大前研一「ニュースの視点」Blog

KON640「三菱商事・JR九州 ~三菱商事がローソンを主導しても上手く行かない理由」

2016年9月23日 JR九州 ローソン 三菱商事

本文の内容
  • 三菱商事 ローソン子会社化で最終調整
  • JR九州 JR九州の上場を承認

三菱商事がローソンを主導しても上手く行かない理由


三菱商事が、コンビニエンスストア大手ローソンを子会社化する方向で最終調整に入ったことが明らかになりました。

三菱商事は、TOB(株式公開買い付け)を通じ、ローソンの株式の保有比率を現在の33.4%から50%以上に引き上げる方針で、買収額は1500億円前後になると見られています。

三菱商事にとって、株式の保有比率を引き上げるのは簡単だと思いますが、その結果、三菱商事が主導してローソンの経営が上手くいくのか、大いに疑問を感じます。

ローソンの経営を立て直した新浪氏は、最初は三菱商事から出向という形でしたが、最終的にはローソンに転籍しました。
三菱商事から距離を置いてから会社として立ち直ったと言っても過言ではないと私は思います。

三菱商事と言えば、生活、機械、新産業・金融、地球環境・インフラ、化学品、エネルギー(非資源)、金属(非資源)、エネルギー(資源)、金属(資源)など様々な事業を展開しています。
これらの事業の中で、特にエネルギー関連のものは巨額な利益を出すこともあります。

三菱商事の良くない癖は、こうした大規模な事業・利益があると、ローソンのように堅実に成長させていく事業・経営に対して、著しく重要度が下がることです。

確かに、トップに立つ人物によってはローソンのような経営をきめ細かく進めることもありますが、総じて言えば、消費者関連ビジネスは得意ではありません。

大きく資源開発に投資して、一気に莫大な利益を上げる(あるいは損失を出す)というほうが、三菱商事らしいと言えます。

ファミリーマートが合併して、セブンイレブンに並ぶほどの店舗数になって、三菱商事はローソンに対して危機感を持ったのでしょう。
今回のTOBに対して、ある新聞は「価格が下がり、味が良くなる」ことが期待できると報じていましたが、私はそんな簡単にうまくいくわけがない、と感じています。

三菱商事が主導することで上手くいくなら、これまでの間にとっくに結果が出ているはずです。

コンビニの売上高を比較すると、セブンイレブンの1店舗当たりの売上高が圧倒的に高いことがわかります。セブンイレブンの1店舗あたりの1日売上高は約65万円です。

ローソンは約54万円で頑張っていますが、それでも及びません。

実際、一昨年はじめてセブンイレブンが四国に進出したとき、ファミリーマートなど他のコンビニをやっていた人がセブンイレブンに乗り換えたら、それだけで売上が倍増したそうです。
セブンイレブンのブランド・商品力は、頭一つ抜けています。1つ1つの細かい商品の違い、その積み重ねです。

ローソンの経営の舵取りをするということは、こういうきめ細かい点まで考慮する必要があります。

これができるかどうかは携わる人物次第でしょうが、IT関連事業でさえも上手くいかない三菱商事ですから、ローソンにとっては必ずしもいい方向ではないと思います。

とは言え、三菱商事が持っている食品卸関連事業などは大いに役に立つでしょうから、ローソンは三菱商事と離れすぎても良くないと思います。

上手く三菱商事の持つ資産を活用することです。


JR九州は、鉄道事業以外でここまでできる、という良い見本


東京証券取引所は15日、JR九州の上場を承認しました。これによりJR九州は、10月25日に市場1部または2部に上場する見通しです。

想定される時価総額は3900億円と見込まれ、今年の国内案件では「LINE」に次ぐ大型上場となる見通しです。

JR九州、JR四国、JR北海道は、本州の3社(JR西日本、JR東日本、JR東海)に比べて、かなり不利な状況にあり、赤字路線が多いのが現状です。

赤字幅は小さくなっているものの、運輸事業は非常に厳しい状況で、JR九州にとっても、まず手を付けるべきは赤字路線の整理になると思います。

JR九州の場合には、外食、流通など他の事業で成果を出していて、特に駅ビル・不動産の開発事業は上手くいっています。JR博多駅など好例でしょう。
阪急や東急ハンズがテナントに入り、上層階は会議室としての貸出などビジネスユースにも対応しています。
今度は大阪・船場地区の「帝人ビル」の土地を取得するとも報じられています。

鉄道事業は赤字ですが、全撤廃するのは住民サービスの観点から望ましくありません。
できる限り赤字幅を抑えながら、こうした駅ビル・不動産事業の圧倒的な収益源を、さらに大きくしていくのが良いでしょう。

中曽根元首相の頃に始まったJRの改革は、このJR九州で4社目の上場になります。
JR九州は、JR四国・JR北海道と共に不利な立場でしたが、ひたすら事業戦略を磨いてきて、ここまで辿り着きました。

組合のストライキですぐに電車が止まっていた時代から、よくここまで変革してきたと思います。
特にJR九州は懸念されていました。今回、国からの借入も取り込んだまま上場しますが、国としても上場後に売却すれば、それなりの売却益が出るでしょうから悪い話ではないと思います。

JR四国、JR北海道も同様に期待したいところですが、前途多難な状況です。
北海道は市場規模が小さいのが難点です。四国は市場規模としては何とかなりそうですが、全体としてのまとまりがないのが課題です。

九州は「福岡」、北海道は「札幌」と中心が決まっているのに対して、四国は「松山」「高松」「徳島」「高知」それぞれが中心だと思っているので、四国全体としての戦略を作るのが難しいと私は感じています。

JR九州は、鉄道事業以外でここまで成果を出せる、という良い見本です。
JR四国、JR北海道も簡単なことではないと思いますが、ぜひ参考にして欲しいと思います。


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※この記事は9月18日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は、三菱商事によるローソン子会社化への動きをご紹介しました。

きめ細かな取り組みの積み重ねによって売上高を伸ばしたセブンイレブン。
大前は、三菱商事に同社のような経営ができるか疑問を呈しています。

ライバル企業との競争に勝つためには、描いた戦略を徹底的に実行できる、組織の力が求められます。

では組織の実行力はどう高めればよいのでしょうか?

それは決して容易なことではありません。
自社の強みだけでなく、弱みも含めて、現実に徹底的に向き合うことが必要です。

そうすることで、組織の現場のどこに課題があるかが分かり、ケイパビリティを高めることにつなげることが出来ます。


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