大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON419 「無借金経営とJAL再上場 ~企業の成長を考える」

2012年6月22日

 上場企業
 実質無借金の上場企業1681社
 日本航空
 9月中旬に株式再上場へ


 -------------------------------------------------------------
 ▼ 日本国内への利益還元は減っていく
 -------------------------------------------------------------
 
 日本経済新聞社の調べによると、上場企業の半数が2011年度末で無借金
 となり、社数、比率がともに2年連続で過去最高となったことが
 明らかになりました。


 かつての日本企業は「借金をすること」で同時に成長をしていく、
 という方法を採っていました。企業そのものの成長機会がなくなれば、
 借金をする必要もなくなり、無借金となったということでしょう。


 また、日本企業の株主資本配当率が伸びてきている点にも注目です。


 銀行金利が1%台であるのに対して、株主資本配当率は2%台に達して
 いますから、銀行に預けるよりも株を保有していた方が得という状態です。


 米国企業の株主資本配当率4%台に比べれば、まだまだ数字は低い水準
 であり、今後の伸びに期待したいところです。


 2012年1月経産省が調べたところによると、海外利益の国内還元方針の
 調査結果として次のようなことが判明しています。


 すなわち、これまで大企業の56.6%は「海外利益の国内還元を優先」
 としてきましたが、今後も国内優先としている企業は42.9%に
 減少しています。


 逆に「海外再投資優先」とする企業が16.2%から31.8%へ上昇しています。


 中小企業においてはこれまでと同様、約60%が国内還元を優先するという
 立場に変わりありませんが、大企業の方針は大きく変化しています。


 海外の利益は海外においてそのまま再投資するということになるので、
 日本へ資金が還流してくることは少なくなります。


 日本経済としてはこの点に留意するべきだと思います。


 -------------------------------------------------------------
 ▼ 上場にあたっては成長シナリオを見よ
 -------------------------------------------------------------


 日本航空は9月中旬に株式を再上場する方針を固めました。


 2010年1月の会社更生法適用申請から、約2年8カ月で株式市場に
 スピード復帰するとのことです。


 日本航空の上場時の時価総額は6000億~7000億円となる見通しで、
 官民ファンドの企業再生支援機構が日航に出資した約3500億円の公的資金の
 価値が約2倍になる計算だと、新聞は書き立てています。


 「国が関与した破綻企業再生での資金回収としては最高額」だという
 のですが、私に言わせれば、何を脳天気なことを記事にしているのか、
 と思います。


 というのは、今回の上場にあたって
 「日本航空としての今後の成長シナリオ」が未だに明確に
 示されていないからです。


 日本航空は稲盛氏の経営改革により、確かに現時点でピカピカの
 経営状態になりました。


 稲盛氏の経営手腕は、実に見事で素晴らしい成果を残したと思います。


 日本航空の総事業収益とコスト構造を比較してみると、2008年から
 2011年にかけて事業費は約1兆7000億円から約8500億円へ半減しています。


 これに伴い販管費も半減(約3000億円から約1500億円)し、
 営業損益は約500億円の赤字から約2000億円の黒字へ転換しています。


 リストラを実施して、路線を減らし、徹底的にコストを削減して、
 これまでの無駄を省き、「事業そのものを縮小すること」で利益が出る
 体制を作り上げたのが、今の日本航空の状態です。


 そして、現在ここまで利益が出ているのは、資産価値の見直しや特例に
 よる減価償却の減少、法人税の支払い不要など、会社更生法適用の影響も
 否めないでしょう。


 広告宣伝費なども勝手に話題になっていたために
 自然と圧縮されていたものと思います。


 しかし今後、稲盛改革に続く「成長シナリオ」という観点で見ると、
 課題が見えてきます。


 上場するからには「成長シナリオ」を示す必要が出てきます。


 ところが、全日空と日本航空の旅客数の推移を見ると、2009年半ばに
 逆転されたまま日本航空の旅客数は減少しています。


 事業を縮小していたのですから当然のことなのですが、「成長シナリオ」
 を描かなくてはならないとすれば、「このまま」では許されないでしょう。


 成長するという点で言えば、「残った路線で便数を増やす」もしくは
 「もう1度路線を増やす」という方法しかありません。


 残った路線で便数を増やすと、安売りしない限り難しいでしょうから、
 結果としてコストの増加が予想されます。


 そうするとせっかく稲盛改革でコストを削減したのに、
 再びコスト増による赤字転落に陥る可能性が極めて高いと思います。


 では路線を増やす方法はどうかというと、実際日本航空は今年の4月、
 成田-米ボストン線を開設し、最新鋭中型機のボーイング787を就航させています。


 私も学生時代、散々ボストンへ行っていた身ですから直行便ができたのは
 嬉しい限りですが、現実的にこの便が採算に合うかと言えば難しいと思います。


 というのは、HISなどを探せばニューヨークなら時期や条件にもよりますが、
 5万円程度の往復便を見つけることもできるからです。


 そして、ニューヨークからボストンなら1万円くらいの金額で移動できる
 こともあります。


 このような現状で、日本航空のボストン便に「正規料金」を支払って
 利用する人はどのくらい居るでしょうか?


 また自社でも格安航空会社(LCC)に参入しているわけですから、
 競合する路線もでてくるでしょう。


 こうした状況を踏まえると、日本航空は「今が最も良い状態」だと言えます。


 稲盛氏の経営改革の成果は、「本当に素晴らしい」の一言です。
 100点満点を超える結果だと思います。


 しかし、上場となれば今後の「成長シナリオ」が描けるのか?という点が重要です。
 
 残念ながら現時点で日本航空の今後の「成長シナリオ」は示されていません。


 それを考慮せずに、「上場すれば資金が2倍回収できる」などと報じているのは、
 あまりにも脳天気に過ぎると私は思います。



問題解決力トレーニングプログラム

問題解決力トレーニングプログラム

大前研一 ニュースの視点 Blogトップへ

  • メルマガ

    ニュースの視点メルマガ登録

最近の投稿記事

ニュースの視点メルマガ登録

ブログの更新情報

バックナンバー

  • facebook
  • twitter

各種ソーシャルメディアで様々な情報をお届けしております。

大前研一 ニュースの視点