大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕#116 「音を上げる」にはまだ早い中国・韓国の経済

2006年6月9日

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 「音を上げる」にはまだ早い中国・韓国の経済
 2006年4月の国際収支動向によると、
 韓国経済は経常赤字15億3300万ドルになることがわかった。
 海外投資家への配当支払い増加などが要因とされている。


 また、中国も輸入企業の9割が「元」の切り上げ分を
 価格転嫁できず、苦戦を強いられているという。
 こうした背景には、両国経済と「通貨高への取り組み姿勢」と
 いう共通の課題を見て取ることができる。
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●韓国経済に求められるイノベーション・マインド


2006年1-3月期は、上場している韓国の製造業543社の
営業利益は前年同期と比べると14.6%減となり、
韓国では「急激なウォン高」といった意識が蔓延し、
製造業は悲鳴をあげている状況です。


しかし、本当に悲鳴を上げるほどのウォン高なのでしょうか?


1997年、アジア諸国は急激な通貨下落に見舞われ、
経済は一様に悪化しました。
このアジア通貨危機でとりわけ大きな打撃を受けたのが、
タイ、インドネシア、そして韓国です。


韓国の為替相場をみてみると、通貨危機に陥る前は
1ドル=1000ウォン程度で推移していました。
それが1997年、一気に1ドル=1967ウォンへと
ウォン安になったのです。


そこからおよそ8年間かかりましたが、
現在は通貨危機が生じる前の水準まで
ウォン/ドルレートが戻ってきただけのことです。


私の率直な感想を言わせてもらえれば
「音を上げるには早すぎる」ということでしょう。


日本は過去、1ドル=360円から並々ならぬ円高を体験し、
一時は1ドル=80円にまでなりました。
つまり約4倍の通貨高です。
韓国の「1000ウォン」を基準とするなら、
1ドル=250ウォンになるような感覚です。


円高で推移している間、日本も苦しいことは苦しかったのですが、
イノベーションに心血を注ぎ、
製造業は「重厚長大」から「軽薄短小」の時代への
移行を目指しました。


高くても真に良いモノを作れば売れるといった信念のもとで
技術革新に励み、アメリカで1万2千ドルだった自動車の価格を
3万ドルに近い値段に上げたときでも、
実際に売れるようにしたのです。


私はいつも、訪韓時の講演ではこの話をします。
通貨が安いことを競争力の源泉にするのではなく、
先進国と呼ばれるにふさわしいイノベーションに
取り組むことが重要であり、
ひいてはそれが自国通貨が4倍になっても耐えられるような
体力を生むのです。



●為替変動に動じない企業体質を構築すべき


一方、中国経済もまた同じような状況に陥っています。
中国人民銀行の調査によると、輸入企業の9割が、
「元」の切り上げ分を価格転嫁できていない状況が
明らかになりました。


これも日本を例にとると、合板や靴、繊維などの産業で、
輸出競争力のないものは淘汰されましたが、
一方で、淘汰されないよう知恵を絞り、
苦心して生き残ることができた産業もありました。


特に自動車などの製造業は、単に存命するだけでなく、
逆境をバネにして世界に冠たる輸出競争力を身につけたのです。


中国為替相場をみてみると長い間1ドル=約8.3元で
推移していました。
それが2005年7月21日に対米ドル2%切り上げとなり、
1ドル=8.12元の元高になりました。
そこからじりじりと上昇し、現在はおおよそ8.03元くらいで
推移しています。


これも先ほどの日本が「4倍」の円高を克服してきた
例に当てはめてみると、
中国は「1ドル=2元になっても耐えられるか」
ということが課題となります。


元高といっても8元台なのですから、
まだ嘆くのは早いのではないかと思います。


日本企業が円高に苦しんでいた頃に
私がコンサルタントとして行った一番の大きな仕事は、
為替がどんなに変動しようと利益が出せる構造を作り出すこと、
つまり、「カレンシー・ニュートラル」な体質へと
変えていくことでした。


為替というものは企業の舵取りに関わらず、
国家が下手を打つと乱高下します。


国に依存せず、どう転んだとしても利益を出す構造に
するためには、企業の多国籍化を図り、
コストと収入の通貨をマッチングする、
部品の一部などを輸入に切り替えてバランスをとる。


さらに、先に述べたようにイノベーションに取り組んで
小売価格が高くても売れるようにする、
といったように、さまざまな方法があります。


日本やドイツの製造業は、まさにこのような施策を
施してきました。


ここ20年間で日本企業は、世界でも特筆すべき「努力」
を続けてきました。


円高を乗り越えてきた時代の日本の経営者達は、
この「努力」を自慢話としてではなく、
経験談として後世に残してほしいと思います。


そして中国や韓国の未来は、
かつて、急激な円高という逆境の中で
日本が取り組んできたような「血のにじむような努力」を
できるか否かにかかっています。


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