大前研一「ニュースの視点」Blog

KON608「三菱重工・トヨタ自動車・東芝・シャープ~鴻海・郭会長が夢見るのは自社ブランド」

2016年2月12日 シャープ トヨタ 三菱重工 東芝

本文の内容
  • 三菱重工 2番船の引き渡しが半年以上延期見通し
  • トヨタ自動車 国内全16工場を生産停止
  • 東芝 連結最終赤字7100億円
  • シャープ 高橋興三社長ら経営陣と会談

鴻海・郭会長が夢見るのは自社ブランド。技術力に不安など微塵もない


シャープの経営再建を巡り、台湾の鴻海精密工業の郭台銘会長は5日、大阪市のシャープ本社を訪れ、同社買収に向け高橋興三社長ら幹部と会談に入りました。

会談の後、郭会長は「優先的な交渉権を得てサインした。90%は乗り越えた。残りは法律的なことで問題はないと思う」と述べたとのこと。私は産業革新機構よりも鴻海のほうが良いと思っていましたが、その通りの展開になりました。

産業革新機構は、私に言わせれば「事業をLEGOのようにくっつけているだけ」であり、何ら経営的な手腕はありません。液晶事業ならジャパンディスプレイのように、短絡的に事業をくっつけるだけでは、絶対に成功しません。知恵のカタマリ・鴻海の郭会長に勝てるべくもありません。おまけに、税金を使うのですからお粗末な話です。

産業革新機構は海外の企業に売却すると「技術流出が起こる」などと言っていますが、鴻海の郭会長がシャープ買収に乗り出しているのは、技術が欲しいのではなく、シャープのブランドでしょう。

そもそも、シャープに鴻海以上の技術はありません。シャープに本当に液晶の技術力があるなら、例えばアップルが液晶メーカーとして選んでいたでしょう。そのアップルから5億台ものiPhoneの生産を任されているのが鴻海です。

その他、ゲームで言えば任天堂、マイクロソフトのXbox、ソニーのプレステ、更にはソフトバンクの孫社長イチオシのペッパー君も鴻海が作っています。液晶テレビにしても、OEMで扱っているVIZIO(ビジオ)は米国でシェアを伸ばしていますから、技術力には全く問題ありません。

その結果、15兆円の売上をあげる企業になりましたが、いずれも作ってきたのは「他人様のモノ」です。ゆえに、郭会長が1つだけ満たされない部分があるとすれば自社ブランドだと私は思います。一から「自分で」作り上げる商品・ブランドを夢見ているはずです。

今の鴻海からすれば、7000億円が丸々損失になっても大丈夫でしょうから、郭会長は相当お金を使ってでもブランドを大事に育てていくつもりだと私は見ています。


技術立国・三菱重工の苦難/トヨタは差別問題の火消しを


三菱重工業が客船世界最大手、米カーニバル系向けに建造中の大型客船の2番船が、3月の納入予定から半年以上遅れる見通しであることが分かりました。2015年度内の引き渡しをめざす1番船については既に3回延期しており、2番船の納入遅れで、さらに損失が膨らむ恐れが出てきたとのことです。

2番船を含め、3回も火事が発生していますし、もう納品をやめたほうがいいのではないか、というほどひどい状況です。1日納期が遅れると、1000分の1ずつ損失になると言われています。1番船だけで1600億円の特別損失とのことですから、大きな数字です。

三菱重工は、飛行機ではMRJの開発スケジュールが遅延し、原発では米サンオノフレ原発で三菱重工製の蒸気発生器からの放射能漏れ問題で廃炉になり、訴訟を起こされています。その上、造船で今回の事態です。

現状では、そこそこ収益は出ていますが、さすがにこのような問題が続いていくと、三菱重工とはいえ、屋台骨が揺らぐ可能性もあるでしょう。また技術立国の三菱重工として、このような事態は起こっていることが深刻だと思います。

* * *

トヨタ自動車は1日、8日から13日までの6日間、国内車両工場の全ラインの稼働を停止すると発表しました。1月8日に発生したグループの愛知製鋼の爆発事故の影響で、エンジンや変速機などに使う一部の特殊鋼部品の確保が難しくなったためとのことです。

史上最高益を叩き出し、生産台数も順調なトヨタです。好事魔多しというところでしょうか。私としては、米国子会社がローンの際、「人種で差別していた」という問題のほうが気にかかっています。損害賠償、不買運動など大きな事態になってしまう可能性もあるので、早急に是正処理を進めることが重要だと思います。

また、トヨタとスズキの海外市場での業務提携については、トヨタにとってプラスになる点が多いでしょう。国内を除いてみれば、トヨタ・ダイハツが得意なインドネシア、スズキが得意なインド、というように、国・地域がズレているので良い補完関係が築けると思います。


凋落する東芝と、途上国に光を見るヤマハ


東芝は4日、2016年3期の連結業績見通しを下方修正し、最終赤字が7100億円になると発表しました。昨年12月に発表した予想(5500億円)から一段と拡大するもので、電力・社会インフラ部門の採算が悪化したほか、パソコンやテレビといった家電、半導体部門でもリストラ損失などが膨らむとのことです。

7000億円の赤字は、もう「気持ちいい」レベルです。このくらいの赤字になると、ちょっと利益を出そうという気持ちもなくなるのではないでしょうか。お金がないので、東芝メディカルシステムを売却する動きを見せていますが、まさに悲劇です。

私ならば、東芝テック、東芝メディカルシステムは絶対に売りませんが、現在の東芝には他に打てる手がないのでしょう。

* * *

ヤマハの株価が5日、一時、ストップ高にあたる前日比502円高い3175円まで上昇しました。世界トップシェアを握る楽器販売が各地で好調なことを背景に、前日2016年3月期の業績予想を上方修正したことが好感されました。

ヤマハの業績が調子良いというのは、この30年間ほとんど耳にしたことがありませんでした。確かに赤字も出していましたが、現在は好調です。

楽器市場は日本では期待できませんが、中国やインドネシアなど途上国で大きな伸びを見せています。一人あたりGDPが1万ドルを超えるようになってくると、ヤマハの楽器を使うようなライフスタイルを求めるようになるのは、どこの国でも共通なのでしょう。

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※この記事は2月7日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は鴻海とシャープに関する話題をお届けしました。

7000億円でシャープを買収しようとしている鴻海。その目的は、技術ではなくブランドがほしいためと、大前は解説しています。

通常、ブランドを産み出し、そして成長させるまでには時間がかかります。しかし買収を通じてそのプロセスを省略することが可能です。

自社の将来の戦略を描くに当たっては、グローバルM&Aの選択肢も考える必要があります。そして、その成功確率を上げるための、プロフェッショナル人材がいま求められています。

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