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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON147 本来の目的を見失い、法整備を進める政治家・役人

2007年1月26日

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 ホワイトカラー・エグゼンプションは見送りへ
 教育改革 優良教員に「能力給」提言
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●リーダーシップなき首相。
 本来の目的を見失い、法整備を進める政治家・役人。


16日、安倍首相は、いわゆる
「日本版ホワイトカラー・エグゼンプション」を導入する
ための労働基準法改正案について、「現段階で国民の理解が
得られているとは思わない」と述べ、通常国会への提出を
見送ることになりました。


ホワイトカラー・エグゼンプションが見送られることには
反対ではありませんが、今回の安倍首相の対応という
意味では、閉口するばかりといったところです。


「国民の理解が得られないから見送る」・・・それが
一国のリーダーたる首相の発言でしょうか。


そもそもリーダーとは、国民の理解が得られないようなことに
ついて、国民を説得して正しい道を示していくものでしょう。


リーダーシップを発揮できず、どうしても国民の理解が
必要だというなら、全てのことについて、1つ1つ国民に
お伺いを立てればいいでしょう、と皮肉の1つも
言いたくなります。


そもそも、今回のホワイトカラー・エグゼンプションは、
役人が業界へ恩を売るために発想したという点が間違いの
根源だと私は思っています。


そして、目先の参院選を気にする政治家が大衆迎合を図り、
結局、腰砕け施策になるというのは、お決まりのパターンです。


ただ、このような政治家・役人の思惑は別として、
ホワイトカラー・エグゼンプションという制度そのものを
正当に評価してみても、私は必要のない制度だと思います。


なぜなら、このようなことは法律で決めるべきではないと
思うからです。


もちろん、自由裁量権のない人たち(ブルーカラーの人、
ブルーカラー系ホワイトカラーの人)に対しては
労働者保護の立場から法律で保護すべきと思います。


しかし、それ以外のいわゆるホワイトカラーの人について
考えると、残業代や労働時間というのはあくまでも
個人と会社の契約を重視すべきだと思います。


もし、契約内容に満足がいかない、あるいは契約不履行などが
あるなら、個人は会社を辞めればいいのですから。


個人にも会社を辞める自由があることを忘れてはいけない
でしょう。


日本版401kなど、個人個人が責任を負って契約する制度も
増えいく流れを考えれば、なおさらだと思います。


場当たり的に個別の問題に対応するだけでなく、
「ホワイトカラーの人たちとはどうあるべきなのか?」という
方向性や目的をしっかりと見据えていれば、
今さらホワイトカラーの人たちの残業代を法律で規定する
ということにはならないはずだと、私は思います。


●教育のあるべき姿を、ダニエル・ピンク氏の子供に見た・・・


21日、教育再生会議の1次報告案では、次のような教員の質
向上施策がまとまられました。


・校長らによる教員評価に保護者や生徒の評価を加える
・優良教員は給与を引き上げ
・指導力不足教員には研修をし、改善されなければ
 免許状を返還させる
・新任教員は1年間の試用期間終了後に適格性を厳格に判断
・教員免許は10年で更新。30時間の講習も義務付け


これらを見ていると「目的や方向性」だけでなく、
「問題解決」のための基本的なスキルさえ欠けている議論を
していると感じます。


なぜなら、これらの施策は、「見えている現象に対して、
さかさまの提言をしているだけ」だからです。


つまり、今ある問題点についてどのように対処したら良いのか?
という点しか見ておらず、根本的な原因についての分析が
欠けています。


これは問題解決における典型的な失敗パターンです。
35年間、コンサルタントとして問題解決に携わってきた
経験からも、これでは問題は解決できないと強く感じます。


「なぜ、いじめがなくならないのか?」
「なぜ、先生は能力がないのか?」このような真因を
明確にすることが問題解決の基本です。


そして、次に「目的・理想」を明確にします。
「教育を通じて、どういう人間に育ってもらいたいのか?」
「教育を通じて、何を達成したいのか?」これらを考えることで
初めて具体的な教育プログラムが考案されてくるものだと
私は思います。


先日、私が著書を翻訳したダニエル・ピンク氏と対談する
機会があり、彼の子供の学校の話を聞いていて、
やはり日本は遅れていると感じざるを得ませんでした。


ピンク氏は、今年の4月~5月にかけて2ヶ月の間日本に
滞在する予定ですが、子供も学校を休んで日本に来るとの
ことです。


ただし、単に遊びに来るわけではありません。
しっかりと事前に学校に2ヶ月の日本滞在で学びたいことなどの
プログラムを提出しているといいます。


その上で学校側はカリキュラムの遅れよりも、
2ヶ月の日本滞在は貴重な体験として子供の教育になると
判断してくれているわけです。


さらに、この話にはおまけがあります。
ピンク氏の子供は毎週ブログを書いていて、日本で勉強した
ことなどをクラスメートに報告するというのです。


その結果、クラスメートたちもそのブログを見ることで、
日本の勉強になるのです。


写真や動画でクラスメートの実体験を通して語られるのです
から、学習効果が高いのはいうまでもないでしょう。


だから、この2ヶ月の日本滞在は、ピンク氏の子供だけでなく、
クラスメートの子供たちの教育にとっても得になるという
構図になっているのです。


学校のカリキュラムに縛られて、文科省の指導要領だけを
頼りに教育をするようでは、このような発想は
出てこないでしょう。


しかし、これが教育の自然な姿であり、目指すべき姿だと
思います。


今回のホワイトカラー・エグゼンプションにしても、
教育再生会議の議論にしても、いかに物事の本質を見抜く
基本的なスキルさえ備わっていない日本人が多いことかと
危惧してしまいます。


教育再生会議で教員の質を高める議論をする前に、
国民全体の教育を考えるべきですし、自分たち自身の
スキルアップも図ってもらいたいものだと思います。


                               以上


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