大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON480「銀行検査・大学発ベンチャー・地下鉄新線計画・信用金庫~日本の役人が主導する政策の特徴」

2013年8月23日


 銀行検査 画一的な銀行検査を見なおし

 大学発ベンチャー 536社の67%が売上高1億円届かず

 地下鉄新線計画 開業29年で累積収支黒字の試算

 信用金庫 アジアへの事業展開が急拡大


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 ▼ 今の銀行には、まともな融資判断をするスキルがない

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 金融庁は独自の基準に基づいた画一的な銀行検査を見直す方針を

 明らかにしました。


 1990年代はじめのバブル崩壊後の不良債権処理を目的としてきた

 検査を転換し、融資先が健全かどうかの判断は銀行に大部分を

 ゆだねる方針とのこと。


 銀行がリスクをとりやすくなり、技術力はあるのに決算上は赤字に

 なっている中小・ベンチャー企業がお金を借りやすくなるということ

 ですが、これは全く実現性のない「嘘」だと私は思います。


 なぜなら銀行には「査定」するスキルがないからです。


 バブル崩壊以降、金融庁が作成したマニュアルにのみ

 従ってきた銀行には、「経営者を見て、事業計画を見て」融資を

 判断することができる人は育っていません。


 今、銀行は融資の際、必ず「抵当」を前提とします。


 かつて赤字で苦しんでいた松下幸之助氏に、銀行が

 「経営者としての松下幸之助を見込んで」融資してくれたという

 話は有名ですが、今では無理でしょう。


 金融庁も都合が良すぎる発表をしたものだと思います。


 自ら作成したマニュアルのせいで、融資判断ができない人材を

 育てておいて、今頃になって銀行にまともな融資判断を求めるとは

 支離滅裂です。


 さらに似たような事例を挙げれば、金融庁は3月、

 各財務局の認可を得た信金に対し、取引先企業が海外に作った

 現地法人に直接融資できるという政策を打ち出しています。


 愛知県瀬戸市の瀬戸信金や大阪府八尾市の大阪東信金が認可を得た他、

 およそ20の信金が準備に入ったそうですが、

 これも「本当に大丈夫か?」と疑いたくなります。


 国内で運用先がないからと言って、そのスキルもないのに

 海外直接投資を促すというのは、金融庁による規制緩和によって

 ノンバンクに投資して失敗した住専を思い起こさせます。


 役人が主導することというのは、基本的に同じパターンであり、

 全く進歩が見られません。


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 ▼ 大学発ベンチャーも聞こえはいいが、仕掛けそのものが間違っている

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 日本には、このような役人主導の辻褄の合わない政策が多すぎます。


 帝国データバンクが15日発表した大学発ベンチャー企業の

 2012年の売上高は、約7割は売上高が1億円を下回ったと言います。


 約半数は5000万円未満で、有望技術や特許を強みに設立しても、

 事業が軌道に乗らず苦戦が目立つとのことですが、

 これも日本の大学の先生の実態を知っていれば「当たり前」の結果です。


 小泉元首相が実施した「大学発ベンチャー1000社計画」をピークに、

 東大発バイオベンチャーなどがいくつか出てきた程度で、

 ジリ貧になっています。


 それでも、安倍政権下では、2012年度の補正予算で、

 産学共同研究や大学発ベンチャーへの出資金などの用途1800億円を

 割り当てていますが、この資金はどこに消えていくのでしょうか?


 大学の先生がベンチャーを起業したいなら、

 自由にやるのは良いことです。


 ただし、実行するなら、授業料の3分の1は配当金で賄うくらいの

 気合が必要でしょう。


 スタンフォードやMITとは異なり、日本の大学の先生には

 「起業意欲」そのものが低いと感じます。


 また資金を出すのは国ではなく、高齢者がエンジェル(投資家)に

 なるほうが良いと私は思います。


 そうすることで、高齢者が抱えている預貯金の流動性も

 高くなりますし、意義も大いにあります。


 これも役人主導の「仕掛け」そのものがよろしくない政策の

 代表例だと言えるでしょう。


 さらには、次のような事例もあります。


 東京都江東区は区内を南北に通る豊洲―住吉間の

 地下鉄新線計画について、70円の加算運賃を設定すれば開業から

 29年で累積収支を黒字にできるとの試算をまとめたそうです。


 しかし、これは建設費に国の補助を受けるには30年以内の黒字化が

 義務付けられているため、それに合わせて「29年」と

 言っているだけでしょう。


 実際に黒字になる確率は極めて低いと思います。


 これまでにも、飛行場を始め同じような試算をして建設された多くが

 採算割れしています。


 「基準ありきで、そこに合わせる政策」

 それが日本の役人が主導する政策にはよく見られます。


 結果として、不必要なものまで作ってしまうのです。


 このような事例は枚挙に暇がありません。


 それにも関わらず、その虚像のままを報道している新聞にも大いに

 問題があると私は感じます。


 上手く行っていない施策であれば、それは事実として

 しっかり書くべきです。


 役人が発表するままに報道しているだけでは、

 脳天気に過ぎると言わざるを得ないでしょう。

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