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〔大前研一「ニュースの視点」〕KON416「原発再稼働問題と生活保護 ~迷走の原因を考える」

2012年6月1日

 原発再稼働問題
 期間限定稼働の再考を要請
 生活保護制度
 生活保護費を適正化方針


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 ▼ 約1ヶ月、日本が無政府状態だったという事実に目を向けよ
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 関西電力大飯原発3、4号機を夏の電力需要のピーク時に限って再稼働
 させる案について、藤村修官房長官が「念頭にない」と否定したことを
 受けて、大阪市の橋下徹市長は21日、政府に再考を求めました。
 
 橋下市長が言う「3ヶ月限定」という提案に対しては、私も政府と同様、
 賛成できません。


 1つには原子炉の安全性の観点からすると、飛行機が離陸時と着陸時に
 最も危険が高いのと同様、原子炉のリスクが高くなるのは始動と停止の
 タイミングだからです。


 一度稼働して定常状態になればそれほどリスクは高くありません。
 
 またもう1つには、再び福島第一原発を襲ったレベルの津波や地震が
 来た場合に対処できるのかというと、大飯原発の3、4号機に関して
 言えば問題ないからです。


 これは私自身も証明していますし、この点については橋下市長も
 他の専門家の話も聞いた上で、安全性を認めています。


 万一の際、「橋下ブラックアウト」と呼ばれてしまうのを嫌い、
 「3ヶ月限定の再稼働を」という姿勢には賛成できませんが、
 今の政府が原発再稼働をさせるには信用出来ないという点では
 私も橋下市長に賛成です。


 規制庁にせよ、原子力安全委員会にせよ、新しい法律を
 定めるわけでもなく、安全宣言も示されていません。


 福島第一原発事故の本当の原因すら迷走している始末です。


 そんな政府のもと、原子炉を再び運転するのは確かに危険ですし
 賛成できません。


 いま政府の事故調査委員会が、菅直人前首相や枝野経産大臣などを呼び、
 調査をしているそうですが、現実を知らない人たちが当時の週刊誌や
 新聞を読みながら質問しているだけで、全く事実をカバーしていません。


 率直に言えば「でたらめ」だらけです。


 枝野経産大臣などは菅前首相の責任を口にしているそうですが、
 そもそもあの3月11日からの1ヶ月を振り返ると、本当の問題点は
 「日本が無政府状態」にあったことだと私は思っています。
 
 菅前首相がどうこう言うよりも、日本政府が自らの判断ではなく
 米国政府からの圧力に屈していたということを重く見るべきです。
 
 「首都圏全体から避難勧告を」「浜岡原発を停止」など、
 明らかに米国の強い意向でしょう。
 
 およそ1ヶ月の間、無政府状態にあったという事実が、今の日本という
 国を知る上で極めて重要だと思います。
 
 無政府状態だったが故に、現場に全ての対処が
 任されていたというのが実態です。
 
 菅前首相を一人だけ「悪者」にしてしまえばいいという問題ではありません。
 
 枝野氏・海江田氏も、当時「官房長官」「経産大臣」としての役割を
 きちんと果たせていたかと言えば、お粗末極まりなかったと
 私は言いたいところです。
 
 今の事故調査委員会は単なる「3面記事」ショーを作っているだけです。
 
 最低でもそれぞれの人間の役割を理解し、その上で調査を
 進めて欲しいところです。
 
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 ▼ 高所得者の子供は親を扶養する義務がある?
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 全国で209万人が受給する生活保護費の適正化に向けて政府が動き出しました。


 小宮山厚生労働相は25日、経済的な余裕がある受給者の親族に保護費の
 返還を積極的に求める考えを表明しました。


 また返還に応じなかったり、扶養を拒んだりした場合、法的手続きを
 取る方針で、支給水準の引き下げも検討するとのことです。


 生活保護の受給者数の推移を見ると、この十数年うなぎのぼり状態です。
 総額も2兆5000億円と言われていますから、当然馬鹿にならない規模です。


 また受給者のうち、本来受給対象にならない人が「偽装離婚」などに
 よって受給しているといった実態もあります。


 特に受給者の多い大阪市では、生活保護の「不正受給Gメン」を配置し、
 実態の把握に乗り出しています。


 国民背番号制度など、国民の実態を把握する仕掛けがなく、
 透明性に欠けるというのが基本的な問題だと言えるでしょう。


 ただ今回のニュースに関して言うと、お笑い芸人の河本氏が
 「高所得者の息子が親の扶養をしないのはおかしい」ということで
 槍玉に上がっているようですが、私は不思議に感じました。


 親族の扶養義務が民法で定められていますが、実態として生活保護の
 適用は申請者自身が困窮しているかどうかで決められているからです。


 親も子も独立していて生活拠点も違うのであれば、お互いに
 「独立した大人」なのですから、それぞれ別々に考えるのが筋だと思います。


 もし仮に「高所得者の子供は親の扶養義務がある」というような
 法律があるのなら、その場合には「税金の還付」くらいあっても
 然るべきではないでしょうか。


 通常親を扶養するといった場合には、所得税などの税金を収め手元に残った
 現金から「仕送り」として送るということになると思いますが、
 これを義務とするなら扶養控除などと同様に所得控除を受けられると
 いった配慮がなければ、おかしな議論になります。


 このような議論もせずに、いきなり
 「金持ちなんだから扶養しないのはおかしい」というのは
 どこか間違っていないでしょうか。


 ちなみに、この議論を進めていくのなら、他の国々の対応策は
 参考になります。


 生活保護費を「お金」で支給するのではなく、「食料品」を買える
 スタンプを配布するなど、現金以外の支給方法によって
 不正受給などを防ぐ方法があります。


 また消費税率のアップにともなって、基本的な食料品の料金も
 値上がりしてしまうと金銭的に厳しいという人もいるでしょうから、
 生活保護費の代用として食料品の消費税率だけを下げるといった
 方法もあります。


 これは以前から私が提唱している方法です。


 生活保護という制度についての議論も、本質的な問題がどこにあるのかを
 考えると「お金を支給する」「不正受給を取り締まる」「金持ちは扶養せよ」
 という次元ではなく、より視野の広い政策案が出てくるはずだと思います。


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