大前研一「ニュースの視点」Blog

KON603「東芝・新日本監査法人・キリンHD~海外進出の遅れは業界全体の問題」

2016年1月8日 キリンHD 新日本監査法人 東芝

本文の内容
  • 東芝 2016年3月末までに国内外で1万600人削減
  • 新日本監査法人 3ヶ月の新規業務停止命令
  • キリンHD 上場以来初の連結最終赤字

5000億円の不正会計よりも、将来の布石がないことが問題


東芝は21日、2016年3月末までに国内外でグループ全体の5%に相当する1万600人を削減すると発表しました。

16年3月期の連結最終損益は構造改革費用などで5500億円の赤字と過去最大になる見通しで、会計不祥事で覆い隠されていた低収益体質を改善し、経営再建を急ぐ考えです。

状況がわかってくると、単に「利益を底上げしていた」というよりも、より構造的な問題が大きいと感じます。私が一番懸念するのは、不正発覚前は時価総額2兆円越の企業でしたが、「中核事業」が曖昧になり、ふわっとした雰囲気になっていることです。

東芝のセグメント別の売上高・利益を見ると、以下の様な状況になっています。

・電力インフラ事業:2兆円規模だが、利益率が1%と低い
・電子デバイス、半導体事業:利益は出ているが、急激に減速している
・コミュニティソリューション事業:そこそこ利益が出ている
・ライフスタイル事業(パソコン、テレビなど):業績は悪く、足を引っ張っている
・ヘルスケア事業:利益も出ており、日本ではトップに入る

これらの中で、ヘルスケア事業を売却し、ライフスタイル事業は富士通と一緒に展開すると言われています。電子デバイス事業も別会社化、独立を検討していると聞きます。そうなると、東芝に残るのは、コミュニティソリューション事業と電力インフラ事業になりますが、これらの事業で「東芝の中核」を成すことができるのか不安です。

最も利益を出している電子デバイス事業にしても世界に目を向ければ、サムソン、TSMCなど強力な競合がいます。不正会計による5000億円よりも、将来に向けた布石が何もないことのほうが、より重大な問題だと私は感じます。

シャープも非常に素晴らしい会社だったのに、今では方向性が定まらず、同様にふわっとした会社になってしまいました。電機大手の時価総額を見ると、ソニーが回復してきて、日立、パナソニックが頑張っています。東芝は一気に1兆円を割り込み、シャープは大安売りという状況です。

東芝は、「中核事業」の位置づけを再度見なおしてもらいたいと思います。


監査法人の業界全体を健全化しなければ、同じ不正は繰り返される


東芝の会計不祥事を巡り、金融庁は12月22日、会計監査を担当した新日本監査法人に3カ月の新規業務の停止を命じる行政処分を正式発表しました。監査法人に対し初となる約21億円の課徴金も科し、これについて金融庁は「相当の注意を怠り、長期間にわたり批判的な観点から検証ができなかった」と指摘しています。

監査法人に対し初となる約21億円の課徴金と言っても、私に言わせれば「甘すぎ」ます。21億円の追徴金など、何の問題もなく支払うでしょう。

そして全く痛痒を感じることなく、反省もないままに終わると思います。もっと会社がひっくり返るくらいの罰を与えるべきだと思います。

日本の監査法人業界は、新日本、トーマツ、あずさという御三家が君臨しています。何か事故があっても、この3社が焼け太りをするだけで、本質的に変化することはありません。この業界構造が問題だと私は見ています。

監査法人はもう少し中堅規模になり、数年に一度、任期満了で交代する、といったルールを設けるべきです。そうしないとお互いに切磋琢磨することなく、まるで顧問先の契約を継続しようとするように、「守る」意識ばかりが強くなります。

また、企業側の意思で監査法人を変えようとすると、「嫌がらせ」に近い対応を受けます。最長でも5年で監査法人は変えるなどして、業界体質を変えなければ、オリンパスを始め、過去の事例を見ても明らかなように、同じ問題は繰り返されるでしょう。

業界全体の仕掛けを変えることに着手して欲しいと思います。


海外進出の遅れは、キリンに限らず業界全体の問題


キリンホールディングスは2015年12月期の決算が、1949年の上場以来、初めて連結最終赤字を計上する見通しとなりました。2011年に買収したブラジル子会社ののれん代など、約1100億円を特別損失として計上することが響くもので、2016年から新たな中期経営計画が始まるのを前に、誤算続きの負の遺産にケリをつける考えです。

これは、ブラジルのビール会社・スキンカリオールの買収が失敗だったということでしょう。特別損失でのれん代を一気に償却するということは、将来的に成長を見込めない、あるいは時価総額に対して買収金額が高すぎた、ということになります。

この点については、もう少し明確に買収の失敗を開示すべきだと思います。キリンの売上高・利益を見ると、国内は好業績ですが、全体として伸び悩んでいます。海外に進出していきたいと考えるのは理解できますが、正直に言って、海外戦略を取るのが遅すぎたと言わざるを得ません。

これはキリンに限らず、日本のビール会社全体に当てはまります。海外のビール会社は、キリンの比ではない大規模な会社も多く、バドワイザーによるサブミラーの買収など、何兆円という単位の大型合併も行われています。

海外のビール会社の買収と言っても、参入するのが遅すぎたためリスクの高いものしか残っておらず、ババを引かされた格好です。

キリン単体の問題というよりも、日本のビール業界全体の問題として捉えることが重要だと思います。

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※この記事は12月27日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週はキリンの海外戦略について解説記事をお届けしました。

人口減少が続き、国内市場の縮小が予測される日本。今後、国内市場を狙うだけの企業戦略では、生き残っていくことが難しいかもしれません。

10年後、20年後を見据えて、今やるべきことは何なのか?将来の成長に向け、新しい領域に投資するための意思決定が求められています。

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