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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON186 従業員の心も顧客の心もつかめない“ウォルマート”の将来は?

2007年11月2日

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 米ウォルマート
 西友を完全子会社化 1000億円を投じてTOB
 日本市場での事業継続の姿勢
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●米ウォルマートは、西友を通じて
日本マーケットの理解に努めるべきだった


22日、世界最大の小売業、米ウォルマート・ストアーズは
現在50%超の株式を持つ傘下の東証1部上場で、
経営再建中の大手スーパー、西友を完全子会社にするため
株式公開買い付け(TOB)を実施すると発表しました。


全株取得のための投資額は約1000億円で西友は
上場廃止になる見込み。


ウォルマートは業績不振が続く西友を完全子会社化して
日本市場での事業を継続する姿勢を鮮明にし、
西友の抜本再建に取り組むとのこと。


2002年、米ウォルマートが西友に資本参加して以来、
西友の業績は「売上」「営業利益」「最終利益」のいずれを
見ても、目を覆いたくなるような悲惨な結果になっています。


※「西友の連結業績推移」チャートを見る


これは、ウォルマートが日本の小売マーケットを
理解できていないことに起因していると私は考えています。


アメリカと日本では、小売に対する消費者意識も、
流通事情も大きく異なります。


このポイントをしっかりと認識しなければ、
ウォルマートが100%子会社化したところで西友の回復は
見込めないと思います。


そういう意味で、ウォルマートは西友を利用して、
深く日本のマーケットを研究することから始めるべき
だったのです。


逆に言えば、
日本のマーケット事情を熟知した、西友の大株主である
住友商事は、ウォルマートに日本のマーケットについて
十分助言するべきではなかったかと思います。


そういったことをせずに手放しにウォルマートに
株式を売却してしまうというのでは、少々情けないと
私は感じてしまいます。


●日米の小売マーケットの大きな相違とは?


さて、ウォルマートが理解すべき日米マーケットの相違点とは、
具体的にどんなことがあるでしょうか?


1つには売り手側の意識も買い手側の意識も日米では
異なることです。


ウォルマートは「Everyday Low Price」というスローガンを
大々的に掲げていますが、日本のスーパーでは目玉商品で
集客を行うだけで、常に何でも安いという売り方は
していません。


価格を重視する顧客層が少なくない米国に対して、
日本のお客さんは安くなければ買わないという
姿勢でもありません。


目玉商品につられて来店しつつ、気づいたら他の商品も
一緒に買っているというのが日本のスーパーの実情です。


一方、米ウォルマートでは、中国製のDVDプレーヤーなどの
電化製品が安価で販売されていますが、


日本でこのような商品が売れるのか疑問です。


日本の消費者は、やはり電化製品なら
ソニーやパナソニックなどのブランドがある商品を求めます。


もう1つは、「生鮮食品の流通事情」の違いです。


米国では、大きな卸会社と契約し一括で大量に安く
仕入れることが可能ですが、まず日本ではそれほど大きな
卸会社が存在しません。


また、日本ではソース1つをとってみても
地域ごとに嗜好が異なるため、均一の商品を大量に仕入れても
消費者に受け入れられません。


こういった事情から、日本の生鮮食品の調達には、
ヨークベニマルなどの地場の中堅企業が強みを持っています。


ウォルマートが今のままのアプローチを続けても、
日本の生鮮食品の流通について、ノウハウを獲得するには
かなりの時間がかかってしまうと私は思います。


今後、西友が100%子会社化されれば、その業績を外から
窺い知ることはできなくなりますが、私に言わせれば、
改善する兆しが見えず、今後も業績回復を期待することは
難しいと思います。


また、親会社であるウォルマートの日本マーケットへの
理解不足が、現場で働く西友社員のモチベーションを
低下させるのではないかと懸念しています。


                          以上


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