大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON461「アメリカ・中国・新興国経済~既存情報に工夫を加えて正しく理解する」

2013年4月12日


 米中経済

 上向くアメリカ・中国の景気

 新興国経済

 BRICSから東南アジアへ


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 ▼ 史上最高値と言っても、米国経済は浮かれる余裕はない

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 日経新聞は1日、「上向く米中景気」と題する記事を発表しました。


 これは米国株価指数のダウ工業株30種平均が5年5か月ぶりに

 最高値を付けたことを受けて、ウォルト・ディズニー、IBM、

 マクドナルドなど日本でも有名なグローバル企業が牽引したと紹介。


 また個人消費も勢いをつけているとし、

 課題は雇用回復ペースの遅さと指摘しています。


 一方、中国経済については中国政府が昨年夏以降に行った

 インフラ投資の規制緩和の効果で、景気が底入れしたものの、

 実態は今なお官製経済と分析しています。


 記事で指摘していることはごく当たり前のことばかりですが、

 米国の経済が上向きの兆候を見せており、期待したい気持ちが

 高まっているのでしょう。


 ただ、今回株価が史上最高値をつけたと言って

 過剰に期待しすぎるのもどうかと私は思います。


 確かに史上最高値ではありますが、「株価の伸びている期間」

 で見るとそれほど特別な状況ではありません。


 3月18日号のBloomberg Businessweek誌には

 「かつての景気回復局面での株価の伸び」と題する記事が

 掲載されていました。


 S&P500インデックスの上昇率をみると、今回の景気回復局面では、

 2009年から2013年にかけての約1500日間で129%株価が

 上昇しています。


 ところが、実は歴史的には2000日を超える例もいくつかあり、

 最長期間で言えば1987年から2000年にかけて

 株価が582%上昇しています。


 今の状況に浮かれすぎて良いものか

 私は疑問に感じてしまいます。


 そして最近の米国の悩みは、株式市場の上昇に対して

 景気の高揚感がないということです。


 すなわち、IBM、マクドナルドなど世界に展開して

 勝負している企業は業績が上向き株価が上がっていますが、

 それは国内の景気に反映されていません。


 実際、失業率は未だに7%台を超えており雇用環境が

 改善されたとは言えません。


 株価と実体経済が乖離し始めているのです。


 これが最近の米国経済の特徴であり、

 実は日本も全く同じ状況になっています。


 また中国企業の直近の決算状況を見ると、

 消費財メーカーが厳しい状況に追い込まれています。

 

 太陽電池のサンテックが破綻し、国美電器、李寧、ZTEは

 赤字に転落しました。


 景気の上昇局面では安売りで伸びたものの、

 消費が低迷し値引きした結果、赤字に転落してしまいました。


 これらの企業は高度成長期に固定投資を行い固定費が

 伸びてしまったため、少しでも売上が減ってしまうと

 厳しいのです。


 かつての日本企業は石油ショックなどを経験し、

 必死に固定費を下げて生産性を上げる努力をしました。


 誕生してからずっと高度成長が続いてきたこれらの

 中国企業には、そうした厳しい状況を乗り越えた

 経験がありません。


 内需の陰りが一気に消費財メーカーを直撃し、

 それに耐えうる経験が圧倒的に足りていないのだと思います。



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 ▼ ASEANの好調は、数年前からわかっていたこと

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 日経新聞は1日、「新興国牽引役はBRICSから東南アジアへ」

 と題する記事を掲載しました。


 これはBRICSが高成長を実現し、新興国ブームのきっかけを

 作ったものの、リーマンショック後は南アフリカを除いて

 奮わないと紹介。


 一方、ASEAN各国は消費意欲が旺盛な中間所得層が

 大幅に増えているとし、またASEAN域内で国境を超えた

 生産分業体制が整っているのも魅力と分析しています。


 数年前からASEANのことを指摘していた私に言わせれば、

 「何を今さら」という気持ちです。


 インドネシアの有望さなど、

 何年も前からわかっていたことです。


 BRICSと東南アジア主要国のGDP成長率の推移を見ても、

 右肩下がりのBRICSに対して東南アジア諸国は

 好調を維持しているのがわかります。


 フィリピンは史上最高値、インドネシアも6%台の成長を

 続けています。


 洪水に見舞われたタイも頑張っていますし、

 マレーシアも堅調です。


 ASEAN諸国の特徴としては、中国と直接ぶつかることなく、

 補完関係にある国も多いということだと思います。


 対中貿易がプラスの国も多いのです。


 ゆえに中国に目をつけられることもなく、

 強かに生き残っています。


 ASEAN諸国の好調さは、

 ごく当たり前のことだと私は思っています。

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