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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON175 新生銀行救済のつもりが、7兆円強の辻強盗にあった日本国民

2007年8月17日

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新生銀行
政府が筆頭株主に 優先株を普通株に転換
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●新生銀行に対する国民負担額は、7兆円強


 1日、新生銀行は政府が優先株の形で注入した
 公的資金のうち1,200億円分を同日付で議決権のある
 普通株に転換したと発表しました。
 
 転換期限を迎えたためで、政府は発行済み株式の12.68%を
 議決権ベースで保有する筆頭株主となりました。
 
 
 新生銀行の株主構成を見てみると、
 日本政府:12.68%(1位)、
 チェースマンハッタンバンク:8.45%(2位)、
 ステートストリートバンク:6.98%(3位)、
 新生銀行:6.11%(4位)、
 J. クリストファー・フラワーズ:5.88%(5位)と続きます。


※「新生銀行の株主構成」チャートを見る


 5位のJ. クリストファー・フラワーズは
 旧リップルウッド・ホールディングス
 (現RHJインターナショナル)の創業者の1人ですが、
 この人以外には現在、新生銀行の株主の中に旧リップルウッド
 関係者はいません。
  
 元々、旧リップルウッドが全て保有していたわけですから、
 完全に売り抜けてしまっているということが分かります。
 実際、旧リップルウッドは1兆円近い金額で売り抜けていると
 私は見ています。
 
 
 さて、今回のニュースを受けて、あたかも政府が利益を
 得たような誤解を受けるような伝え方をしている報道が
 見受けられますが、これは全くの誤解です。
 
 旧リップルウッドは売り抜けに成功していますが、
 新生銀行の負債に充当させられた国民の損失額は
 約7兆6000億円にのぼり、ほぼ確定してしまっています。
 
 
●7兆円強の国民負担額の背景を認識することが大切


※「新生銀行への公的資金投入額と国民負担額」チャートを見る

 
 新生銀行に関する国民負担は、
 大体、次のような経緯を辿りました。
 
 
 まず、旧日本長期信用銀行の債務超過分の穴埋めとして、
 3兆6000億円。
 次に、旧長銀の保有していた債権及び株式等の資産買取額
 3兆9000億円(回収実績は不明)。
 さらに、3,700億円
 (甲種優先株1,300億円、乙種優先株2,400億円)
 の資本注入を行いました。
 
 その後、減資により甲種優先株331億円の損失が確定して
 います。
 
 
 つまり、公的資金投入額の合計は7兆8700億円
 となるわけです。
 
 
 その後、これだけの公的資金投入に対して、
 国はどれだけ回収できているのでしょうか?


 昨年の8月に整理回収機構が1,200億円分に相当する普通株
 約2億株を売却し、新生銀行が全株を取得しました。
 確かに、このときには国の売却益は306億円にのぼりました。
 
 しかし、現在、政府が保有している甲種優先株も
 07年8月3日時点の終値429円で換算すると、
 約320億円になっていますし、今回ニュースになっている
 乙種優先株 から転換された普通株も、
 342億円の含み損です。
 
 
 ですから、整理回収機構の回収実績は不明ですが、
 当初の国民負担額をベースに概算すれば約7兆6000億円となり、
 昨年ほんの少し利益が出たといっても、焼け石に水もいいところ
 だと私は思います。
 
 
 旧リップルウッドが仮に1兆円近い金額を売り抜けていて、
 国民負担額が7兆円強。
 
 これでは辻強盗にあったようなものです。
 
 
 報道機関は、その場その場の事実だけを伝えるだけでなく、
 このような背景となる事実も調べた上で、
 全体としての事実を伝えることが重要だと思います。


 また、逆に、私たち国民も、1つ1つのニュースを鵜のみに
 するのではなく、関連事項などを調べた上で、自ら判断し、
 考える習慣をつけることも大切だと思います。


以上


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