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〔大前研一「ニュースの視点」〕#107 USENがライブドア支援へ~疑問が残る株取得とシナジー効果の誤算

2006年3月31日

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 USENがライブドア支援へ~疑問が残る株取得とシナジー効果の誤算


 USENは16日、ライブドアを経営支援すると発表した。宇野社長
 が個人で、フジテレビジョンの保有するライブドアの全株式
 12.75%をおよそ95億円で買い取り、ライブドア前社長の
 堀江被告に次ぐ第2位の株主となる。


 宇野社長は記者会見で「現時点でこの株をUSENに移すことは
 考えていない」としているが、宇野社長個人のライブドア株
 取得にはさまざまな問題がある。
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●社長個人の株取得で浮上するガバナンス問題


USENの宇野社長がフジテレビから取得した株について、
17日付けの日本経済新聞には「ライブドアの資産査定後にUSEN
に売却」と書いてありました。


資産査定後に売却することが前提で、宇野社長が株取得で絶対
に儲かることはないと第三者が保証すれば、この話は問題
ありません。


ところが、記者会見で宇野社長は「現時点では決定していない」
と言っています。将来的にUSENへ売却する意志がなければ、
この取り引きはできないはずなのです。


今回の発表で一番欠落しているのは、いわゆるガバナンス
(企業統治)の問題です。宇野社長がライブドアの株を手に
入れ、その後USENがライブドアと提携する。


その結果、ライブドア株の価値が上がれば宇野社長が個人的に
儲かることになります。USENの株主にしてみれば、その利益は
USENのものになるべきであって社長のものではないということ
になり、株主代表訴訟を起こされる可能性も出てきます。


またこの意志決定がどういう形でなされたかという点も問題
です。仮にUSENがライブドアと業務提携すると先に決めていた
とします。その決定がなされた取締役会で宇野社長がこの情報
を知ってライブドア株を買ったとすると、これはインサイダー
情報になります。


また逆に宇野社長がライブドア株を買っていることを知って
USENがライブドアの経営支援を決定したのであれば、宇野社長
への利益提供になるのです。


ですから、これはどこの新聞も書いていませんが、私はこの
会社の取締役会および監査役たち、そしてそのガバナンス
というものが機能しているのか疑問に思います。


今回はフジテレビの日枝会長とUSENの宇野社長のミーティング
があってすぐに記者会見があり、業務提携の発表がありました。
本来ですと、宇野社長は特別利害関係者ですから、この意志
決定の席には加われないはずなのです。


私はソフトバンクの社外重役を務めたことがありますが、
ソフトバンクもこの種の検討課題がたくさんありました。


私はこういう時は「ここから先は社長は退席してください」
というふうにして、議事がなかなか進まないくらい極めて厳格
にやるようにしていました。


しかし今回の成り行きを見ていると、まだまだ問題とすべき点
が多いようです。東京証券取引所もこの話を一時ストップし、
審査をする方向に持って行くべきだったのではないかと
思います。



●ライブドアのポータルサイトはUSENにとって本当に有効か?


USENの宇野康秀社長は大阪有線放送社を創業した宇野元忠氏の
次男で、USENの社長になる前にはインテリジェンスという
人材派遣の会社を立ち上げて上場まで持っていったように、
経営者としては非常にしっかりした人です。


有線放送というのは売り上げが落ちてきましたが、カラオケや
光ファイバーサービスで利益を上げ、そしてGyaOのような
無料動画配信でも話題となってきました。


今回の記者会見の前日、ライブドアの支援先としてUSENの名前
が挙がったとき、私はやり手の宇野社長のことですから、この
話題性だけを利用しようとしているのではないかと思いました。


自分が有名になってマスコミがたくさん取り上げればGyaOには
人が集まる。それで目的は達成されたわけで、実際に
ライブドア株を取得する必要はないと思ったのです。


ところが宇野社長は本当に買ってしまいました。これはUSENに
とって経営戦略的には何の意味もないでしょう。


この提携でライブドアのポータルサイトと、USENのGyaOに代表
されるコンテンツ事業との相乗効果を狙ったということですが、
ピーク時に1300万人いたライブドアのポータルサイトの会員は
使用料を払っていたわけではなく、ただ登録して見に来て
いただけです。


例えばAOLのように月間の使用料を取るなどのお金のやりとりが
あって、会員のサイフを握っているところとは違って、魅力が
なくなれば来る人はいなくなってしまいます。


それに今はすでにUSENのGyaOのほうがライブドアのサイト
よりも実力は上だと思いますので、両社が提携したところで
USENのメリットはあまりないでしょう。


またUSENがこれからやろうとしている映像配信という領域は
これから修羅場になります。今回USENはフジテレビとの提携で
フジテレビの番組をUSENの動画配信サービスで流すということ
ですが、フジテレビにしてみればUSENだけに番組を提供する
わけにいかず、今後はほかのポータルサイトにも流すでしょう。


USENも他のテレビ会社からも番組を取ってくることになるはず
です。ですから今の放送とインターネットの状況では、この
提携というのは無意味なことなのです。


今回、ポータルサイトとの相乗効果を狙ったUSENですが、提携
の相手はライブドアよりいいところはなかったのか、また
業務提携であればUSENがライブドアの株を持つ必要はなかった
のではないかという点は一考を要するでしょう。


それから今後この業界をリードしていくには特に
インターネットの動画配信、放送局とインターネット・
ポータルサイトとの関係をもっと理解していくことが必要だ
と思います。


                       -以上-


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