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阪神問題で明らかになった「村上ファンド」の実態
村上世彰氏率いる投資ファンドが阪神電鉄の株式を買い増し、
4月29日時点で保有比率が発行済み株式の46.65%に
なっていたことが10日明らかになった。
また村上氏が率いるMACアセットマネジメントは
日本の投資顧問業を廃業し、村上氏が全額出資する
新たな投資会社をシンガポールに設立したと発表した。
これにより村上氏側は営業報告書の提出や
証券取引等監視委員会の検査を受けなくてもよいことになった。
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●阪神株を巡って攻防が続く村上ファンドと阪急
村上ファンドについては、今週さまざまな動きがありました。
まず阪神電鉄株の保有比率が46.65%になったということですが、
これにより株主総会で株主に直接投票を求めるような案件が
上がったときは、村上ファンド側が圧勝することになります。
ですから阪神の現経営陣というのは、
もうほとんど力を失ってしまったわけです。
さらに村上ファンド側は9人の取締役を推薦しました。
その9人のうちの1人である玉井英二氏は現在、
阪神電鉄の社外取締役ですが、この話を辞退しましたので、
現経営陣が総退陣すれば、玉井氏を除く8人の取締役で
経営していくということになります。
しかしながら村上氏としては、そういう事態は絶対に避けたい
はずです。なぜならば彼は株価をつり上げて収益を得る
グリーンメーラーとしては一流ですが、
経営手腕への信頼性はほとんどないからです。
よって自分で経営を始めてしまったら、
阪神の株価が暴落する可能性があります。
それに今回推薦された取締役候補者は、
ほとんどがM&Aコンサルティングの社員なので、
コンサルティング会社の社員に鉄道会社やデパートの経営が
できるのかという指摘は必ず出てくるはずです。
この取締役推薦は、村上氏が阪神電鉄株を
阪急に少しでも高く売るための交渉の一貫と考えられます。
ですから阪急側は今はあまり「阪神株が欲しい」という態度を
前面に出さずに、知らん顔して冷却期間を置くといいと思います。
そうするとこの提案は株主総会に提出され、
M&Aコンサルティングの社員が取締役になってしまいます。
そうして株価が暴落したときに、阪急が交渉の場を再び設けて、
価格交渉に入ればいいのです。
阪急に時間を置くだけの余裕があるのか、
また阪急側のアドバイザーがそういうことを見抜いているのか、
という点は大きな疑問ですが、この問題は今は放っておくのが
得策だと思います。
●渦中のさなか、海外移転する村上ファンドの意図とは?
一方、村上ファンドが拠点をシンガポールに移すという話題は、
今週最も注目に値するニュースでしょう。
その理由を説明するには、まず村上ファンドの実態が
どういうものかを明らかにすることが必要です。
村上ファンドを一つの会社だと思っている方もいると思いますが、
実は大きく三つに分かれています。
その一つはケイマン諸島(※注)にある国内外の投資家のお金が
集まるファンドで、これがいわゆる村上ファンドの資金です。
(*注)タックスヘイブンである英領ケイマン諸島に、
村上ファンドの関連法人としてMAC Japan Active Shareholder Fund,
MAC International Ltd. などが置かれている。
そして投資顧問業のMACアセットマネジメント。
これは日本で免許を取得して、ケイマンのファンドの
アドバイスをしているということになっています。
ところがこれらのファンドや投資顧問会社には別の社長がいて、
村上氏はM&Aコンサルティングという会社に籍を置いています。
このM&Aコンサルティングという会社は、
単なるコンサルティング業で、投資顧問業法の枠に
ひっかからない反面、株式等の売買の指示を
出してはいけないことになっています。
しかしこのMACアセットマネジメントとM&Aコンサルティングは、
実際は一緒ではないのか、村上氏の指示なくして阪神の株を
こんなに買えるのか、ということで、
MACアセットマネジメントの売買の内容が違法か適法か
という疑問が出てきます。
それで村上氏はこのような疑問に対する追及の手を逃れるため、
MACアセットマネジメントの日本での投資顧問業の
免許を返上して、拠点をシンガポールへ移して
しまったのではないでしょうか。
これで金融庁の指示や検査も受けずに済むことにもなります。
日本での免許を返上してしまったら、4000億円とも言われる
村上ファンドの資金はどうなるんだろう、
と思った方もいると思います。
しかし、もともと資金を持つファンドはケイマンにあって、
日本からアドバイスをしていただけですから、
投資顧問会社がシンガポールに移っても何も問題はないわけです。
MACアセットマネジメントのシンガポール移転の理由は、
税制面のメリットなども大きいのでしょうが、
実際は村上氏を中心とした複雑な資金の流れを、
金融庁から追及されることを嫌ったためではないでしょうか。
阪神株取得に端を発した今回の問題は、
不明瞭だった村上ファンドの実態を明らかにする機会も
与えてくれたことになります。
-以上-