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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON479「東南アジア自動車市場とフォード・モーター~見直されるフォードの経営哲学」

2013年8月16日



 東南アジア自動車 1-6月新車販売台数 182万332台

 国内自動車大手 スズキ インドネシアに乗用車新工場を建設へ

 米フォード・モーター 日本とフォード、スレ違いの歴史


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 ▼ 再び見直されるヘンリー・フォードの経営哲学とは?

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 東南アジア主要6カ国の1~6月の新車販売台数は

 前年同期に比べ15%増の182万332台。


 2013年通年では過去最高だった昨年と同水準となる見込みで、

 日本車のシェアは80%を突破したとのことです。


 日本車(トヨタ)の生産台数の全体で見れば、

 未だに米国が強いですが、タイが大きく伸びて

 2位になっています。


 また中国市場、欧州市場が伸び悩む中、インドネシア市場が

 欧州を抜く日も近いと思います。


 タイ、インドネシアといった東南アジアの持つウエートが

 重要になってきていると言えるでしょう。


 スズキは2014年を目処にインドネシアに乗用車工場を

 新設すると発表しました。


 投資額は約1000億円と言われていますが、

 これも東南アジア重視の流れでしょう。


 現在、インドネシア市場におけるシェアは、

 トヨタ、ダイハツ、三菱、スズキの順ですが、

 今回の投資によってスズキが2位に上がってくると思います。


 日本の自動車メーカーの目が東南アジアへ向き始めている中、

 先日、日経新聞は「日本とフォード、すれ違いの歴史」

 と題する記事を掲載しました。




 最近、日本とフォード・モーターには不協和音が多いとし、

 トヨタ自動車との提携を2年で解消することや、

 TPP交渉への日本の参加を反対していることを紹介。


 フォードのアラン・ムラーリー最高経営責任者(CEO)は、

 トヨタ生産方式を導入するなど親日派で知られることから、

 フォード創業家一族の影響力が働いていると分析しています。


 ちょうどヘンリー・フォード生誕150周年ということもあって、

 米国ではノスタルジックな雰囲気が強くなっています。


 今こそ、ヘンリー・フォードの時代に戻るべきじゃないか、

 という論調が強まっています。


 ヘンリー・フォードはT型フォードを大量生産し、同時に従業員に

 「高賃金」を支払うことを何回も演説したことで有名です。


 従業員が高い給料を手にすれば消費が拡大し、

 国全体が豊かになるという考えでした。


 当時においても、他の搾取的な資本主義者とは違う

 「経営者の鑑」だと言われていました。


 実際、米国の労働分配率を見ると、ヘンリー・フォードの時代から

 悪化の一途を辿っています。


 ヘンリー・フォードの時代には、資本家と労働者の分配率の差は

 今よりも小さかったのですが、両社の格差は段々拡大し、

 現在では資本家に傾いています。


 これは株式市場の優勢により、配当を行い、貯めた資産を海外に移す

 という流れがあり、労働者が重視されていないことが原因です。


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 ▼ デトロイト市の悲惨な状況は他人事ではない

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 フォードと日本の不協和音という意味を考える時には、

 米国の自動車産業の「聖地」とも言える「デトロイト」という

 街のことを念頭に置いておく必要があると思います。


 フォードのアラン・ムラーリー最高経営責任者(CEO)は評判が良く、

 優秀な経営者です。


 そのムラーリー氏が考えていることの1つは、

 「デトロイトを守る」ということです。


 ゆえに、TPPに対する日本の農業のごとく、

 デトロイトを守るために「ハンディキャップ」を獲得しようと

 画策しているのだと思います。


 ご存知の通り、先日デトロイト市は財政破綻しました。


 その結果、今のデトロイト市はどうなっているか?というと、

 1日のうちに十数件の放火や犯罪がある状況です。


 街灯も40%しか行き届いておらず、ますます犯罪が増えるという

 悪循環に陥っています。


 米経済誌フォーブス電子版が今年2月に発表した「惨めな米都市番付」

 でも、暴力犯罪の多さや高い失業率、人口の減少や金融危機の

 影響などにより、デトロイトがワースト1位になっています。


 日本はこれを他人事だと思っている余裕はありません。


 代表的な例を言えば、夕張市です。


 今日、同市の人口は最盛期と比較すると、10分の1以下に減りました。


 夕張市だけでなく、一昔前には「3割自治」と言われた

 日本の地方財政はさらに悪化しており、国の補助がなければ

 「1割自治」のレベルに落ちているところもあります。


 このような地域では、当然のことながら人口は減っていきますし、

 サービスレベルも下がっていきます。


 日本全体の人口が減っていく中、地方のオフィス空室率は

 高まる一方です。


 おそらく、今のままでは存続できない市町村が

 多く出てくると思います。


 デトロイト市の事例が、まさに日本の地方都市の明日の姿に

 なってしまうかも知れません。



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