大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON457「中小企業支援と産業競争力会議~既存の枠にとらわれない発想の重要性」

2013年3月15日


 中小企業支援

 中小企業金融円滑化法 再延長せず

 産業競争力会議

 産業の新陳代謝へ議論


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 ▼ 新たな受け皿は、サラ金業者

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 政府・与党は7日、3月末で期限切れとなる中小企業金融円滑化法を

 再延長しないことを決めました。


 中小企業団体などはさらなる延長を求めていましたが、

 安倍政権は再延長せず、中小企業の経営支援強化に

 軸足を移す考えとのことです。


 連立を組んでいる公明党は反対だったにも関わらず、

 自民党が「再延長しない」という決断をしたのは

 評価できると思います。


 しかし残念ながら、本質的な問題は何一つ解決されていません。


 数十万社ある中小企業金融円滑化法(モラトリアム法)適用企業

 の中で、経営状態が特に危険視されている企業は5万社~6万社あると

 言われています。


 現在の倒産件数の推移を見ると、40件/月というペースですから、

 モラトリアム法を再延長しない場合、倒産件数は

 一気に増加することが予想されます。


 このとき厳しい状況に追い込まれるのは、信用金庫や信用組合です。


 不良債権比率を見ると、1%~2%の都市銀行に対して、

 信用金庫や信用組合は5%~8%もあります。


 おそらく4月以降になると10%を超えてくると思います。


 今金融庁が密かに考えていることは、この銀行が抱える不良債権を

 別のどこかへ「飛ばして」しまうことだと思います。


 まさに住専の時と同じ対応です。


 また、資金繰りに窮した中小企業の消費者金融「サラ金」への

 需要も高まると言われています。


 法律改正によって景気が悪い消費者金融業界が、

 モラトリアム法の終了後、一気に活性化する見込みです。


 今、関連企業の株価が上昇している理由です。


 モラトリアム法の期限が切れると、参議院選挙前に一気に

 倒産企業が増加すると言われていましたが、これによって「徐々に」

 倒産企業が増えるという流れになると思います。


 このような対応をしたところで、結局のところ100兆円規模のお金を

 正常化するためには、住専の対応と同様に最低でも

 10年近い年月が必要となります。


 倒産企業数が5万社~6万社と想定される一方、

 日本では新しい企業や産業が出てきてないことが、

 根本的な問題として非常に重要だと私は思います。


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 ▼ 新しい産業を起こすためには、規制撤廃と失業の山が前提

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 政府の産業競争力会議は6日、産業の新陳代謝を促し、

 成長産業に人材を移す対策の議論を始めました。


 民間議員が解雇ルールを法律で明確にするよう求めたのに対し、

 田村厚生労働相は、日本は解雇が容易な米国と雇用形態が異なるなど

 として慎重な姿勢を示したとのことです。


 産業競争力会議は、起業家、経営者、学者など

 あまりに発想が異なる人が集まっているので意見がまとまるとは

 考えられません。


 そして、自民党や役人の多くは基本的にTPPですら拒否する姿勢を

 示していますから、本気で「競争力のある産業を作ろう」と

 固く決意している人はいないのだと思います。


 私としては、なぜ三木谷氏や新浪氏が協力しているのかと、

 疑問に感じてしまいます。


 政治家や役人が、競争力のある新しい産業を

 作ろうとしないのは当然なのです。


 というのは、新しい産業を起こすためには「規制撤廃」が

 必須だからです。


 悩ましいことに「規制撤廃」をすると、それまで規制に

 守られていた産業は確実に潰れます。


 すなわち、新しい産業が生まれる前に、

 大量の失業が発生します。


 その後、10年~15年経って、ようやく新しい産業が

 根付いてくるのです。


 今でこそ米国レーガン元大統領は偉大な大統領と言われていますが、

 その評価を受けたのは、通信・金融・航空・運輸などの産業において

 規制撤廃を行い失業の山を生み出した当時から約15年経ってからでした。


 日本に目を向けてみて、15年後の将来のために今目の前で

 失業者が溢れるような施策を、政治家や役人が選択できるでしょうか?


 産業競争力会議のメンバーに、それほど時間軸に対して

 許容力のある人はどれほどいるでしょうか?


 「規制撤廃をするなら、まず先に失業の手当てが必要」

 などと考えていては、絶対に上手くいかないでしょう。


 むしろ若者に自由を与えて、取り締まるのを控えるくらいが

 丁度良いと私は思います。


 理想を言えば、そのような状況になって、

 かつてのスティーブ・ジョブズのような人材が

 生まれてくれれば最高です。


 しかし今の日本の状況を見ると、規制撤廃を敢行し

 新しい産業を生み出すのは、まず不可能です。


 ゆえに以前から私は別の方法で景気を回復することを

 提唱しているのです。


 それが「心理経済学」です。


 新しい産業を生み出せないなら、今ある1500兆円の

 個人金融資産が市場に流れてくるような方法を考えるべきでしょう。

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