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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON155 日興コーディアルグループの上場維持の正当性はどこにも認められない

2007年3月23日

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日興コーディアルグループ
東証、上場維持を決定 「組織的、意図的とは言えない」
米シティTOB価格1,700円に
みずほ、全保有株売却へ
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12日、東京証券取引所は不正な利益水増しが発覚した
日興コーディアルグループの株式上場を維持すると発表し、


西室社長は「(不正会計は)組織的、意図的とまではいえない」
と述べ、上場廃止基準に該当しないとの見解を示しました。


これを受けて、翌13日、シティグループは、日興コーディアル
グループに対するTOB価格を1株1,350円から1,700円に
引き上げると発表しました。


東証の上場基準に照らしても、同種の事件を起こした
ライブドアが上場廃止になったケースと比べても、
今回の処置には、全く正当な理由を見出すことができません。


西室社長の「組織的、意図的とは言えない」という発言には
全く閉口してしまうばかりです。


その上、上場維持の理由として「疑わしいが、証拠集めには
限界がある」などと言いだす始末です。


そんなことを言うなら、始めから調査などしなければ良いとさえ
思います。


客観的に判断して、日興コーディアルグループが特別目的会社
(SPC)を使って利益だけを水増ししていたのは明らかですし、
その件についてトップマネジメント及び会計事務所の関与も
明白だと思います。


また、元ライブドア社長の堀江氏に有罪判決が下ったことを
利用し、日興の事件には逮捕者が出ていないことを理由に、
ライブドアとは違って上場廃止の基準に抵触しないとするのは、
論理的に飛躍していると言わざるを得ません。


ライブドア、カネボウ、日興コーディアルグループのいずれの
粉飾決算も、会社のトップと会計事務所が関与していたという
本質的な構図は同じです。


全く同じ本質を持つ事件なのに、同じルールが適用されない
のは、大きな問題です。


極めて当たり前のことですが、ルールは1つであるべきです。


また、今回の日興コーディアルの上場維持への方向展開を
見ていると、私たちの関与し得ない何らかの政治的な力なり、
損得勘定なりが裏で働いたのではないかという疑念を持って
しまいます。


シティグループの動きや各種報道からも、途中までは
上場廃止の方向で進んでいたのは間違ないと思いますが、
それが180度の急展開を見せたのは不自然だと感じます。


そういう意味において、今回の処置は納得できないばかりか、
何か後味の悪さを感じてしまいます。



●TOB価格1,700円で、シティグループの意思が明らかになった


日興コーディアルグループの上場維持が決定したことを受けて、
シティグループがTOB価格を1,700円に引き上げる動きを
見せましたが、これによってようやく、シティグループの
意思がはっきりと確信できました。


当初、TOB価格1,350円のときには、TOBそのものが手持ちの
日興株をみずほフィナンシャルグループ(以下、みずほFG)に
売り抜ける呼び水に過ぎないという可能性を
私は想定していました。


おそらく、みずほFGも、この段階ではシティグループの意図が
分からず、同様の不安を抱いていたと思います。


これは仕方のないことです。


過去の日興株の株価推移から見ても、1,350円という価格では
売って儲かる人はほとんどいません。


実際、ファンドは売りに出しませんでした。
その状況の中で、シティグループのTOBを信頼するのは
危険すぎるというものでしょう。


ですが、1,700円というTOB価格は全く別の意味を持ってきます。
つまり、それはシティグループが本気で日興コーディアル
グループを手に入れたいと思っているという明確な意思表示に
なったということです。


※「日興コーディアルグループの株価推移」
「日興コーディアルグループの株価推移」チャート


この状況になれば、シティグループにはみずほFGに持ち株を
売りつけようなどという意思はないと考えて良いでしょう。


東証が日興コーディアルグループの上場維持を発表した
12日時点の終値(1,404円)に対して約21%のプレミアムを
乗せた価格が1,700円ですから、TOB価格としての常識的な
価格とも言えます。


それに、この価格ならば、00年以前の2,000円を超える
価格帯で買った人を除けば、ここ最近5年間で日興株を買った
大抵の人たちは売って利益を得ることができるでしょうから、
TOBに応じる可能性が極めて高いと思います。


おそらく、この価格で決着すると思いますが、
もし1,700円でTOBが成立しないなら、シティグループとしては
2,000円近くまで価格を引き上げてでも、TOBを成立させる
可能性があると私は見ています。


みずほFGとしても、当初は日興コーディアルグループを
手に入れたいと思っていたのでしょうが、


今回のTOB価格1,700円の意思表示でシティグループが
本気であることを悟ったのでしょう。


だから、日興コーディアルグループをシティグループに
譲る代わりに、アメリカにおいての提携関係を強化して、
協力関係を築くという方針へ転換したのだと思います。


シティグループとしても、今回の日興コーディアルグループの
上場維持という事態には驚いたことと思います。


日本を代表する証券取引所が、曖昧模糊とした、非論理的な
理由を盾にして、同じ類の問題に異なるルールを適用する
という暴挙に出たことは、情けない限りです。


金融市場は、今後、一層の改革が求められるでしょう。
東証の将来について、大きな危惧を感じざるを得ません。


                                以上


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