大前研一「ニュースの視点」Blog

KON596「三菱航空機・東芝・東洋ゴム工業・LIXILグループ~東洋ゴム工業は同じ過ちを繰り返している」

2015年11月20日 LIXIL 三菱航空機 東洋ゴム工業 東芝

本文の内容
  • 三菱航空機 MRJが約1時間半の初飛行
  • 東芝 米WHが計約1600億円の減損損失計上
  • 東洋ゴム工業 非タイヤ抜本改革へ新体制発足
  • LIXILグループ 最終赤字228億円

MRJの初飛行に喜んでいる場合ではない


三菱航空機の国産ジェット旅客機「MRJ」の試験機が11日、約1時間半にわたり初飛行しました。日本メーカーが民間旅客機の胴体や操縦システムまで開発するのは1962年に初飛行した「YS11」以来、半世紀ぶりです。

このニュースに日本中が沸きましたが、本当に「長い」のはこれからです。FAA(アメリカ連邦航空局)による厳しい型式認定を取得できなければ、米国で販売できず、元も子もありません。

かつて三菱航空機は、MU-2というビジネス機(ターボプロップ機)を開発しました。米国での評判も非常に良く、かなり販売も好調でした。それを受けて、MU-2よりもワンランク上の高級ビジネス飛行機を計画しました。

MU-300(海外では「ダイヤモンドI」)と呼ばれたその機種は、100件ほどの仮受注を受けて量産体制に入ったものの、米国のFAAから型式認定を得ることが出来ませんでした。

ようやく型式認定を受けた時には、「時すでに遅し」で相次ぐキャンセルなどで、三菱航空機は大打撃を受けました。

今回の「MRJ」もこれから米国の型式認定を受けることになります。1時間半飛行したと喜んでいますが、米国の型式認定では2500時間ほど飛行し、あらゆるケースでのテストを繰り返します。まだまだ手放しに喜べる状況ではありません。

また、MRJは「燃費がいい」ことが大きなウリになっていますが、エンジンは三菱が開発したものではないので、ボンバルディア、エンブラエルを始め、競合メーカーも追随してくるでしょう。

2年ほど先を歩んでいると言われてきましたが、今回のMRJ開発の遅れでその優位性も失われています。エンジン以外に目を向けても、機体の設計などそれほど大きな差が生まれる部分ではありません。FAAの認可を受けられたら、その先は「販売力」の勝負ですが、三菱航空機は競合メーカーに比べて海外の販売力は強くありません。

逆に、ブラジルのエンブラエルなどはかなり売る力を持っている企業です。すると、三菱航空機としては結局のところ、ボーイングと提携して販売してもらう、というような形に落ち着くしかないでしょう。

日本の誇り、零戦の伝統が活きている、などと報道されていますが、現実的にはそれほど甘いことはなく、むしろ開発の遅れで厳しい状況に立たされています。

三菱航空機の航空機開発は日本の「国策」ですから、「恥をかかなければいい」くらいで考えれば良いと私は見ています。


東芝はウェスチングハウスの償却処理を一気に進めるべき


東芝は12日、子会社の米原子力発電会社ウェスチングハウス(WH)で原発建設などが思うように進まず、2012、13年度の決算で合わせて約13億ドル(約1600億円)の減損損失を計上していたことが明らかになりました。

東芝が先週末の決算発表で損失額を発表した際は、金額を公表しておらず、巨額な損失を積極的に開示しなかった姿勢に批判の声もあがっています。

これは違法ではありませんが、限りなく「黒に近い灰色」でしょう。

私は、WHにはもっと大きな問題が隠れていると思っていましたが、この程度ならば一気に公表して償却処理を進めるほうが良いでしょう。

ただでさえ信用を失っているタイミングで、こんなところにも隠蔽があったとなると、そのほうが大きな問題です。

ソフトバンクが保有しているスプリントも似たような状況で、損失があるのに計上されていません。東芝としてはソフトバンクも同じだから、という言い訳をしたいのかも知れませんが、通じないでしょう。

東芝としてはすでに俎上に載せられている状況なので、一刻も早く対応するべきです。

* * *

相次ぐ不祥事に揺れる東洋ゴム工業は12日、新しい経営体制を発足させました。京セラ元専務の駒口氏が会長、常務執行役員だった清水氏が社長に就任するものです。

清水氏は「創業70年の会社有史以来の危機的な岐路に立っている」と危機感を示すとともに、駒口氏は「全てのウミを出し切る」と強調し、免震ゴムと防振ゴムの問題解決に全力を挙げる考えを示したとのことです。

しかし、この方法では絶対に上手くいかないと私は思います。

膿を出し切るのではなく、全てを表に出して、社内のマイナー事業をやっている日陰者ではなく、プライドを持った人が経営にあたるべきです。

具体的に言えば、非タイヤのゴム事業に専念する会社を作り、その会社で全責任を追って取り組むべきだと私は思います。巨大なタイヤメーカーの10%程度に過ぎない一事業ではダメなのです。タイヤメーカーが取り組んでいる体制自体に問題があります。

東洋ゴムという企業は、同じような過ちを何度も繰り返しています。

* * *

LIXILグループが2日発表した2015年4~9月期の連結決算は、最終損益が228億円の赤字でした。

主力の水回り事業が国内外で好調で、売上高は前年同期比10%増の8774億円、営業利益は2.4倍の320億円でしたが、中国で水回り事業を手がける子会社「ジョウユウ」の経営破綻に伴い、関係会社投資関連損失281億円を特別損失に計上したのが響いたとのことです。

売上、営業利益は順調ですから、臨時の損失だと理解できます。

一方、1兆円規模の企業にしては営業利益が低いことが気に懸かります。それほど、「遊び」はない状況かも知れません。

世界一の道を歩んでいますが、もう少し収益基盤を強化する必要があるでしょう。

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※この記事は11月15日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は東洋ゴム工業に関する話題をお届けしました。

経営体制を刷新し、免震ゴムと防振ゴムの問題解決に全力を挙げることを示した同社。しかし大前は、今回の方法でも上手くいかないのでは?と指摘しています。

なぜ、同じような過ちを繰り返してしまうのでしょうか?それは企業の本質的な問題を把握していないためです。

取り組むべき問題の認識がずれていては、成果をあげることはできません。まず最初に、問題がどこにあるかを正しく見極めること。抜本的な問題解決を行うに当たり必要なステップです。

★問題解決力トレーニングプログラム(大前研一 総監修)
実務で成果を出すための考える力を学ぶには『一流』から。
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