スペイン中央銀行 オルドネス総裁が辞任へ
アイルランド財政 EU財政協定を可決
ユーロ圏経済 ユーロ圏の運命、ドイツが救うか崩壊か
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▼ スペイン、ギリシャ、アイルランド。各国の状況は?
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スペイン中央銀行は、10日オルドネス総裁が辞任すると発表しました。
辞任理由について触れていませんが、スペイン政界では銀行部門の
財務悪化の責任を問う声が強まっていました。
これを受けて、任期より約1カ月早い退任となった模様です。
今月中旬に予定されている20カ国・地域(G20)首脳会議までの数週間、
スペイン経済にとっては正念場といったところでしょう。
スペインは欧州第4の経済大国ですから、万一破綻という状況になれば
ギリシャとは比べ物にならない影響が考えられます。
今スペインの失業率は全体で約25%、若者に限ると約50%という高水準です。
こうした状況に鑑みると、スペインの破綻は経済問題だけに留まらず、
治安の問題に発展する可能性も高いと思います。
ギリシャのようにEUが頑張って支援をすれば、欧州中央銀行(ECB)が
救済に乗り出せば、何とかなるというレベルではありません。
G20で何らかの解決策が見いだせれば良いですが、もしそうでなければ
スペイン経済は相当ひどい状況に追い込まれてしまうと思います。
これからの数週間は、特に目が離せません。
ユーロからの離脱が秒読みと言われているギリシャですが、ユーロから
離脱し、以前の通貨であるドラクマに戻ることで、今よりも貿易収支は
良くなるのでは?という意見があります。
財源が乏しくなるため輸入が大幅に減少し、現在の輸入超過状態
(輸出:265億ドル、輸入:593億ドル)が改善するというものです。
また、通貨安となるため観光を含むサービス収支は増加すると
予測されています。
皮肉なことですが、経済的に貧しい頃のギリシャに戻った方が
良いということでしょう。
しかし一方で、大卒者レベルの人の53%が
「国を出ていきたい(移民したい)」と考えていて、すでに17%の人は
その準備を終えているという統計もあります。
ギリシャという国に残って何とか貢献したいという人は、わずか14%しか
いないということです。
もしこの通りになったら、ギリシャ国内に残るのは高齢者や年金受給者
ばかりになってしまいますから、この点で見ると非常に厳しい将来だと
言わざるを得ません。
またギリシャ、スペインに先んじてすでに経済破綻したアイルランドでは、
1日、財政規律を強める欧州連合(EU)の新条約「財政協定」への参加の
是非を問う国民投票の集計作業が終わり、賛成が60.3%で批准が
決定しました。
EUなどの支援が受け続けられる道筋がついたとのことです。
アイルランドは他国よりも先に経済破綻したため、一足早く救済を
受けることができたのは幸運だったと言えるでしょう。
加えて、今回の国民投票の結果に表れた「アイルランド国民の意識」は
評価に値すると思います。
EUの新条約「財政協定」は「財政赤字をGDPの0.5%以内にする」という
相当に厳しい条件を提示しています。
しかしそれを承諾しなければ援助を受けることはできません。
これを国民の約6割が受け入れたのです。
EU加盟国の中でも、アイルランドは
「EUに加盟したメリットが最も大きかった国」と言われています。
おそらく国民もその恩恵を感じているのでしょう。
アイルランドは「財政赤字をGDPの0.5%以内にする」という条件を
「憲法」に定めることになりました。
この厳しい状況を乗り越えようという国民の覚悟も見て取れます。
実際にこのルールを守れるのかどうかは分かりませんが、
ギリシャやスペインよりもはるかに物分かりが良く、
当面支援を受けられるようになったのは大きいと思います。
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▼ ユーロの通貨統合は失敗だったのか?何が問題だったのか?
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結局、ユーロの通貨統合は失敗だったのか?という議論が活発になりつつ
ありますが、私は「政治統合していなかった」ということが最大の問題
だったと感じています。
通貨統合だけを焦って進めてしまったため、ユーロから離脱する
ルールさえ定めないままに現在に至っています。
そして今、ギリシャが離脱寸前の状況になり、慌てて走りながら
考えているという状況です。
ユーロ加盟国は、マーストリヒト条約に定められた条件
(財政赤字はGDPの3%以内、累積赤字はGDPの30%以内など)を守らなくては
ならないわけですが、現実的にはほとんどの国がルール違反をしています。
これは「政治統合」をしていなかったことが大きな原因です。
もう少し具体的に言えば、政治統合をしていないために、各国が
1.自由に国家予算を立てられること
2.自由に国債を発行できること
この2点が根本的な問題だと私は考えています。
これらを制限すること、すなわち、予算をユーロ全体で承認するようにして、
各国での国債発行を禁止し、ユーロ債のみの発行とすれば、
状況はかなり改善されるはずです。
実際、フランスのオランド大統領はユーロ債の提案をしています
(しかし、現時点ではドイツが反対しています)。
今のまま、走りながら考えて対処するという方法でも、もしかしたら上手く
事が運ぶかも知れませんが、ドイツが救済に反対し、一気にユーロ崩壊に
向かう可能性も十分に残されていると思います。
また、スペインがユーロから離脱した時には、スペイン経済は一度地獄を
見ることになるでしょう。
すべての人にとって、相当厳しい状況が予想されます。
ただし、一方的に悲観する必要もないと思います。
歴史を振り返れば、「金本位制の廃止」「ニクソン・ショック」など、
幾つもの経済的なショックを克服してきました。
ショックは必ず克服できますから、あまり恐れないことです。
「何が上手く機能しなかったのか」「どこが悪かったのか」ということは
明白になってきています。
欧州の指導者に、この点に目を向けて議論する「冷静さ」が残っていれば、
この危機も乗り越えられるのではないかと私は見ています。