大前研一「ニュースの視点」Blog

KON567「米テスラモーターズ・独フォルクスワーゲン・仏ルノー ~岐路に立たされるテスラモーターズ」

2015年5月8日 EV インタビュー テスラモーターズ フォルクスワーゲン ルノー 問題解決

本文の内容
  • 米テスラモーターズ 日本でEV充電拠点を拡大
  • 独フォルクスワーゲン ピエヒ監査役会長が辞任
  • 仏ルノー 「1株1議決権」提案が否認

テスラとパナソニックの関係は続くのか?


米電気自動車メーカー、テスラモーターズのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は28日、日本経済新聞のインタビューに応じ、日本でEVに無料で急速充電できる設備を今年中に現状の5倍の30カ所程度まで増やす方針を明らかにしました。将来的に全国数百カ所まで増やす計画とのことです。

今、日本においてテスラモーターズは岐路に立たされていると私は感じています。テスラの車を購入した人の声を聞くと、フル充電には40時間もかかり、急速充電の設備も不足しているので、実用に耐えないのが現状だとわかります。

また一部で指摘されていますが、日本で電気を作るためには石油化学系のものを燃焼させる必要があるので、結局のところ充電拠点も「クリーン」とは言えません。

テスラはパナソニックを巻き込んで、アリゾナにリチウムイオン電池の大規模工場を作っています。先日の発表によると、家庭やビル、大規模な太陽光発電所などで使える据え置き型の蓄電池を8月にも発売する見込みで、価格を他社製品の半額以下に抑えるということです。

おそらくこの発表には、パナソニックも冷や汗をかいたのではないでしょうか。実際に電池を作っているのは自分たちであり、その製品よりも半額以下で提供すると言われて、不安に感じていると思います。

今後、テスラとパナソニックの関係性がどのようになっていくのかは注目していきたいと思います。


フォルクスワーゲンを議決権ベースで支配しているのはポルシェ


独フォルクスワーゲンは25日、フェルディナント・ピエヒ監査役会長が同日付で辞任したと発表しました。お家騒動はひとまず幕を閉じましたが、新体制はグループの求心力を保ちながら、不振の米国事業てこ入れなどでどこまで力を発揮できるかが試されるでしょう。

ピエヒ氏と言えば、20年以上にもわたってフォルクスワーゲンを成長させ、今ではトヨタに比肩する会社を作り上げた功労者であり、大経営者だったと言えます。

しかし、これまでは良好な関係を続けてきた現ヴィンターコーン社長を批判する内容を雑誌に語ったことで大騒ぎになり、お家騒動に発展してしまいました。

大株主であるポルシェ、従業員代表もヴィンターコーン社長を支持する側にまわり、ピエヒ氏が窮する格好になっています。

株主構成を見ると、一般株主の保有比率も高いのですが、議決権がありません。議決権ベースで見ると、ポルシェが50%を超え、ニーダーザクセン州が20%、カタールのナショナルファンドが17%になっています。

この状況だと、さすがにピエヒ氏も黙らざるを得なかったでしょう。一つの時代の終わりを示唆しているのかも知れません。

ただ、今後ヴィンターコーン社長がトヨタと競争していけるのかどうかというと、私は疑問に感じるところもあります。

スズキの株を20%ほど保有していますが、資本提携が実を結んだとは言えず、提携解消の声も聞こえてきています。このあたりも、どのように舵を取っていくのか、ヴィンターコーン社長の課題と言えるでしょう。


追い込まれたゴーン氏は、フランス政府との関係改善を図る


仏自動車大手ルノーは30日、年次株主総会を開催し、カルロス・ゴーン最高経営責任者(CEO)ら取締役会の意向である「1株1議決権」制度の維持を求める提案の採決を行いました。

結果は賛成60.5%、反対39.4%で、採択に必要な3分の2の賛成票が得られず、同案は否決されました。今回のことでゴーン氏はフランス政府と対立した形になりましたが、結局、フランス政府によって否決されてしまいました。

このまま両者の関係が悪化すると、3年後ゴーン氏の任期満了の際、フランス政府がゴーン氏の排除に回る可能性も考えられます。ゴーン氏としては避けたい状況でしょうから、今後、急速にゴーン氏がフランス政府との関係改善に乗り出す可能性が高いと私は見ています。

日産からすると、同じ15%の株を保有していても、フランス政府には議決権があり、日産には議決権がないという今の状況は、全く意味がないと言えます。

フランス政府は昨年「2年以上保有する株主の議決権を2倍にする」法案を通し、今ではフランス政府の持つ、ルノーの議決権が2倍になっています。ゴーン氏も追い込まれており、日産はさらにコケにされる可能性が高いと思います。

フランス政府にとってルノーは国策企業であり、その意味ではゴーン氏は危険視されていると思います。野放しにすれば、ゴーン氏は安く生産できる世界の最適地に工場を移してしまうからです。実際、ゴーン氏がCEOに就任以来、日産は日本国内の工場を整理・再編してきました。

フランス政府としては国内の雇用維持のため、そのような事態は避けたいはずです。今後、ゴーン氏がフランス政府に歩み寄る際には、「雇用を確保する」という条件を出すのではないかと私は見ています。

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※この記事は5月3日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週のニュースの視点では、自動車業界の話題をお届けしました。

年内に急速充電設備を増設する方針を発表したテスラモーターズ。大前は実際の購入者の声を頼りに、同社EVは日本市場において岐路に立たされているのでは?と指摘しています。

商品普及を考えるに当たり、定量的なデータ収集以外にも顧客の生の声を聞くことは必須事項です。インタビューを通して、数字からは見えてこないニーズを発見することができます。

これ無くしてリアリティある戦略は描けません。

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