大前研一 著  「考える技術」(講談社)より抜粋
 
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仮説と結論を混同するな

経営コンサルトの仕事は、業界のデータや顧客である企業のデータを分析することから始まる。

その分析した結果をもとに、仮に「この業界は衰退業界なのではないか。成長率が鈍化してきている。したがって、あまりお金のかかる投資は新商品開発も含めて控えるべきだ」と考えたとしよう。しかし、ここで注意しなければならないのは、「この業界は衰退業界である」というのがあくまでも仮説であって、結論ではないということだ。だから「投資を控えるべきだ」と言うためには、衰退業界であるという仮説が正しくなければならない。仮説が正しいと言えるためには、どんな証拠を集め、その証拠をどう分析すればいいのか。それが問題となる。

データ分析して出てくるものは仮説にすぎないのだが、日本のほとんどの経営者やビジネスマンは、その仮説を結論だと思い込んでしまう。そこで「結論を得た」と思って安心し、仮説を裏付けるだけの証拠収集や、本当の結論に至るまでの論理的思考を怠ってしまうのだ。

身近な例として、和服の業界について考えてみよう。着物のマーケットは年々縮小し、この二〇年間で一世帯当たりの婦人用着物の支出額は半分以下に減っている。今後少子化が進めば、マーケットはますます縮小していくことが予測される。このデータだけを見れば着物業界が衰退業界であることは間違いないだろう。

ところがここで結論づけず、さらにデータを分析して「売上高そのものは落ちているが、単価の安い夏の浴衣の販売点数は減っていない」「浴衣の購買層の中心は、若い女性である」という結果を得たとしよう。また、他の分析からも「若者の“和風”に対する関心が高まっている」ことがわかったとしよう。そうすると、「たしかに着物は衰退業界である。しかし、若者を中心に潜在的な需要はある」という別の仮説がたてられることになる。


解決策のない問題など存在しない

そうしてさらに仮説を立て、データを収集・分析していくことで、「高級和服の新作に力を入れるよりも、若者向けの新しいタイプの着物を開発すべきだ」とか、「新しい分野として、着物のリサイクルを新事業として立ち上げるべきだ」といった、最初の仮説とはまったく異なる結論に至るケースもあるわけだ。

重要なのは、「仮説」ではなく「結論」を導き出すことである。経営コンサルトの中には、仮説でしかないことを「結論」と示し、「この問題を解決することは非常に難しい」というのが「提言」だと勘違いしている人間もいるが、こんな馬鹿げた話はない。「着物業界は衰退しているので、売上を伸ばすことは非常に難しい」などと、問題に対して何の解決にもならない提言を行ったところで、まったく時間と労力の無駄でしかないのである。いかなる問題にも解決策は必ずある。もちろんそれは「業界から撤退する」「身売りをする」といったことも含めての話だが、解決策のない問題など存在しないのだ。


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