大前研一「ニュースの視点」Blog

〔大前研一「ニュースの視点」〕KON417「スペイン・アイルランドと欧州財政 ~ユーロの本質を考える」

2012年6月8日

 スペイン中央銀行 オルドネス総裁が辞任へ
 アイルランド財政 EU財政協定を可決
 ユーロ圏経済 ユーロ圏の運命、ドイツが救うか崩壊か


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 ▼ スペイン、ギリシャ、アイルランド。各国の状況は?
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 スペイン中央銀行は、10日オルドネス総裁が辞任すると発表しました。
 
 辞任理由について触れていませんが、スペイン政界では銀行部門の
 財務悪化の責任を問う声が強まっていました。


 これを受けて、任期より約1カ月早い退任となった模様です。


 今月中旬に予定されている20カ国・地域(G20)首脳会議までの数週間、
 スペイン経済にとっては正念場といったところでしょう。


 スペインは欧州第4の経済大国ですから、万一破綻という状況になれば
 ギリシャとは比べ物にならない影響が考えられます。


 今スペインの失業率は全体で約25%、若者に限ると約50%という高水準です。
 
 こうした状況に鑑みると、スペインの破綻は経済問題だけに留まらず、
 治安の問題に発展する可能性も高いと思います。


 ギリシャのようにEUが頑張って支援をすれば、欧州中央銀行(ECB)が
 救済に乗り出せば、何とかなるというレベルではありません。


 G20で何らかの解決策が見いだせれば良いですが、もしそうでなければ
 スペイン経済は相当ひどい状況に追い込まれてしまうと思います。


 これからの数週間は、特に目が離せません。


 ユーロからの離脱が秒読みと言われているギリシャですが、ユーロから
 離脱し、以前の通貨であるドラクマに戻ることで、今よりも貿易収支は
 良くなるのでは?という意見があります。


 財源が乏しくなるため輸入が大幅に減少し、現在の輸入超過状態
 (輸出:265億ドル、輸入:593億ドル)が改善するというものです。


 また、通貨安となるため観光を含むサービス収支は増加すると
 予測されています。


 皮肉なことですが、経済的に貧しい頃のギリシャに戻った方が
 良いということでしょう。


 しかし一方で、大卒者レベルの人の53%が
 「国を出ていきたい(移民したい)」と考えていて、すでに17%の人は
 その準備を終えているという統計もあります。


 ギリシャという国に残って何とか貢献したいという人は、わずか14%しか
 いないということです。


 もしこの通りになったら、ギリシャ国内に残るのは高齢者や年金受給者
 ばかりになってしまいますから、この点で見ると非常に厳しい将来だと
 言わざるを得ません。


 またギリシャ、スペインに先んじてすでに経済破綻したアイルランドでは、
 1日、財政規律を強める欧州連合(EU)の新条約「財政協定」への参加の
 是非を問う国民投票の集計作業が終わり、賛成が60.3%で批准が
 決定しました。


 EUなどの支援が受け続けられる道筋がついたとのことです。


 アイルランドは他国よりも先に経済破綻したため、一足早く救済を
 受けることができたのは幸運だったと言えるでしょう。
 
 加えて、今回の国民投票の結果に表れた「アイルランド国民の意識」は
 評価に値すると思います。


 EUの新条約「財政協定」は「財政赤字をGDPの0.5%以内にする」という
 相当に厳しい条件を提示しています。


 しかしそれを承諾しなければ援助を受けることはできません。
 これを国民の約6割が受け入れたのです。


 EU加盟国の中でも、アイルランドは
 「EUに加盟したメリットが最も大きかった国」と言われています。


 おそらく国民もその恩恵を感じているのでしょう。


 アイルランドは「財政赤字をGDPの0.5%以内にする」という条件を
 「憲法」に定めることになりました。


 この厳しい状況を乗り越えようという国民の覚悟も見て取れます。
 
 実際にこのルールを守れるのかどうかは分かりませんが、
 ギリシャやスペインよりもはるかに物分かりが良く、
 当面支援を受けられるようになったのは大きいと思います。


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 ▼ ユーロの通貨統合は失敗だったのか?何が問題だったのか?
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 結局、ユーロの通貨統合は失敗だったのか?という議論が活発になりつつ
 ありますが、私は「政治統合していなかった」ということが最大の問題
 だったと感じています。


 通貨統合だけを焦って進めてしまったため、ユーロから離脱する
 ルールさえ定めないままに現在に至っています。


 そして今、ギリシャが離脱寸前の状況になり、慌てて走りながら
 考えているという状況です。


 ユーロ加盟国は、マーストリヒト条約に定められた条件
 (財政赤字はGDPの3%以内、累積赤字はGDPの30%以内など)を守らなくては
 ならないわけですが、現実的にはほとんどの国がルール違反をしています。


 これは「政治統合」をしていなかったことが大きな原因です。


 もう少し具体的に言えば、政治統合をしていないために、各国が


 1.自由に国家予算を立てられること
 2.自由に国債を発行できること


 この2点が根本的な問題だと私は考えています。


 これらを制限すること、すなわち、予算をユーロ全体で承認するようにして、
 各国での国債発行を禁止し、ユーロ債のみの発行とすれば、
 状況はかなり改善されるはずです。


 実際、フランスのオランド大統領はユーロ債の提案をしています
 (しかし、現時点ではドイツが反対しています)。


 今のまま、走りながら考えて対処するという方法でも、もしかしたら上手く
 事が運ぶかも知れませんが、ドイツが救済に反対し、一気にユーロ崩壊に
 向かう可能性も十分に残されていると思います。


 また、スペインがユーロから離脱した時には、スペイン経済は一度地獄を
 見ることになるでしょう。


 すべての人にとって、相当厳しい状況が予想されます。


 ただし、一方的に悲観する必要もないと思います。


 歴史を振り返れば、「金本位制の廃止」「ニクソン・ショック」など、
 幾つもの経済的なショックを克服してきました。


 ショックは必ず克服できますから、あまり恐れないことです。


 「何が上手く機能しなかったのか」「どこが悪かったのか」ということは
 明白になってきています。


 欧州の指導者に、この点に目を向けて議論する「冷静さ」が残っていれば、
 この危機も乗り越えられるのではないかと私は見ています。


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