大前研一「ニュースの視点」Blog

KON552「円安効果・国債利回り・原油価格・ベネズエラ国債・ブリヂストン~輸出が伸びないのは必然」

2015年1月24日 ブリヂストン ベネズエラ 円安 原油価格

本文の内容
  • 円安効果 円安でも輸出伸びぬ誤算
  • 国債利回り 新発10年物国債利回り 一時0.255%
  • 原油価格 ヤーギン氏「シェール革命はまだ続く」
  • ベネズエラ国債 格付けを2段階引き下げ
  • ブリヂストン 4537円で上場来高値更新

円安で輸出が伸びないのは「誤算」ではなく「必然」だ


日経新聞は15日、「円安でも輸出伸びぬ誤算」と題する記事を掲載しました。アベノミクスが始動して2年あまり。14日は円高に振れたものの、円は米ドルに対して約40円安くなり、企業には円安で値下げ余地が高まったはずなのに価格を武器にシェアを追う動きも一向に見られない、と指摘しています。

「円安でも輸出伸びぬ誤算」「円安で企業が日本へ戻ってきている」など、日経新聞もいい加減なものだ、と私は思います。

日本の電子業界を見ればわかりますが、電化製品の部品はほぼ全てが海外製です。ということは、円安になると部品の輸入価格は上がります。

組立産業の8割は部品ですから、当然、製品原価も高くなります。輸出競争力が伸びないのは「必然」であって、決して「誤算」ではありません。また、円安になっても日本企業が国内に戻ってこないのも頷けるでしょう。

工場が国内に戻ってこないのは、他にもいくつか理由があります。たとえば、海外に作った工場は新しく、国内に残っている工場は古いということ。今さら数十年前に作った工場に戻るのは面倒です。

それに、リストラをする苦労も避けたいところでしょう。今は中国で工場を閉鎖するのも簡単ではありません。

海外の工場は規模が大きいというのも大きな理由です。だいたい海外では1つの工場で数千人から1万人が働いています。日本に工場を戻したとして、同じような規模で再開できるか?というと難しいでしょう。

この20年間で大学進学率が上がる一方、日本のブルーカラーは激減しています。中学・高校を卒業してすぐに工場で働く人が少なくなっています。

新聞記者もアベノミクスを提唱する人たちも、この程度のことは勉強しておいてほしいところです。ミクロ経済学の基本レベルです。


 

世界経済の状況、原油価格低下の影響は?


長期金利の指標である新発10年債の利回りが一時0.255%と、過去最低をつけました。また欧州もドイツの5年債利回りがマイナス圏で推移する状況になっています。

日米欧のいずれでも10年物国債の利回りが落ち込んでいます。欧州では消費者物価指数もマイナスに転じ、日本型の病気が蔓延しつつあります。

日本では国債と社債の状況が逆転していますが、これは会社のほうが国よりも安全だと思われているということです。確かに異常事態ですが、国がつぶれてもグローバル企業は生き残るでしょうから、理に適っています。

また、日経新聞は、「石油の世紀」でピューリッツァー賞を受賞したダニエル・ヤーギン氏のインタビューを掲載しました。

ヤーギン氏は、米国の中小シェール企業の倒産が出始めているものの、技術革新により採掘コストは低下しており、シェール革命はまだ続くと分析しています。また、原油価格の反転は来年になるだろうと指摘しています。

ヤーギン氏はエネルギー問題にも詳しく、その指摘は非常に鋭いものがあります。私が彼の著作を初めて読んだのは、「The Commanding Heights」(邦題:市場対国家 上下巻)という本でした。規制緩和の意味、本当の市場主義とは、サッチャーが首相になるまでにどのような勉強をしてきたのか、など、非常に示唆に富む本です。日本の政治家も、ぜひ一読して理解しておくべき内容だと思います。

ヤーギン氏の主張を踏まえて、私ならば「エネルギーがここまで低価格になるのなら、円安政策ではなく、安いエネルギーを利用したアベノミクス第4の矢」を考えるでしょう。

ただし、注意すべきは、原油価格は過去10年においても、3回ほど50ドル付近まで低下したことがあります。今回だけが特別というわけではないので、その点は理解しておくべきでしょう。

* * * * *

私たちにとってはあえて大騒ぎする事態ではありませんが、ベネズエラは厳しい状況に追い込まれています。米大手格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは13日、南米の産油国、ベネズエラの格付けを2段階引き下げ「Caa3」とすると発表しています。「Caa3」というのは、ギリシャよりも低い格付けです。

一生懸命、中国やロシアに支援を求めて「物乞い外交」をしていますが、私に言わせれば一度痛い目にあったほうがよいと思います。ベネズエラの場合、産油価格の問題よりも、原油に依存しきって、それを非常に高い「国家予算」に組み込んでいる点に問題があります。

要するに、無駄遣いの極みです。故・チャベス元大統領の時代には、票獲得のために多額の資金がばら撒かれたと聞きます。

そういう無駄遣いが国家の体質としてしみついてしまっているので、それを削らせるためにもここで一度歯止めをかけるべきだと思います。

一方、原油価格の影響を受けて好調を見せているのがブリヂストンです。ブリヂストン株が15日、前日比7%高と商いを伴って急反発し、4537円の上場来高値を付けています。

原油安でタイヤの原材料となる合成ゴムなどの価格が下がり、利益率が改善するとの期待が広がったとのことです。

タイヤは原油そのものといってもいいくらいですから、世界トップのブリヂストンが恩恵を受けるのも当然でしょう。

ただ原油価格の恩恵だけでなく、ブリヂストンは非常にいい経営を続けてきていると私は思います。この点も見逃してはいけないでしょう。

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※この記事は1月18日にBBTchで放映された大前研一ライブの内容を一部抜粋し編集しています



今週の大前の視点を読み、皆さんはどうお考えになりましたか?


今週は円安効果に関する解説記事をお届けしました。

「輸出伸びぬ誤算」「企業が日本へ戻ってきている」と言及した日経新聞。電化製品のほぼすべての部品は海外である、というファクトさえ知っていれば、この現象が誤算ではなく必然であるという構造を良く理解できます。

このように事実を押さえ、業界動向や特徴を把握することで、初めて現象を正しく分析することが可能となります。

皆さんは、情報をしっかり調べた上で結論を導けていますか?これに抜け漏れがあると、問題の本質を見つけることはできません。

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