大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕#111 阪神・阪急の統合を端緒に、関西私鉄全体の再編へ

2006年4月28日

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 阪神・阪急の統合を端緒に、関西私鉄全体の再編へ


 阪急ホールディングスは18日、阪神電鉄を持ち株会社の
 傘下におさめる方針を明らかにした。


 阪急ホールディングスは村上世彰氏率いる投資ファンドから
 阪神電鉄株を取得する方針で、
 近く同ファンドと価格などの本格交渉に入る見込みだ。
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●阪神電鉄株で進退窮まった村上ファンド


村上ファンドが保有する阪神電鉄株については、
2月に野村證券グループの投資会社、
野村プリンシパル・ファイナンスが名乗りをあげていました。


村上ファンドは阪神電鉄株の約46%の株を取得し、
あと4%でマジョリティを取れるところまで来ていましたが、
以前から述べているように村上氏は株を取得して株価をつり上げ、
収益を上げるだけの、いわゆるグリーンメーラーですから、
会社を経営するという考えはないのです。


実際、村上ファンドが「これ以上、阪神電鉄株を
取得する気はない」と言ってしまえば、株は暴落して、
売り抜けることができなくなります。


つまり村上ファンドは、前にも後ろにも行けない状態に
なってしまったわけですが、
そこで野村プリンシパルが手を挙げたのです。


ところがこの発表が出た途端、阪神電鉄株の株価は急落しました。
野村プリンシパルも阪神を経営するつもりはないでしょうし、
金になるものは売って価値を高めるというような、
株主としてオーソドックスなことしかできないのではないか
という思惑が市場に広がったからです。


そうなると何かやってくれるのではないかと村上ファンドに
期待していた人たちは、もう阪神の株は上がる見込みがないと
いうことで売りに回ったのです。


村上ファンドはなるべく高く株を売り抜ける必要がありますから、
株価が下がってしまった状態では売ることはできません。


私は「この状態ではまだ決着しない可能性がある」と、
そのときに述べましたが、結局この話は流れて、
今回阪急ホールディングスが新たに手を挙げたわけです。


村上ファンドも阪神電鉄株についてはもう余裕はありませんし、
袋小路の状態になっていましたから、
今回は前向きに検討するのではないかと思います。



●JR西日本に対抗する関西私鉄連合の結成を


今回やはり問題になるのは、阪神電鉄株の買い取り価格でしょう。
少しでも高く売りたい村上ファンド側にとっては
厳しい価格交渉になるはずです。


一方、阪急はバブルの頃の投資がうまくいかず、
会社自身は約8000億円の債務を抱えています。
社債もジャンクボンド(低格付債権)の領域という
苦しい状態にあります。


ですから買収に2000億円が必要と言われている
今回の阪神電鉄株取得は、阪急にとって
大きな負担になります。


ところが今回の阪急による阪神電鉄株取得を、
株主は前向きにとらえています。


それはなぜかというと、カラーが違うといわれている
2社ではありますが、阪神と阪急の共通の敵は
JR西日本だからです。


JR西日本というのは、経営改革をして、
ところかまわずネットワークを張り巡らせてきました。


さらに、昨年の福知山線の事故でも問題になったように、
運行本数を増やすために電車のスピードを上げるなどして
効率化を図ってきました。


一方、大阪地区の私鉄というのは阪急、阪神、
南海、近鉄、京阪といったところが、
起点も方向もバラバラに存在しているのです。


それで私はどうせなら阪急がリーダーになって、
これら関西の私鉄をまとめたカンパニー、
例えば関西レールウェイ、KRというものをつくったら
よいのではないかと思います。


今、共通の乗車カード等を提供する「スルッとKANSAI」
という関西一円の交通ネットワーク・システムがあります。
これに参加している私鉄がまとまれば、
沿線の需要全体を取り込む、JRのカードに対抗できるカードを
つくることもできます。


カードというのは地域のサイフをごっそりと取っていくような
力がありますから、大変重要なのです。


JR西日本は今、福知山線の事故で自粛していますが、
よみがえってくればやはり強さを発揮するでしょう。


阪急に企業カラーの違う関西の私鉄をまとめるだけの
リーダーシップがあるかどうかはわかりませんが、
今回の阪神電鉄株取得を期に、ぜひJR対KRの戦いに持ち込んで、
関西圏の私鉄の価値を高めてほしいと思います。


                       -以上-


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