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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON177 所有欲の減退する若者。その意味と今後の戦略

2007年8月31日

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 若者消費調査
 無駄な支出を嫌い、貯蓄意欲高い
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●20代の若者の所有欲そのものが減退しているという不思議な現象


日本経済新聞社が首都圏に住む20代、30代の若者(20代1207人、
30代530人)を対象に実施したアンケート調査の結果、


車を買わず、酒もあまり飲まない一方、


休日は自宅で過ごし、無駄な支出を嫌い、
貯蓄意欲は高いという、予想以上に堅実で慎ましい
暮らしぶりが浮き彫りになりました。


※「首都圏・若者消費意識調査」チャートを見る


固定電話もパソコンも持たない20代の人たち。


30代の人たちとは様変わりしている20代の若者の実態について、
私は週刊ポスト誌において「20代の人たちの不思議な現象」
という趣旨のことをコメントしました。


今回のアンケート調査は、まさにそれを裏付ける数量的な
調査だと言えます。


今回のアンケート調査(2007年)の結果を見てみると、
20代の人は2000年の調査時点に比べて、


車の所有率(23.6%→13.0%)も所有欲(48.2%→25.3%)も
半減しています。


飲酒についても、月に1度程度あるいは全く飲まないと
回答した人の割合が34.4%になっています。


特に注目すべきは、「車が欲しい」という所有“欲”が
低いということです。


3C(カー、クーラー、カラーテレビ)という標語に代表される
ような高度経済成長期から日本人を形作ってきた所有欲
そのものが減退していることを私は重く受け止めるべきだと
考えています。


満ち足りた世代に見られる現象と言ってしまえば
それまでですが、私はそう思いません。


おそらくこの現象は日本特有の現象です。


「失われた10年」という暗いニュースばかりが溢れた時代に、
10代の多感な時代を過ごしたという、その経験も
大きな原因のひとつではないかと私は思います。



●若者世代の消費喚起のためには、
            まず、実態調査をしっかり実施すべき


さらに言えば、こうした若者の実態の変化について、
なぜ10年でこれほど変わってしまったのか?ということを、
もっと突き詰めて研究するべきだと思います。


今回のアンケート調査だけでは圧倒的に人数が足りず、
その実態を把握するというレベルには達していません。


こうした研究は、まず社会的に必要性があるでしょう。


このまま“所有する”負担を避ける傾向が助長されると、
例えば、結婚して家庭を築くことや、


家を買うこともしないという人が益々増えていくのでは
ないかと私は危惧しています。


次に、企業における今後の経済活動においても
貴重な情報となると思います。


逆に言えば、それらを情報として活用しなければ、
間違った戦略を選択する危険性があります。


先日、トヨタが富士重工と共同でスポーツカーの開発に
乗り出すという発表がありました。


「若者の車離れ」に歯止めをかけたいという狙いだと言います。


私に言わせれば、天下のトヨタでさえ、ここで大きな
戦略ミスを犯しています。


先ほどのアンケート結果を見てわかるように、
今の若者にとっては、とりわけスポーツカーなどと
いうものは全く“欲しい”ものではありません。


この時点で、トヨタは明らかにずれていると
言わざるを得ません。


私は以前からこのような若者の実態について
薄々感じることがあったので、何度か講演などで話をして
きましたが、企業はこの重要性をもっと意識するべきでしょう。


今、私が感じる限りでは、このような所有欲の減退現象は、
女性よりも特に男性に顕著になっています。


このあたりが正しいのか、また世界の若者と比べてどうなのか、
調査すべきことは山のようにあります。


企業戦略における情報の重要性について
今さら言うまでもありませんが、天下のトヨタでさえ
見誤ってしまう若者世代の実態。


この情報の重要性を認識し、研究・調査を進めることが、
若者世代の消費を喚起するための第1歩ではないかと
私は思います。


                                以上


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