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〔大前研一「ニュースの視点」〕#117 「成功」とは言い難い阪急の阪神株TOB

2006年6月16日

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 「成功」とは言い難い阪急の阪神株TOB


 阪神電鉄株をおよそ47%保有する
 投資ファンドの村上世彰代表が5日、
 阪急ホールディングスによるTOBに応じる考えを表明し、
 阪神株のTOBの成立が確定した。


 戦後初の大手私鉄再編となる阪急と阪神の経営統合が
 10月1日付けで実現することになる。
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●村上ファンドへの対応を誤った阪急


阪急HDは阪神株のTOB価格930円は適正だと言い張っていますが、
これはとんでもなく高い値段です。
村上ファンドが阪神株を買い始めて、
約47%まで買い進んだときの平均売買額は640円と言われています。


村上氏は1000円以上でないと売らないと言っていましたが、
実際は村上ファンド側は、そんな高い値段をオファーする必要は
なかったはずなのです。


実はあまり知られていないことですが、
自己株買付の応募に応じると節税メリットがあります。
日本の税法には、自己株買付に応じた株主は、
それで得たキャピタルゲインの半分を益金に入れなくてもよい
というルールがあるのです。


このメリットを加えると、今回の阪神株の場合、
TOB価格が700円くらいであっても、
村上ファンドの出資者にとっては860円くらいで売ったのと
同程度の利益を得られる計算になります。


村上ファンドはニッポン放送のときも含めて、
これまで買収を仕掛けた36の会社のうち30社に、
自己株の買い戻しをするよう要求しています。


今までのパターンから行くと、村上ファンドは700円でも
自己株買いに応じてきたはずなのです。


ですから、まず先に阪急と阪神を合併しておいて、
その後、新・阪急が自己株買いをして
村上ファンドの株を買い取る、という方法も
考えるべきだったのではないでしょうか。


その頃には村上ファンドの阪神株の保有比率も
減っているでしょうから、それを700円で買い取れば、
阪急側の必要資金はずっと少なくて済んだはずです。


このような村上ファンドのこれまでのパターンを
知らなかったのであれば、阪急側のアドバイザーは
勉強不足だと言わざるを得ないでしょう。



●市場の常識でも阪神TOB価格930円は割高


もともと阪神株というのは、95年から10年間の価格を見ると
400円前後という非常に安定した低い価格で推移してきました。
ということは、この会社の本当の価値というのは、
誰が見ても400円くらいかなということなのです。


また主要私鉄各社の株価収益率
(株価を一株あたりの利益で割ったもの。
株価収益率が高ければ、その株は割高と判断される)
を比較してみると、他の私鉄がだいたい20倍前後なのに対し、
阪神株のTOB価格930円では、株価収益率は約57倍にも
なってしまいます。


阪神は不動産に若干優良なものがあるということですが、
それで百歩譲っても500円というのが
適正な株価ではないでしょうか。


ですから、なぜ阪急が930円という価格が正しい査定だと
言い張るのか、私には全くわかりません。


株式市場の常識を知っている人は、
こんな高い買い物をしてしまったら、
今後阪急の経営は大変になると考えるでしょう。


実際、阪急HDの株価は、阪神との合併の相乗効果を期待して、
一時は700~800円まで上がりましたが、
最近はここ数年の安定価格である400円台に戻りつつあります。


もともと阪急は社債もジャンクボンド(低格付債権)で、
苦しい経営状態にあります。
マスコミは村上ファンドがTOBに応じたことで、
「阪急大勝利」というような雰囲気でしたが、
このような高い価格で阪神株を買い取ることになった点は、
株主総会で相当もめることでしょう。


さらに村上氏が召還を受けてシンガポールから帰ってくる
という情報を、マスコミは阪急がTOBを開始する前から
つかんでいました。


阪急側もその情報は知っていたはずですから、
あと1週間待てば別の展開もあったはずです。
なぜそのタイミングでTOBをやったのか、はなはだ疑問です。


ですからこの問題はマスコミが言うような
阪急勝利という結末ではなく、
阪急の角社長は責任を取らなければいけないくらい
シリアスな問題なのです。


今後、阪急の経営陣は今回の失態の対応に
追われることになるでしょう。


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