大前研一「ニュースの視点」Blog

KON562「リークアンユー氏死去・財政健全化・国の連結バランスシート・電源構成~やるべきことをやらない日本の政治家の姿」

2015年4月3日 バランスシート リー・クアンユー 財政健全化 電源構成

本文の内容
  • リー・クアンユー氏が死去
  • 財政健全化、はや暗雲
  • 国の連結バランスシート 2013年度末時点の債務超過額451兆円
  • 電源構成 2030年の原発比率「20%が下限」

日本の政治家とは一線を画するリー・クアンユー氏の思考力と行動力


シンガポールのリー・クアンユー元首相が先月23日、同国内の病院で死去しました。91歳でした。国葬は29日に営まれました。

リー・クアンユー氏は善意ある独裁者と言われるほど、強力なリーダーシップを発揮し、天然資源も何もなかったシンガポールを、今では一人あたりGDPで日本を上回り5万ドルを超えるレベルにまで発展させた立役者です。

私は数十年前、シンガポールから国家戦略のアドバイザーの依頼を受けたことがありましたが、当時のリー・クアンユー氏は、ケンブリッジ大学で学んだ英国教育の影響が大きかったのでしょうが、「2次産業がなくして国は成り立たない」と考えていました。時計や造船などの産業を興すつもりだったようです。

私はその意見に反対し、実現しつつあるASEANに目を向け、この枠組の中で実質的な首都の立場を取ることができれば、サービス業や金融業の3次産業だけでやっていけるとアドバイスしました。

残念ながら、リー・クアンユー氏には受け入れられず、結局シンガポールはオランダから別のアドバイザーを連れてきて2次産業を始めました。

しばらくして、その2次産業が上手くいかず、再度私のところへ依頼が来たのですが、すでに私はマハティール氏のアドバイザーに就任していましたので断りました。

その後、リー・クアンユー氏も3次産業へ目を向けて、結果としてシンガポールは、規制を撤廃し外国企業を誘致することでサービス業や金融業といった第3次産業で見事に大成功を収めました。最初は私の意見を受け入れなかったリー・クアンユー氏ですが、一度気が付くと、行動は迅速で徹底したものでした。

シンガポールでは法律で長髪とチューインガムを禁止しています。その理由は、シンガポールが「ホテルモデル」だからです。すなわち、シンガポールは世界中からお客さんに来てもらうホテルであり、国民はそのホテルの従業員と同じなのだから、長髪やチューインガムは許されない、ということです。

このあたりの徹底ぶりが、善意ある「独裁者」と言われる所以でしょう。またリー・クアンユー氏は、インドにシンガポール型の工業団地を作る手伝いをするなど、色々とシンガポールでの成功モデルを使って、他人を助けていました。非常に影響力のある人でした。

決して仲が良くなかったマレーシアのマハティール元首相も、今回の訃報を受けて「アジアの偉大な指導者を失った」と功績をたたえたそうです。

どうしたら日本でも、リー・クアンユー氏やマハティール氏のような政治家が出てくるのか?と聞かれることがありますが、率直に言うと私は「頭の構造が違う」とさえ感じます。

日本の政治家にも期待したいところですが、今の日本の政治家を見ていると、正直、難しいかも知れません。


日本の政治家は、問題を見て見ぬふりをするしかできなくなったのか。


政府が夏につくる財政健全化計画に、はやくも暗雲が漂いはじめました。

安倍首相は消費税率10%への引き上げ延期を決めた2014年11月、日本財政への信認が損なわれないように取りまとめを約束したものの、先月13日の衆院財務金融委員会では、「10%までは消費税を上げるが、それ以上の引き上げで税収を増やすことは考えていない」と言い切ったとのことです。

もし消費税を10%以上の引き上げを封印するとしたら、GDPが2%成長をしても基礎的財政収支はプラスに転じず、GDPが1%成長なら横ばいから悪化していく試算になります。

財務省が先月27日発表した、負債が資産を上回る「債務超過額」は451兆円と1年前に比べて4兆円増えて過去最高になっています。

資産が伸びているから大丈夫などと言っていた政治家もいましたが、正味の負債で450兆円です。国民一人あたり450万円の借金になり、どう考えてもこれを返済するのは難しいでしょう。

このような社会で、どう希望を持てばいいのか?どうすればいいのか?これらの点について、私の意見をまとめた本(「低欲望社会」)を近いうちに上梓する予定です。ぜひ手にとって見て下さい。

日本の政治家について言えば、もはやこれらの試算が発表されても、安倍首相を筆頭に問題から目をそらし、現実逃避しているだけで解決策は見えてきていません。非常に残念なことです。

* * * * *

経済同友会は先月24日、2030年時点の望ましい電源構成(ベストミックス)と原子力発電の比率について「原発依存度は20%程度を下限とすることが現実的だ」との提言を発表しました。

電源別発電電力構成比を見ると、3.11以降、石炭、LNGなどが増えて、クリーンエネルギーという観点で言えば、完全に悪化しています。

さらに重要なのは、ベースロード電源を確保できないことでしょう。日本でベースロード電源になり得るのは、石炭と原子力くらいでした。太陽光発電や風力発電など、再生可能エネルギーは「気まぐれ」ですから、ベースロード電源としては不安です。

現実的に言って、原発の割合を2割ほどにすれば日本の電源構成は安定するでしょう。

今の日本における原発への逆風の中、経済同友会が発表した内容は正論だと思います。しかし、一方で政府の対応がよろしくありません。この正論の正しさを、国民に説明する必要があります。

例えば、柏崎刈羽原発は福島第一原発の教訓をすべて反映させて、3000億円もの資金を投じて改善しています。福島で何が起きたのか?どうすれば避けられたのか?という点を、政府は国民にわかりやすく説明するべきです。

やるべきことをやらない日本の政治家の残念な姿が、ここでも現れてしまっています。

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※この記事は3月29日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています


今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は財政健全化について解説をお届けしました。

記事中、大前は日本の政治家について、問題から目をそらし現実逃避をしていると指摘しています。仮に、代案となる「実行しやすい」解決策を提示したとしても、それが本質を見失っている限りインパクトを生み出すことはできません。

多くの場合、解決策の実行に阻害要因はつきものです。この阻害要因を取り除き、解決策を推し進めていくことが重要です。

問題の解決を先送りせず、自らが使命感を持って動くこと。これはProblem Solverの基本姿勢です。

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