大前研一「ニュースの視点」Blog

KON615「タイ鉄道建設・ミャンマー情勢~スー・チー氏はミャンマーの将来を担えるか」

2016年4月1日 タイ鉄道建設 ミャンマー情勢

本文の内容
  • タイ鉄道建設 中国との長距離鉄道計画を大幅縮小
  • ミャンマー情勢 ティン・チョー氏を次期大統領選出

中国企業には、海外インフラ案件を扱うスキルも経験もない


タイのアーコム運輸相は先月25日、中国の協力を受けて敷設を計画していた長距離鉄道を大幅に縮小すると発表しました。最大5300億バーツ(約1兆7000億円)とされた事業費の分担や、中国からタイへの融資条件で折り合えなかったということです。

以前から中国の問題を指摘してきた私に言わせれば、「だから言ったじゃないか」という問題です。

今回のノンカイ・バンコク間の長距離鉄道は、必要な場所にしぼってタイ側が資金を出して何とかするようですが、この案件以外にも中国企業が受注し問題が指摘されているインフラ案件はたくさんあります。

タイ・ラオスのビエンチャン・バンコク間の高速鉄道計画は、中国側が事業費を引き上げ着工期間が1年以上伸びています。フィリピンでは、通勤鉄道計画が放棄されました。日本のODAで一部工事が再開されているのが救いでしょう。インドネシアのジャカルタ・バンドン間の高速鉄道計画は、15年の着工を断念し19年開業予定ですが見通しは立っていません。

冷静に考えれば、成功するわけがありません。中国企業は海外のインフラ案件を扱った経験はほとんどありません。

フィージビリティ・スタディすら、まともにできないレベルですし、プロジェクトマネジメントのスキルも不足しています。

お金があって人がいますから、プロジェクト自体は受注しますが、問題はその後です。


スー・チー氏の能力とビジョンはミャンマーの将来を担えるのか


ミャンマー国会は先月15日、与党国民民主連盟党首のアウン・サン・スー・チー氏の側近、ティン・チョー氏を次期大統領に選出しました。1962年のクーデター以降、半世紀を超える国軍支配が終わり、文民大統領が就任します。

スー・チー氏が主導してきたミャンマーの民主化は一応のゴールに達することになりました。ただ、今後のミャンマーの国家運営は非常に難しいと私は思います。

私はシンガポール、マレーシアでリー・クアンユー氏、マハティール氏に国家運営のアドバイスをした経験がありますが、正直、スー・チー氏が彼らに匹敵する「能力」があるのかわかりません。

彼らは非常に頭がよく、ビジョンがわかる方たちでした。マハティール氏など、私の話を自分で聞いて、政策への落としこみはすべて自分でやっていました。そういう人たちであれば、アドバイスすることはできますが、スー・チー氏がそのレベルにあるのか、懸念してしまいます。

今回の動きを見ていても、スー・チー氏は昔ながらの仲間で身の回りを固めているようですが、果たしてこの人たちだけでミャンマーの経済発展は可能なのか?という点も疑問です。

また未だに武力闘争が続いているので、軍部の助けも必要です。経済のことだけでなく、軍事のことも含めてやりきる能力が求められます。ミャンマーの場合には、すでに信じられないくらい「腐敗・汚職」が蔓延しています。腐敗に関しては情け容赦ないほど徹底的にやらなければ、取り払うことはできません。マハティール氏、リー・クアンユー氏がやったように、スー・チー氏が徹底的に実行できるかどうか。

また「暴力・抑圧」の問題もあります。ロヒンギャ族のように迫害されている少数民族もいます。少数民族問題や民族間格差の問題は非常に根深いものがあり、武装勢力との争いも解決しなければいけません。

このような状況をふまえて、スー・チー氏がミャンマーの将来に対して、どのようなビジョンを持ちえているのか。

現時点では無限とさえ思われているスー・チー氏の能力とビジョンが、ミャンマーの将来を背負うに値する期待通りのものかどうか、私は確信が持てていません。

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※この記事は3月27日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週はミャンマー情勢の話題をお届けしました。

今後の国家運営が懸念させるミャンマー。大前は、数々の問題がある現状において、スー・チー氏の能力を疑問視しています。

本質的な問題を解決しようとすると、反対勢力は必ず登場します。それに対し、あるべき姿を示し、巻き込んでいく力が問題解決者には求められます。

解決策を考えるだけでなく、実行までをやり切ること。問題解決で成果を出すために必要となる資質です。

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