大前研一「ニュースの視点」Blog

KON647「シャープ・IHI・三菱重工業 ~三菱重工が、GEやシーメンスに追いつくにはどうすればいいか?」

2016年11月11日 IHI シャープ 三菱重工業

本文の内容
  • シャープ 米州ブランド使用権の買い戻し提案を拒否
  • シャープ・戴正呉社長 掟破りの言動で社内に走る激震
  • IHI 海洋構造物、存続か徹底かの瀬戸際に
  • 三菱重工業 事業部門を3つに集約
  • 三菱重工業グループ 三菱重工の「四重苦」「六重苦」

シャープブランドを手放した「ツケ」が大きい


中国の家電大手、海信集団(ハイセンス)は27日、シャープから受けた米州でのブランド使用権の買い戻し提案を拒否したと明らかにしました。

シャープは昨年7月、ハイセンスにメキシコのテレビ工場を売却し、北米など米州で「シャープ」ブランドの使用権を供与する契約を交わしていました。
台湾・鴻海精密工業が親会社となり、鴻海の意向でハイセンスに「シャープ」ブランドを買い戻したいと提案していたとのことです。

これは鴻海にしては非常に悔しい事態でしょう。
米国という中核を担う市場で、シャープブランドは決して悪いものではありません。パナソニックなどに比肩するブランドを築いてきたと言っても良いと思います。

米国市場において、鴻海は関連会社に出資することで「VIZIO(ビジオ)」ブランドを展開していますが、「シャープ」というメインブランドは欲しいところでしょう。また今回の提案で、鴻海が本気で「シャープ」ブランドを世界的に強化しようという意気込みも感じます。

しかし残念ながら、海信集団は値段に関係なく、シャープブランドを売却するつもりはないとのことです。
数年前、シャープは困窮の極みにあり、メキシコの生産拠点の売却にあたって、北米・中南米地域(ブラジルを除く)におけるテレビブランドの使用権も含めてしまいました。

シャープとしては、そこまで会社が混乱していたという証拠でしょう。
これは非常に高く付いたとしか言えません。こうなってしまうと、苦い思い出にしかならないでしょう。

そのシャープ再建にあたり、シャープの戴正呉社長が社員に向けた頻繁なメッセージ配信でインサイダー情報に該当する内容を発表するなど、広報や社長室の担当者を慌てさせていると産経新聞は紹介しています。
会社のカルチャーを変えるためのコミュニケーションの一環とのことで、1日17時間働き、有言実行を宣言する戴正呉社長の流儀でシャープに独創精神を取り戻せるか注目されるとしています。

戴正呉社長は中間管理職を排除し、ピラミッド型ではなく、直接社員一人ひとりに考え方を徹底する方針を選んでいます。
社長就任時の挨拶にもありましたが、「創業の精神に立ち戻る(Be Original)」という強い姿勢を示しています。

1日17時間労働も、自ら先頭に立って実践しています。この戴正呉社長の姿勢についていければ、それなりに効果は出てくるかも知れません。

ただし、これから1年~2年はまだ効果は見えてこないでしょう。カルロス・ゴーン氏が実践した日産リバイバルプランも、成果が出てくるまで数年かかりました。そして、その数年間は「信用されない時期」でもあります。
シャープは今まさに、その時期・フェーズを通過している最中です。


IHIは事業売却・撤退を進めながら、集中する事業を決めるべき


日刊工業新聞の情報サイトは先月30日、「IHIの海洋構造物、存続か撤退かの瀬戸際に」と題する記事を掲載しました。
IHIが複数案件で大幅なコスト増が発生し、2016年度の通期業績見通しを下方修正したことを紹介。

光岡次郎社長はV字回復につなげる決意を表明し、原点であるモノづくり力の再興で信頼回復につなげる考えを示しており、ボイラー事業の再建へ向けて品質や工程管理体制を整え始めたということです。

私がIHIを再建するなら、徹底的に撤退・売却する事業を決めて、集中する事業を絞り込みます。ボイラー事業についても、大きな特徴がないのであれば、私は撤退・売却で良いと思います。

その一方で、約500億円の投資を決めたターボチャージャー事業は世界一ですから、ここは徹底的に強化します。
航空機事業も日本でトップですから集中するべきでしょう。この会社の場合、他の会社でもできることをやる意味もあまりないかも知れません。そういう意味でも、他社に売れるものは売ってしまい、自分たちが集中すべき領域を見極めて集中していくことが大切だと思います。


三菱重工が、GEやシーメンスに追いつくにはどうすればいいか?


三菱重工業の宮永俊一社長兼CEOは、先月31日、事業再編を加速し、2017年4月に社内の事業部門を「パワー」「インダストリー&環境・社会システム」「航空・防衛・宇宙」の3つに集約する考えを示しました。

これにより既存事業の連携や効率化を促すということで、宮永社長兼CEOは「GE、シーメンスと徹底的に戦えるようにする」と意気込みを示したとのことです。

「パワー」が電力事業を示すことは明確にわかりますが、全体的として3つの集中する事業が具体的に何なのか?非常にわかりにくいと思います。「インダストリー&環境・社会システム」「航空・防衛・宇宙」と言われても、内部の人にはわかるのかも知れませんが、一般の人はわからないでしょう。

三菱重工業は、主として工場・事業所ごとに事業が別れています。例えば飛行機は名古屋ですし、船は横浜・神戸・長崎、産業機械は三原、高砂となっています。

こうした実態とは別に、上から「別のくくり方」を見せたところで、一般の人にもちろんのこと、事業に携わっている人自身もピンとこないと思います。

勝てる事業分野が3つと言うならば、それを具体的に示すことが重要です。こうした「別のくくり方」は社長が交代するとまた変わります。私に言わせれば、三菱重工や日立はこんなことを繰り返しています。これだけでは、ほとんどお遊びに近いでしょう。

GE、シーメンスに追いつくということは、今の利益を倍増させる必要があります。事業を「別のくくり方」に変えて見せるだけでは実現しません。せめて、株主にわかりやすいレベルで発表すべきでしょう。

三菱重工の組織の問題点については、J-CASTニュースが報じた「三菱重工の「四重苦」「六重苦」 」
と題する記事も非常に興味深いものです。

その中では、三菱重工業が大型客船事業からの事実上の撤退を発表したことを紹介しています。
巨額損失の原因を調査する社内評価委員会からは、「プロジェクト運営の能力不足」や「本社のリスク管理の不十分さ」などを厳しく指摘され、ジェット旅客機「MRJ」の納期の遅れや日立との共同出資会社が抱える受注トラブルなど各所から火の手が上がっているとしています。

事業所の持つ強さが三菱重工の強さでもあったのですが、プロジェクトが大きくなってしまい、事業所のマネジメント力を超えてしまったというのが問題です。

さらに言えば、この点を指摘している三菱重工本社にも、プロジェクトに対する「トータルマネジメント力」が不足しているから、こういう事態を招くのだと私は思います。

購買のこと、エンジニアリングのこと、別の会社との提携など、様々なことをトータルでマネジメントする必要があります。
ただ能力的にモノが作れるからと言って受注すると、現場で大きな混乱、問題が起こります。

事業所制がいいのか、あるいは別の組織体制に変えるべきなのか。
三菱重工としては組織の動かし方について、今一度ゼロベースで考える必要があると私は思います。


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※この記事は11月6日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は、三菱重工業の話題をお届けしました。

大前は、同社の組織上の問題点をあげ、今一度ゼロベースで考える必要があると指摘しました。

変化に対応するために組織を再構築したとしても、現場の実態を無視した組織の動かし方をしてしまうと、かえって現場が混乱し、問題が起きてしまう可能性があります。

戦略を遂行していく上で、最大限のパフォーマンスを上げるためには、机上の空論ではなく現場に適した形で組織を動かすことが重要となってきます。


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