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〔大前研一「ニュースの視点」〕#112 付け焼刃は効かない、日本の少子高齢化

2006年5月12日

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 付け焼刃は効かない、日本の少子高齢化


 総務省の人口推計によると、今年4月1日現在の
 15歳未満の子どもの数は昨年より18万人少ない1747万人であった。
 25年連続で減少しており、総人口に占める割合も13.7%と
 32年連続で減少、過去最低を更新した。


 一方、65歳以上の人口の割合は
 昨年から0.6ポイント上昇し20.4%となるなど、
 少子高齢化の傾向が一段と鮮明になっている。
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●「子どもを産んで育てる」楽しさと意義を伝える教育を


このまま進めば日本の衰退は必至となるのではないかと
思えるほど、少子高齢化は今の日本にとって由々しき問題です。
年金や雇用、所得格差といった諸問題とも
密接に絡みあっていますが、まずは「少子化」と「高齢化」、
それぞれ別に考えてみるべきでしょう。


まずは少子化問題ですが、減り続けている15歳未満の子ども達は、
あと10年もすればいわゆる結婚適齢期となります。
しかし未婚率、離婚率は軒並み高まり、
さらに結婚しても子どもを産まない、
産んだとしても一人といった世帯が増えている状況です。


では、なぜ子どもを産まないのでしょうか。


その理由は、生活費や養育費などがネックになっていると
いわれていますが、私はもっと根本的なところに
問題があると思います。


以前は日本でも、子どもを産んで育てていくことは
楽しいことであり、意義のあることだという共通認識が
少なからずありました。


しかし今は「生きがい」も多様化しており、
人生を楽しむ目的は別のことにベクトルが向きはじめています。
「子どもを産んで育てる」ことの優先順位が
低くなっているのです。


この状況を変えるためには、付け焼刃の対策では
どうにもなりません。価値観を変える、
すなわち親や学校、社会が、子どもを育てることの楽しさと
意義を教育していく必要があります。


もちろん成果が出るまでには、多大な時間を要することですが、
価値観まで立ち戻って考えるべき問題なのです。


もちろん、価値観を育てる教育の実践を前提とした上で、
国からなんらかの補償もあってしかるべきだと思います。
北欧の一部地域では「子どもを国が育てる」、
つまり育てたくなければ、国に預けても構わないといった制度を
敷いているところもあります。


それらの地域では、教育が行き届いているため、
実際には育てたくない意思を示す親の絶対数は少ないのですが、
日本のように「産む行為」と「育てる行為」、
双方が親の責任というわけではないのです。


もしかすると、これまで疑う余地のなかった
「子どもは親が育てて当たり前」という常識すら
取り外して考えるべき時期に、今の日本は差し掛かって
いるのかもしれません。


また、スウェーデンやフランスなどは教育を施した上で、
1人より2人、2人より3人産む方が明確に優遇されるというような
仕組みを敷いてます。


かたや日本の補償は、そこまで到達していません。
補償以前に、個人資産の構造が、経済にまで
影響を及ぼしているのです。



●外国人と地方自治体の就労環境を変える、介護需要の高まり


90年代初めに約1000兆円だった個人金融の総資産額は、
わずか10数年の間で増え続け、およそ1500兆円にまでなりました。
不況が囁かれ始めた時期から着々と増えているというのは、
なんとも不思議な現象です。


全体でみればお金はある、しかし着目すべきは、
年齢を追うにつれて資産が増え続けている点です。


通常、どの国も50代前後が資産のピークとなり、
以降は下り坂となるのですが、日本の場合は終始右肩上がりで、
お墓に入るときが一番資産を持っていることになります。


世帯主の年齢階級別1世帯あたり資産額でみると、
30歳未満の世帯の7.3倍もの資産を、70歳以上の世帯が
保有しているのです。


因果なことにお金が一番必要となるのは40歳前後で、
この頃が借金の額も人生において
もっとも膨らんでいるといえます。


一方、高齢者の場合は往々にして既にローンを払い終えており、
比較的余裕がありますが、先行きの不安から
お金を貯め込んでいます。
この構造が、消費低迷を生んでいるひとつの原因です。


では、金銭的にゆとりのある高齢者において、
当面の問題は何かというと、少子化のために介護する人の
絶対数が減るということです。


その部分をどう補うべきなのでしょう。


私は、少子化で日本の若者が減っている以上、
日本在住の外国人たちの手を借りる以外にないと思います。
介護を受ける高齢者がその事実を納得できるか、
介護する外国人たちが働く環境を作ることができるか、
そこがまず着手すべきポイントでしょう。


また、介護者の需要が増えるということは、
外国人の就労環境に関与するだけでなく、
日本の地方自治体の就労環境をも変える可能性を秘めています。


国土交通省が3月末に発表した調査結果によると、
首都圏に暮らす団塊世代の4割が、
今後10年以内に今の場所とは別の場所で暮らしてみたいと
考えているということです。


じつは、こうした高齢者の移住志向は世界的な現象です。
アメリカの場合は、ニューイングランドや
ミッドウエストで働いて、引退後は南部や西部のラコスタ、
オーランド、ラスベガス、サンタフェなど暖かい地域へ
移住しています。


ドイツやイギリスの場合は、引退後にポルトガルやスペイン南部、
トルコなどへ移住する人が年々増加しています。


そうすると、移住先で高齢者へのサービス事業が生じて、
雇用が生まれ、若者も住みやすくなります。
健全な消費が生まれるとともに、国内の地域格差も
自然と是正されるでしょう。


私は10年以上前から、気候の温暖な地域の県知事などに、
高齢者の誘致を提言していますが、
どうも「若い人を誘致したい」ということに捉われがちでした。
最近やっと、彼らも全体的な構造を理解してきたように思います。


少子化と高齢化は、表裏一体の問題です。
一朝一夕で是正されることではありませんが、
まず「官」は少子化対策としては教育を、
高齢化対策としては外国人の雇用に着手し、
「民」は健全なビジネス機会とみなして
新たなサービスを模索していくことが必要だと思います。


                       -以上-


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