーグルに対抗する
検索システムを作ると息巻いた国ですから、
政府主導の政策でどのような結果になるかは、
推して知るべしといったところです。


これらは個別の戦略としての問題点もありますが、
もっと根本的なところに問題があります。


それは、そもそも産業別の政策を国が決めていく
という方針そのものが、もはや時代遅れだということです。
これは発展途上国時代に当てはまるモデルだからです。


かつて日本においても、発展途上国の時代がありました。
当時は通産省が5カ年計画を策定し、
「鉄は国家だ」「これからは鉄ではなく半導体だ」
などの旗印の下、国が産業政策を指導したことがありました。


そして短い期間ながらも上手く機能したのも確かです。


しかし、今は時代が違います。
産業が十分に発達し、少子高齢化社会を迎えようとする
今日本においては、国家は別の観点から政策を考えなければ
意味がないのです。


産業別の政策は民間に任せても
勝手に上手くやってくれます。
今回提出された目標の1つである
「次世代自動車で8兆円、ロボットで3兆円の市場を
作りましょう」なども、国が指導する必要などないでしょう。


自動車産業もロボット産業も、
民間企業は国家の手助けを借りることなく、
産業政策を進めていくのは、
これまでの歴史を見ても明らかです。



●政府がやるべきことは、税制改革を通じた公共投資のための資金政策


では、国・政府が経済成長を支える上で
取り組むべき政策とは何でしょうか?


1つには税制改革が挙げられます。
例えば、住宅にも減価償却を認めて、
個人にもバランスシートを導入します。


このとき、減価償却費が所得税から還付されるようにすれば、
住宅の建て替え需要はぐっと上がります。


また、少子高齢化社会では、
高齢者の一人暮らしが増えるでしょうから、
バリアフリーへの建て替え需要にも、
税制面や規制の問題を解決し、
より容易に建て替えできる環境を整備するのが政府の役目です。


そう考えると、自治体として町全体をシルバータウンとして
整備していくこともできるでしょう。
その際には、政府(官)は下水道や地盤などの整備を行い、
民間企業(民)に別のところを任せるという
役割分担をすればよいのです。


繰り返しになりますが、政府が産業政策に
手を出す必要はないのです。
むしろ、民間にできることに単に口を出すだけですから
邪魔になるだけです。


これから少子高齢化を迎える日本においては、
こうした住宅の立て替え需要の増加は、
確実に経済成長につながるのがわかると思います。


さらに税制改革を進めて、免税債の導入をする
ということも可能でしょう。
アメリカで言うところの市債・郡債にあたるものです。


これらの免税債を購入したことで発生する費用を、
所得税から引き当てることを許可するという形にします。
そうすれば、実質利回りが増すことになりますから、
市民は喜んで免税債を購入するでしょう。


こうすることで、多額の民間の資金を
公共投資に向かわせることが可能になります。
政府主導で行うべき政策とは、例えばこういうことなのです。


政府は、今回の戦略大綱のように見るからに
嘘っぽい数値目標を掲げて、産業別の政策を策定する
などといった時代遅れのことをやっている暇などないのです。


今回の戦略大綱の例を見てもわかるとおり、
日本の役人の気質というのは甚だ時代遅れです。


これからの時代を担う新しい人材には、
ぜひ新しいモノの見方・考え方を
身につけて欲しいものだと思います。


                              -以上-


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