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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON176 ブルドックソース事例で露呈した官僚、裁判官の不勉強

2007年8月24日

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 ブルドッグソース買収
 最高裁は、スティールの抗告を破棄
 スティール:TOB価格を引き下げ
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●経済不勉強と言わざるを得ない判決


米系投資ファンドのスティール・パートナーズ・ジャパンが
ブルドックソースによる買収防衛策の発動差し止めを求めた
仮処分申請で、最高裁第二小法廷は防衛策を適法と認め、


スティールの特別抗告と許可抗告を棄却する決定を下しました。


これを受けて、8日、スティールは、ブルドックの株式公開
買い付け(TOB)価格を1,700円から425円に引き下げると
発表しました。


※「ブルドックソースの株価推移」チャートを見る


今回の最高裁の判決文を読んで私がまず感じたのは、
この判決を下した裁判官の方々が、経済について勉強不足だと
いうことです。


スティールによる利益のみを追求した投資姿勢について、
明らかに否定的な見解を示していますが、その認識こそ
問題だと私は思います。


スティール以外でもブルドッグの株を買っている人は、
当然のことながら、利益を追求しています。


デイトレーダーと呼ばれる人たちが顕著な例でしょう。


誰もチャリティで株を買うわけはないのですから、
当たり前なのです。


今回の判決文では、スティールのどこに問題があるのか
全く明らかにされていません。


このままの論理を当てはめれば、スティール以外の
全ての投資家にも、同じ問題があることになってしまいます。


そして、この判決が、スティールに与えるダメージは
小さくないと思います。


今回の買収について否定されるなら、おそらくスティールは
全面的に日本から撤退する道を選ぶのではないかと思います。


そうなれば、スティール関連銘柄は全部下がっていくでしょう。


世界同時株安という現在の状況の中では、まさに
踏んだり蹴ったりといった状況になってしまいますが、
スティールとしては他に道がないように思えます。


●経済産業省の事務次官とは思えない、時代錯誤の認識


また、さらに輪をかけて情けないと感じたのが、
2007年9月3日号のプレジデント誌に掲載された経済産業省の
事務次官・北畑隆生氏のインタビュー記事です。


北畑氏は、インタビューの中で、
『国は命をかけて外資から「鉄」を守る』などと述べています。


また、今回のスティールの判決についても、
『理解しやすいものだった』という見解を示しています。


事務次官と言えば、「Administrative vice-minister」
ナンバーツー大臣と言われる立場である人です。


そのような立場にいる人が、
「命をかけて~を守る」と言うような個人が使う類の言葉を、
日本国に対して使うのは大きな問題だと思います。


また、実際に「命をかける」などというのは不可能なこと
ですし、そもそもそのような権限もありません。


口先だけでチープな日本語を使うのは、
やめてもらいたいところです。


さらに言えば、「外資から~を守る」という国際感覚に欠けた
時代遅れの認識にも、私は寒気すら覚えます。


国籍がどこの人であろうが、どの国の資本であろうが、
最も立派に経営をしてくれる人に委ねるべきです。


そして、守る価値があるなら、守ればいいのです。
これが近代的な価値判断であり、世界の常識です。


それを、今さら一方的に“国が守るべき”では、あまりにも
時代錯誤だと言わざるを得ません。


市場が1国のためのものであるならば、今市場にいる
4割近くの外国人投資家には退場してもらうとでも
言うのでしょうか?


もし、こんな論理がまかり通ってしまうなら、
世界中の投資家は日本から逃げていくことになるでしょう。


日本の官僚の方には、もっと国際感覚を磨き、
まともに経済を勉強してもらいたいと思います。


                           以上


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