大前研一 著  「考える技術」(講談社)より抜粋
 
Previous Page  1  2  3  4  5  6  7 Next

問題点の指摘だけでは結論とは呼べない

こうしてフィールドインタビューを積み重ねた結果、仮に「売上が伸びないのは、商品ではなく売り方の問題である」、しかも「売り方が悪いのは、営業マンに対するトレーニングに問題があるからだ」という結論に達したとしよう。

しかし私のコンサルティングでは、これはまだ「結論」とは呼ばない。求められているのは、「どうすれば問題が解決できるのか」。その解決策を導き出すことだからだ。経営コンサルトの中には、「営業マンの教育に力を入れるべきである」などと漠然とした文言をあたかも解決策のように言って平気な顔をしている者もいるが、これではプロ失格である。

A社のケースでは、全国から競合勝率の高い「売れる」営業マンを指名して、他の営業マンのトレーニングをしてもらうのが最善の方法である。全国には最低5人はこうしたトレーニングができる人間がいるはずだから、私の場合、トレーニングの指導を行うメンバーの選定から、トレーニング方法、社内のシステム作りまでを解決策として提案する。フィールドインタビューで実際に売っている人間の話を聞き、「この営業マンと同じ売り方をすればいい」ということがわかっているからこそできる提案だ。

これをたんに「営業マンの再教育が必要だ」と言ってしまうと、会社側は往々にしてトレーニングを会社の教育係に任せてしまい、営業のときの挨拶の仕方とか「直接目を見るといけないので、ネクタイの襟元を見ながら話しなさい」といった、馬鹿なことばかり訓練しかねない。こんな訓練は、商品を売るうえではまったく関係がない。これではせっかく「売り方に問題がある」という正しい結論に達しても、全く売上の改善にはつながらないのである。


「こうすれば問題は解決する」と確信できて初めて、真の問題解決といえる

もう1つ、私がよく行うのは営業マンに同行してみることだ。フィールドインタビューの中で気になることがあったら、「ところで、明日の予定はどうなっていますか?」と聞き、自分の明日の予定をキャンセルしてでも、1日その営業マンに同行させてもらうのである。鞄の中でカセットテープを回し、彼がお客さんとどんな会話をしているのか、お客さんがどんな反応をしているのかをチェックする。そうすると、それまでわからなかったことに気づくことが多い。

ときにはこんなこともある。ある会社の営業マンと川崎駅前で待ち合わせ、車で営業先に向かったときのことだ。営業マンが私を助手席に乗せて走り出したのはいいのだが、駅周辺の一方通行の路地にはまってなかなか抜け出せない。「あれっ、おかしいな。あれっ」などと言いながら、同じところをぐるぐる回っている。結局、「すいません、大前さん。ここで降りて歩いてもらってもいいですか」と、車を駅の近くに置いて歩いていくハメになった。こんなケースはふだん営業をサボっている証拠である。

つまり駄目な営業マンは、まともに入札もしていないし、まともに営業先にも訪問していない。こういう営業マンにはいくら売り方のトレーニングを指導しても無駄だから、「営業成績の下位100人はクビにすべきだ」とか「固定給をやめて成果主義を導入すべきだ」という結論になることもある。

このように、「こうすれば問題は解決する」という提案までできなければ、真の問題解決とはいえない。しかもその解決策は、すべて現場、マーケットから生まれてきたものでなければならない。現場を歩かずに数字だけを見ていると、「営業マンが足りないから増員すべきだ」「競争相手と比較すれば、営業マンは400人でいけるはずだ。だから100人はクビにすべきだ」という話しかできなくなる。しかしこれでは、現場から反対意見が出たときに説得することができない。その結論を支えるだけの証拠がないからだ。その点、フィールドインタビューで検証を積み重ねていれば、すぐに根拠を提示することができるのである。


Previous Page  1  2  3  4  5  6  7 Next