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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON203 米ブッシュ大統領の表情が物語る、米金融市場の悲壮感

2008年3月14日

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 米金融市場
 悲壮感が急速に台頭
 1万2000ドル割り込み取引終了 1週間で400ドル超下落
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●米国の景気は、確実に「recession(後退)」に突入した


米金融市場では、サブプライム問題を受けて景気減速や
信用収縮の深刻さを示す材料が相次ぎ、
悲観論が急速に台頭してきました。


先日のニューヨーク株式市場ではダウ工業株30種平均が
合計で400ドル超下落、
1万2000ドルの大台を割り込んで取引を終えました。


これまで、米ブッシュ大統領は米国の景気に対して、
一貫して「recession(後退)ではない」という態度を
示してきました。


先日の演説でも、
「景気は減速はしているが、後退はしていない」
という論調でしたが、私は聞いていて、
何やら悲壮な印象を受けてしまいました。


7日、米労働省が発表した2月の雇用統計によると、
非農業部門の雇用者数は前月に比べ6万3000人落ち込んだ
と言います。


1月も当初発表の1万7000人減から
2万2000人減に下方修正しているので、
2カ月連続のマイナスです。


このような現状を見れば、米国の景気の状態は
「recession(後退)」だと判断するのが普通だと思います。


事実、私と同様、米国の経済アナリストなども、
ブッシュ大統領の演説を聴きながら、
「recession(後退)と言うべきだ」
という意見を述べていました。


ただし、彼らの場合には、「仮に今、”recession(後退)”
になったとしても、今年の後半には回復する見込みだ」
という見解のようですが、


この点については、私には単なるなぐさめとして
言っているだけで、何ら明確な根拠がある発言とは思えません。


また、ブッシュ大統領の演説の内容について、
特に私が問題だと感じるのは、今の米国の景気対策として
「即効性」のあることは述べていないということです。


これは、先月ブッシュ大統領が署名したという
緊急景気対策法案の効果についても同様です。


米国民への戻し減税を柱とし、法人の設備投資を対象とする
税控除を含め、対策規模は約1520億ドル(約16兆5000億円)
を誇る景気対策案ですが、


税金の還付として、小切手の送付が始まるのは5月からのため、
家庭が直ちにキャッシュを手に入れられるわけではありません。


ブッシュ大統領は効果に絶大なる自信を見せていた
と言いますが、経済学者が言う、急激な「recession(後退)」
に突入してしまった米国の景気動向を考えると、
5月では間に合わないのです。


2月~3月になって急激にお金が入ってこないで
困っているというのに、5月まで待つとなると、
この3ヶ月間はどうしのげばいいのでしょうか?


私には、致命的な3ヶ月になってしまうと思えます。


●FRBの金利政策も、景気対策には全く効果を発揮していない


米国の景気対策が全く機能していないという点について、
別の観点から考察した面白い記事をビジネスウィーク誌の
コラムの中で発見しました。


この記事によると、景気対策のため、FRBがフェデラル金利を
下げているけれども、全く効果が出てないという指摘です。


なぜなら、確かにフェデラル金利は下がっていますが、
例えば、「トリプルBのコーポレート債」や
「30年のモーゲージ債」などの金利を見てみると、
これらの金利は一向に下がっていないからです。


つまり、今一番お金に困っていて、金利を下げてもらいたい
と思っている人が借りているローンの金利や
相対的に信用リスクが高い企業が発行する債券の利率は
下がっていないのです。


FRBのフェデラル金利は、いわゆる優良企業に貸し出している
金利です。この金利が下がれば、GEやIBMなどは感謝したい
ところでしょうが、これは当初の目的とは全く異なります。


銀行は自分だけは低金利の恩恵を受けつつも、
結局リスクが高いと判断されるところには貸さない、
あるいは金利は高く設定したまま貸し出す
という方法をとっているのでしょう。


景気対策の本来の狙いとしてお金が流れるべきところには、
全く行き渡っていないという状況になっています。


この指摘は、的確で重要な指摘だと思います。
結局、このような本質的な部分を外してしまっている
というのが、ブッシュ大統領の限界なのかも知れません。


先日のブッシュ大統領の演説では、
焦りと悲壮感さえ伺えましたが、それもそのはずで、
ブッシュ政権発足以降のダウ平均株価の推移を見ると 
納得します。


ブッシュ大統領としては、9.11事件以降低迷してきた株価を、
03年から07年にかけてずっと上昇させてきた
という自負があったのでしょうが、


ここに来て急激な下落を見せて、結局、
8年前の大統領就任時と変わらない水準に近づいてきました。


※「ブッシュ政権発足以降のダウ平均株価推移」チャートを見る


こうなってくると、一体、この8年間は何だったのか?
と問いたくなる気持ちかも知れません。


さすがのブッシュ大統領も打つ手がなく、
演説ではその顔に自信の無さが表れていました。


                      以上



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この大前研一のメッセージは、3月9日に
BBT757Chで放映された大前研一ライブの内容を編集したものです。


BBT757Chのサイトでは、他にも大前のメッセージが ハイライト映像として
視聴(無料)できます。


他のメッセージを視聴する
→ http://bb.bbt757.com/news-bbt757.html
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上記のスライドは、ビジネス・ブレークスルー総合研究所に
よって制作されています。


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