大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON151 私の提言した“新銀行東京”は一体どこに?!

2007年2月23日

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 新銀行東京
 再建計画作りに着手
 08年3月期の黒字化目標を先送り
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●メトロポリタン銀行として始まった、東京都の銀行構想


東京都は中小企業の貸し渋り対策として設立しながら、
経営が悪化している新銀行東京の再建計画作りに
着手を発表しました。


経営陣を刷新し、経営資源を中小向けに特化。
2008年3月期の黒字化目標を1、2年先送りする方向で、
金融支援などを検討するとのこと。


このニュースを見て、私は呆れてモノが言えない何とも
落胆した気持ちと同時に、怒りを感じてしまいました。


そもそも、この新銀行東京設立の言いだしっぺは
私自身でしたから、現在の経営悪化状態について少なからず
複雑な気持ちはありますが、


今の新銀行東京は、私が最初に提言した銀行とは
全く違う形態の銀行になっていますから、
「やっぱりこうなったか・・・」という思いです。


もともとこの銀行の発足は、私が石原都知事に提言した
メトロポリタン銀行という構想から始まりました。


当時、巨大銀行が相次いで破綻していたご時世でしたから、
東京都が数兆円規模の資金を大手銀行に預けているのは
危険だと提言したのです。


そして、その対応策として、メトロポリタン銀行という形で、
東京都自身が新たに銀行を作ることを提案しました。


ただし、私が提案したのは、民業圧迫を避けるために、
他の都銀や信金など民間の銀行に、空いている店番号を
メトロポリタン銀行のバーチャル支店として提供してもらい、


支店を提供した金融機関は、東京都の信用力で集めた顧客に
対しても商売できるというものでした。


皆さんが持っている銀行口座には、口座番号の他に
4桁の数字(銀行コード)と3桁の数字(支店コード)があると
思います。


この3桁の数字が各銀行の支店番号になっていて、
000から999まで理論上は1000支店までつくることが可能です。


しかし、実際には全ての支店番号が使われている訳では
ありません。


そこで、この中の1つの支店番号を「東京都メトロポリタン
銀行用の支店」として割り当ててもらうという方法を
考えたのです。


こうすると、預金者はどんな銀行からでも、
この専用支店を通じて、東京都にお金を預けることや、
東京都への支払いなどの決済ができるという仕組みが
可能になります。


そして、メトロポリタン銀行の重要な役割として、
東京都が都市基盤整備を進めていく上で免税債を発行する際に、
その免税債の信用を補完する機能を担うことだと
私は考えていました。


●政治家とビジネスパーソンの発想は違っても、
 リーダーシップが必要だ。


石原都知事も基本的な構想には大賛成ということで、
さっそくプロジェクトチームを組んで私が指導にあたった
のですが、ここで大きな意見の相違が出てきました。


石原都知事は、他の銀行が貸し渋っているような
中小企業への融資と、ベンチャー企業への投資という2つを
始めたいという意見でした。


政治的なアピールとしては、この2つをぜひ実現したい
というこだわりだったようです。


当時、私は「ビジネスジャパンオープン」という
ベンチャーコンテンスを主催していましたが、


その経験からも、東京都にも大手銀行にも、ベンチャー投資の
目利き力など全くないのは明らかでしたから、大反対しました。


この考えは今でも変わりません。


このとき、一度私はこのプロジェクトから外れましたが、
実はこの後、もう一度石原都知事に提言したことがありました。


それは、日債銀(日本債権信用銀行)が破綻して、
あおぞら銀行になったときです。


このとき、ソフトバンクが株を売却するという動きを
見せていたので、孫会長と話をつけた上で、東京都がこの銀行を
買ったらどうかということを、石原都知事に提言したのです。


しかし、石原都知事は、「一度国民の税金で救った銀行を
東京都が買うように見えるから、議会を説得できない」と
いう理由で受け入れませんでした。


私から言わせれば、実際に売りに出されるのだから、
全く意味のない懸念だと思います。


結局、この段階で、私は完全にこのプロジェクトから
手を引いてしまいました。


中小企業への投資・ベンチャーへの投資を最優先とする
政治的アピールや、議会に対する非論理的な懸念などを
見ていると、石原都知事という政治家とビジネスパーソンの
私の間には、根本的な考え方の違いが存在すると
感じざるを得ません。


石原都知事がビジネスパーソンとしての的確な経営判断が
できるとは思いませんし、それを期待するものでもありません。


しかしながら、結局、自分は金融に明るくないという理由で、
すべてを大塚出納長に任せたままにして、今のような
新銀行東京を作り上げたのは、「人災」と呼べるくらい
重い責任があると私は感じます。


都知事であれば、政治家として、政治の分野として、
アピールしたいことがあるのは当然でしょう。


しかし、自分の専門ではない経済の分野のことであろうが、
リーダーでとして、周りのブレーンを上手に活用し、
自ら的確な判断ができるようにするべきだと私は思います。


                              以上


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